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第18話 支援魔術師、迷子を捜す!

 装備を新調した翌日。


 俺は今日も宮廷魔術師の詰所に来ていた。


 さっそく、依頼がないか見に行く。


「昨日は一日ほとんど何もしなかったからな、今日は頑張るぞ!」

「なんだかんだ鎌を溶かしたり、先生も動いたじゃないですか。装備の点検や新調も立派な仕事ですよ!」


 隣を歩くレイナがそう言った。


「そう言われるとそうだな」

「先生は仕事しすぎです! 他の宮廷魔術師たちを見てください。皆、朝から遊び呆けているじゃないですか」


 レイナの言う通り、今日もテーブルを囲んで何かしらの遊びに興じる宮廷魔術師たちがいた。


「まあ、それだけこの国が平和ってことだ」

「……誰がもたらした平和かも知らないで」


 レイナは珍しく不機嫌そうに呟いた。


「まあ、そのおかげで俺たちが選べる仕事も増えるんだ……今日はどんな感じかな」


 掲示板を見ると、昨日よりは仕事が多くなっていた。


「おお。結構残っているな」

「朝貼り出された依頼が多いですね」


 ここ数日はルーナが依頼を搔っ攫っていったというが、今日は休んでいるのかな。


 少し気になり、近くのカードゲームをしている宮廷魔術師たちに声をかけてみる。


「今日は依頼が多いんだな」


 宮廷魔術師たちは顔も向けず応える。


「ああ? ああ。まだ今日はルーナが来てないからな」

「あの依頼に手間取っているんじゃないのか? カルゴ森林に逃げた大型の魔物の」

「カルゴ森林は広いからな。一人だし、もしかしたら遭難しているのかも」

「まさか。あの気性なら、森を焼き払ってでも出てくるだろ」


 どうやらルーナはカルゴ森林という場所にいるらしい。


 レイナが俺の隣で呟く。


「カルゴ森林。帝都の北にある大きな森林ですね。帝都への重要な木材の供給地となっています。地元の者でも遭難するような森ですが」

「心配だな……いや、余計なお世話か」


 相当な魔術の腕だった。魔術で飲み水や火は心配ないし、ある程度保存食も持っていると思うが……


 ここ数日、依頼を受けまくっていると聞いた。体力もだいぶ損耗しているかもしれない。


「ちょっと、見てこようかな……」

「ふふ、先生はやっぱり心配性ですね」

「誰でも一人で森なんて危ないよ」


 レイナはこくりと頷く。


「仰る通り、一人での行動は危険です。何もなければそれでいいわけですし」

「よし。それじゃあカルゴ森林へ行こう」


 そうして俺たちは、帝都の北にあるカルゴ森林へ向かうことにした。


 カルゴ森林に入るには、周辺の村にある林道を使うのが一般的らしい。


 俺たちが向かったのは、帝都から一番近い村。

 そこの村人の情報によると、昨日の昼過ぎ、確かにルーナらしき人物が森に入ったという。


 となれば、林道になにかしら手がかりが残されているはず。


 俺たちは林道を進むことにした。


 森林のなか、踏み固められた土の道を進んでいく。道には伐採道具や切り出した丸太が放置されていた。


 レイナが周辺の様子を見ながら続ける。


「あわてて逃げたのでしょう。ルーナが調査している魔物を恐れ、周辺の村人はここ一週間、カルゴ森林には入っていないようです」

「他に人がいないなら、ルーナを見つけやすいかもな」

「はい。ですが、この森林にはゴブリンも少なからずいます。少し紛らわしいかもしれません」


 ゴブリンは人間と同じく二足歩行する魔物。たしかに魔力だけでは見分けがつかない……いや、ルーナの集める魔力は膨大だ。すぐにわかるだろう。


 やがて俺は、道の途中で地面に残る魔力の跡を見つけた。魔力のバツ印が付けられている。


「これは、魔力の粉か。森の中にも何か所かあるようだ……なるほど」


 ルーナも何もしないでただ森へと入るほど愚かじゃない。こうして魔力の反応を残し、自分が通ってきた道を分かるようにしているのだ。


「これを辿っていけばルーナのところへ行けそうですね」

「ああ。走っていこう」


 自分の足に【俊足】をかける。【加速】は戦闘時だけにしないと負担が大きすぎるのでかけない。


