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第23話 支援魔術師、教え子が増える!

 地下闘技場でリゴルスを倒した俺たちは、その後商館を調査した。


 分かったのは、商館の持ち主であるカジェル商会が魔物に操られていた……というわけではなく、リゴルスが彼らを利用したこと。


 リゴルスはカジェル商会が魔物を攫っているのを見て、自身も帝都に潜り込もうと考えたのだろう。そこでダンジョンを造り、時が来たら外と呼応し帝都の中から人々を殺すつもりだったのだ。


 あとは、カジェル商会が元副師団長ベーダンと親交が深かったことが判明した。


 ベーダンによって地下水道の衛兵や見張りの一部が買収されていたらしい。真面目にやっていればいいのに、お偉いさんのやることはよく分からん……


 ともかく、リゴルスの他にも魔王ギスバールの配下が動いているのは明白。どうにも落ち着けない状況だ。


 だが今は──別の意味で落ち着けない。


 商館の調査後、俺はレイナやミアたちの誘いで夕食を共にすることにした。場所は以前ルーナが教えてくれた浴場一体型のお店。


「やっぱ魔術師ってすごいなあ。私も魔術の才能があれば」

「鎧で汗臭い女なんて、誰も振り向かないものねえ」


 テーブルを挟んで向かいの席で、近衛騎士の二人……シェリカとアネアが語り合っている。


 短い青髪の子がシェリカで、長い緑髪の子がアネア。二人ともミアと同じく最近近衛騎士団に入団したらしい。騎士だが化粧には気を遣っているようで、今時の若い子という感じだ。


 そんな二人は、先ほどからルーナを褒め称えている。


 一方のルーナは何故か少し自信なさげに答える。


「ま、まあ、私からすれば朝飯前よ」

「あなたはいいところを持っていっただけでしょう」


 先ほどから不機嫌そうなレイナはそう答えた。ルーナはバツの悪そうな顔だ。


「レイナ、今日はお疲れ? ほら、いっぱい食べて」


 ミアはそんなレイナの機嫌を直そうと先ほどから盛んに食事を勧めている。


 ……と、つまり俺は女子五名と共にテーブルを囲んでいる。どう考えても場違いで、いたたまれない。何を話せばいいかもわからないし。


 というか、今日の俺、ダメダメだったなあ──


 一方のレイナはめちゃくちゃ格好良かった。ルーナの魔術もやはり別格だし、ミアはじめ近衛騎士たちも頑張っていた。


 レイナがあれだけチャンスを作ってくれているのに、全く格好いいところを見せられない。レイナがちょっと不機嫌なのはきっとそのせいだろう。


 やっぱり俺は宮廷魔術師としての力量に欠けるのかも。


 ……いや、ここでへこたれてどうする。


 挽回するチャンスはあるはずだ。レイナに流石って思われるよう頑張らないと。


 ペシペシと両手で自分の頬を叩く。


 するとレイナが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「先生……大丈夫ですか?」


 俺は元気良く答える。


「ああ! 明日からも頑張る!」

「は、はい。レイナも先生を精一杯お手伝いしますね」


 笑顔を向けてくれるレイナ。俺の不甲斐なさにもかかわらず、本当にレイナは優しいな……


 そんな中、シェリカがこんなことを呟く。


「そういや、明後日にも騎士団長帰ってくるんだっけ」

「うん。東の古城にできたダンジョン、無事に攻略できたんだって」


 アネアもそう答える。


 どうやら近衛騎士団の団長が帝都に戻ってきたらしい。


 シェリカとアネアはうっとりとした顔で呟く。


「団長……本当にかっこいいよね。私、あの人と仕事したくて、試験合格できたようなもんだし」

「私も。自ら地方まで行って選抜試験を行うんだからすごいわ」


 地方まで出向いて自ら選抜か。人材発掘に熱心なんだろうな。


 シェリカがミアに問う。


「ミアもぶっちゃけ団長のこと好きっしょ?」

「うーん。憧れの存在だけど、あたしは違うかなあ」

「そっか。ミアはおっさん好きだったものね。団長はお子様すぎるかしら」


 アネアがニヤついた顔で言うと、ミアは顔を真っ赤にする。


「ち、違う! というかそもそも、団長には奥さんいるでしょ!」


 恋ばなしか。年相応というか、懐かしいな……


 そんな中、レイナがシェリカとアネアにこう言った。


「そういえば、二人とも。ところで、先生の支援魔術を学ぶという話は?」

「あ。私、受けたい」

「私も! あの体が速く動くやつ、すごかった」


 思わず唖然としてしまう。

 俺の支援魔術を……学びたい?


 興味を持ってくれただけでも嬉しいのに、学びたいとは……

 思わず目が潤んでしまう。


 しかしミアがこう答えた。


「ちょ。そんな簡単じゃないんだから。そもそも二人とも全く魔術使えないでしょ。先生教えるの大変じゃ」

「あ、気にしないで! しっかりそこは教えるから」


 そう答えるが、レイナが口を挟む。


「いえ。先生お一人では大変でしょう。だから、二人にはルーナに魔術の基礎を教えてもらいます。先生は支援魔術を」

「な、なんで私が!?」


 ルーナは顔を赤くして声を上げた。


「あなたもいい勉強になるでしょ。人に何か教えることで見えてくるかもしれないし、分からなければ先生に聞けばいい。闇雲に魔物を倒したって強くなれないわよ」

「……」


 ルーナは黙って、ゆっくりと俺に目だけを向ける。


 それからすぐにふいっと顔を背けた。


「ま、まあ私にとっては何か教えるぐらい楽勝よ! そこのおっさんが変なこと教えないかも気になるしね!」

「本当素直じゃないわね……ということで先生、このルーナ含め、無理のない範囲でご指導をお願いできますか?」


 一気に教え子が……!

 これはますます落ち込んでいられない。


「ああ! じゃあ、今から教本作ってくる──あっ」


 膝に痛みが走る。突然立ち上がったせいだ……


 レイナは目にも留まらぬ速さで立ち上がり、俺の体を支える。多分【加速】を使ったのだろう。


「先生! 大丈夫ですか!?」


 そんな大袈裟なと言いたくなるような深刻な顔でレイナは言った。


 ミアはそんなレイナに一瞬驚いたが、すぐに席を立って片側を支えてくれる。


「と、トールさん、お怪我でも?」

「だ、大丈夫。足が少し痺れていただけ。今日は風呂入ったら、ここの宿借りるから」


 そう答えるが、レイナは尚も不安そうな顔で言う。


「でしたら私も部屋までご一緒します」

「いや、本当に大丈夫。レイナも皆もゆっくりしていってくれ」


 そう答え、足早に席を去っていく。


 ……やらかした。昔のようにはもう動けないから、体には気を遣わないと。


 後ろへ振り返ると、そこには楽しそうに談笑するレイナたちがいる。


 ……皆に負けないように、明日からも張り切らないなと。


 決意を新たにした俺は、風呂を上がって急ぎ教本を完成させるのだった。

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