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第24話 支援魔術師、出世した教え子と出会う!

 地下水道の調査から三日が過ぎた。


 その間、俺はミアたち近衛騎士に支援魔術を教える傍、足りない薬草を集める依頼などをこなし過ごしていた。


 エレナのおかげで、強力な魔物が攻めてくるという話が帝都と帝国全土に広まった。

 その結果、冒険者や各地の衛兵がダンジョン攻略や魔物討伐に皆精を出すようになり、宮廷魔術師の詰所には大した依頼がこなくなっていたのだ。


 おかげでミアたちに支援魔術を教えられている。

 ミアはまだ扱える魔力が少ないが、どうにか【加速】を使えるようになった。気持ち速く動けるようになったらしい。


 意外だったのが、ルーナだ。ルーナも俺の支援魔術に興味を示し、真似しているところも見えた。まだ効果は大したことがないが、いずれ俺すらも凌駕するだろう。


 と、俺は非常に充実した日々を送っていた。


 そして今日は、近衛騎士団の団長が凱旋する日。帝都の城門から大通りを行進して宮廷に向かうそうだ。


 ミアたち近衛騎士は当然、団長を出迎えにいく。城門で迎え、行進に加わるらしい。


 せっかくだから俺とレイナ、ルーナも凱旋式を見にいくことにした。


 大通りに着くと、たくさんの人が歩道を埋め尽くしていた。団長たちが通る中央の馬車道には市民が入らないよう、衛兵たちが立哨している。


「おお。すごい人だな」


 あたり一体人だらけ。

 皆、近衛騎士団長を一目見ようとやってきているのだろう。


 レイナが呟く。


「近衛騎士団長の人気は凄いですからね。特に女子たちに凄い人気で」

「へえ。シェリカとアネアも言ってたけど、色男ってことか」

「私は先生以外の男なんて格好いいとは思えませんけどね」


 レイナの笑えない冗談はおいといて、見た目だけじゃなく腕も確かなのだろう。


 団長が落とした東の古城のダンジョンは、Sランク冒険者たちが半年挑んでも落とせなかったという。それを三日あまりで落としたというのだから見事なものだ。


 ルーナが呟く。


「アインハルト男爵家の長男アルノ。七年前に入団してから、瞬く間に各地で活躍……一昨年には前団長との決闘に勝利し、自ら団長になった。その後団長としても名声を上げつつ、近衛騎士団の改革を進めた。どこぞのおっさんとはえらい違いね」

「ルーナ。先生に謝りなさい」


 レイナの冷めた声に、俺は慌てて答える。


「まあまあ! 実際、本当のことだし……」


 冒険者を辞めて十年、ずっと魔術大学でヒラとして働いてきた。足元にも及ばない経歴だ。


 そんな俺を見て哀れに思ったのか、ルーナは焦るように答える。


「べ、別に馬鹿にしたわけじゃないわよ。あんたはあんたでいいじゃん」

「ルーナ……ありがとう」


 やがて軍楽隊の行進曲が響いてくる。人々が負けじと歓声を向ける先には、白馬に乗った灰色の髪の男がいた。


 おお……男の俺が見ても色男。年は二十前半ぐらいだろうか。顔立ちがシュッとして、目がキリッとしている──うん?


 俺は思わず目をパチクリさせる。


 レイナが不思議そうな顔で訊ねてくる。


「先生、どうされました?」

「あ、いや。多分人違いだ」


 昔、教え子にそれは格好いい男子がいた。

 レイナと同じように熱心に俺の授業を聞いてくれた子だ。槍がすごい好きだからよく稽古にも付き合った


 懐かしいなあ……確か名前はアルノと言ったか。


 うん? アルノ?


 急に周囲からキャアと声が上がる。


「アルノ様がこっち見てる!」

「きっと私だわ!」

「いいや、私よ!」


 女性たちの黄色い声。アルノの視線にやられてしまっているらしい。


 なんとなくだが俺のほうを見ているような……うん?


「きゃあ、こっち見てるわ!!」

「嘘、嘘、私息止まっちゃいそう!!」


 いよいよ叫び出す周囲。アルノがこちらに馬を進めてきたのだ。


 アルノは近くで馬を降りると、従者に馬の手綱を任せ、こちらへスタスタ歩いてくる。


 そして──俺の前に跪いた。


「──先生! こんな場所でお会いできるとは!!」

「あ、アルノ?」


 人違いなどではなかった……近衛騎士団長アルノは俺の教え子アルノだった。


「なんなの、あのおっさん!?」

「アルノ様のお兄様とか?」

「うそ! 全然アルノ様に似てないのに!」


 騒めきだす周囲。女性たちの刺すような視線が痛い。


 そんな中レイナが呟く。


「まさか……アルノさんも先生の教え子だったとは」

「身分を隠していましたからね……でも、もう偽る必要はない」


 アルノはそう答えると立ち上がって俺の目をまっすぐ見る。


「先生。俺はこの国の騎士のトップになりました。先生の支援魔術のおかげです」

「アルノ……」


 元々武芸に秀でた子とは思っていたが、まさか近衛騎士団の長になるとは……!


「立派になったなあ……ただ、少し小っ恥ずかしいというか」


 大通り中の人々が、俺に不審の目を向けている。


「これは……つい興奮してしまいました。俺は一度陛下にご報告をして参ります。あとで本部に来てください!」

「わ、分かった」


 去っていくアルノ。


 ルーナが声を上げる。


「あ、あんたあのアルノの先生だったの?」

「ま、まあね。もちろん俺に剣術を教える能力なんてないから、支援魔術を教えただけだけど……」


 レイナはアルノの背中を見て、一人納得するような顔で呟く。


「若くしてあの強さ。不思議に思ってましたが、私と同じ教え子なら納得ですね。でも」

「でも?」


 ルーナが訊ねる。


「今でこそ廃止されましたが、近衛騎士団にはかつて魔術を用いてはいけないという掟があったのです」

「はあ? 変な決まりね」

「魔術に頼れば、体の鍛錬を怠る、といったところでしょう……とはいえ、魔術は強力。禁止は合理的ではない。父の代で廃止されましたが、いまだにその掟を美徳とする者が多い。アルノさんを嫉妬する者も多いと聞きます」

「なるほど。若くして団長だし……なんか敵多そう。言われてみれば、さっきからずっと苦々しい顔の連中いるしね」


 ルーナのいう通り、アルノの後ろに続く近衛騎士の中には不機嫌そうな者たちがいる。


「アルノ……」

「先生。アルノさんもきっと先生と話したいことがいっぱいあるはず」

「私とレイナは先に詰所に戻っているから、近衛騎士団の本部行ってきなよ」

「二人とも……ああ」


 そうして俺は近衛騎士団の本部に向かうことにした。


 すると、そこにはアルノ始め近衛騎士団の面々が集まっていた。何やらアルノが演説しているらしい。


 取り込み中かな……あっ。


 ミアがこちらに気が付いたのか手を振ってくる。


 すると、アルノもこちらに気が付いた。


「先生! ちょうどよかった! こちらへ!!」

「お、おう! じゃなかった……はい!」


 今のアルノは近衛騎士団長。ヒラの宮廷魔術師より偉いはず。


 すぐにアルノの近くへと走り頭を下げようとするが、アルノは俺の両手を取って言う。


「止めてください、先生」

「だ、だけど」

「先生、それよりもお願いがあるのです」

「お願い?」

「はい……どうか、近衛騎士団の魔術顧問になっていただきたいのです!」


 アルノは深く頭を下げて言うのだった。

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