 レイナも自分で同じように【俊足】をかけると、二人でルーナの置いた目印を頼りに走り始めた。


「まっすぐ北へ向かっていますね」

「ああ。まずは森林の中央へと向かったんだろう」


 だがやがて、直線だったのが急に目印が右へ逸れる。それからぐるりと、周回するように目印が続いた。


 おそらくは敵を見つけ、窺うように周囲を移動していたのだろう。


 と思うと、また直進していく。


 敵を追いかけたか……


 やがて、魔力の粉の目印が途絶えてしまうと、開けた場所に出る。


「ここは……」


 そこは森林の中にある焼け野原だった。家が十数件は建てられそうな広さに、灰となった草木が無残に倒されていた。


「ルーナと調査対象の魔物が戦った跡でしょう、ね。ルーナも魔物も見当たりませんが」

「やられたわけじゃなさそうだな……ただ、あっちに血が続いている」


 森へと赤黒い血が続いている場所があった。ちょっとした小川のような血の量。これだけの出血をしたら人は死ぬから、人間のものではなさそうだ。


「手負いの魔物が逃げたか」

「行きましょう」


 俺たちはその場に向かって進んでいく。


 しかし魔力の粉は見当たらない。


 レイナもそれに気が付いたのかこう口にする。


「目印をつけるよりも追撃を優先したのでしょうね。まだまだ甘いというか」

「あと一息だったのに、ってところだろうな」


 確かに仕留められるのに越したことはない。


 ただ、相手が単体とは限らない。魔物が仲間のいる場所まで逃げることも考えられる。危険な行為だ。


 やがて森をしばらく進んでいくと、最後の手掛かりである魔物の血だまりも消えてしまう。


「……手がかりが途絶えましたね」

「そうだな。もしここから魔力の粉を落としても、先ほどの道とはつながっていない……」

「遭難、ですね」


 レイナも周囲を見て言った。


「だが……ルーナが生きているなら、手はある」

「手?」

「ルーナは魔力の動きをおそらく精密に見て取れる。だから」

「なるほど、魔力を発するわけですね」

「そういうこと。向こうが気が付けば、魔力を発してくるか、こちらにやってくるかもしれない」


 俺はさっそく周囲に魔力を発する。間をおいてもう一度、さらにもう一度と絶え間なく魔力を放出した。


 するとやがて、こちらへ一直線に魔力が返ってくる。


「気が付いたか」


 魔力が発せられたほうへと急ぎ向かう。


 数分走ると、木の根元に寄りかかる少女──ルーナを発見した。


「ルーナ!」

「あ、あんた!?」


 青白い顔をしたルーナは、俺を見て驚いていた。


 だが、すぐに腹を抑える。


「っ!」

「大丈夫か? まさか怪我を!」

「べ、別に大丈夫よ! ほ、放っておいて!」


 そう訴えるルーナ。

 確かに外傷があるわけではなさそうだ。


 おそらくだが……付近の焚火に立てかけられた串刺しのキノコ。あれを食べて当たったのかも。


「……【自然治癒】をかけさせてくれ」

「か、回復魔術は自分でかけたから──あっ」


 険しかったルーナの表情が柔らかくなる。どうやら多少は楽になったらしい。


 ルーナは小声で呟く。


「ありがと……」

「どういたしまして」


 そう答えるとルーナは慌てて立ち上がり顔を背けた。


「ちょっと休んでただけよ! なんであんたたちがこんな場所に?」


 レイナが「あなたの」といいかけたところで、俺も口を開く。


「たまたま通りかかっただけだ」

「そ、そう。た、たまたま、なのね」


 子供扱いされたくないだろう。同じ失敗はもうしないはずだ。


「じゃ、じゃあ私は依頼があるから。邪魔しないでよ」

「分かった。ところで何と戦っているんだ?」

「別に──うん?」


 ルーナがある方向へ顔を向ける。


「この音──」

「魔物か」


 バサバサと、空のほうから音が響いてくる。


「こいつは──」


 空を見上げると、そこには赤い翼を生やしたドラゴンがいるのだった。

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