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第17話 支援魔術師、教え子と一緒に装備を新調する!

 Cランクダンジョンを攻略した翌日の昼。俺は自室にいた。


 今日もレイナの声が響く。


「先生、お疲れ様です」


 特に何か動いたわけじゃないが、俺は先ほどまでミアに魔術を教えていた。


「いや、全く疲れてなんてないよ。むしろ魔術を教えるのは楽しい」


 むしろ教え足りなかったぐらい。しかもしばらくは支援魔術というより、魔力に関して教えることになりそうだ。


「ミアももっと学びたがっていましたが近衛騎士の任務がありますからね。あっちは巡回や警護とか結構駆り出されますから」

「宮廷魔術師とは偉い違いだね……それじゃあ、俺も依頼を見にいくとするか」


 宮廷魔術師の詰所に向かう。


 掲示板には、昨日と同様あまり依頼が残っていない。


 同じく掲示板を見る宮廷魔術師たちが話している。


「今朝のサイクロプス討伐依頼、やっぱりもうないか」

「皆が迷っている中、ルーナが掻っ攫っていったよ」


 ルーナがすごく頑張っているようだ。ちょっと体力が心配だが、あれほどの魔術師だからな。


「駄目か。近衛騎士団のほうも見にいくかな」


 そう呟くと、レイナがこう提案してくる。


「先生。昨日は私が休ませていただきました。今日は先生もお休みを取られては?」

「でも、まだ二日しか働いてないからな」

「では、昨日得た戦利品の処理を考えてはどうでしょうか?」

「ああ、そういえば」


 ヴェルガーの命令で、近衛騎士たちが戦利品を宮廷魔術師の倉庫に運んでくれたのだ。


 ああいう戦利品は量が多いため、普通の冒険者は取捨選択して持ち帰ることになる。そういうこともあって、大量の戦利品を異空間へ収納できるアイテムバッグなんかも高値で取引されていた。


「デスイーターの鎌や黒いローブ、リビングアーマーの武具、ウィスプを中心とした遺灰。売ればすごい高くなるよな」


 デスイーター以外はミアと分けたが、デスイーターの素材は俺が貰うことになった。ミアはダンジョンコアから石を得たので、それは受け取れないと固辞した。


 レイナが頷く。


「あるいは、これらの素材から新たな装備などを作ってもよろしいのかなと」

「名案だ! このローブもボロボロだったし」

「ふふ、そうだと思い、ローブのデザインを考えてみたのです」


 そう言ってレイナは、近くのテーブルにノートを置いて開く。


 ノートには黒いローブを羽織った男が精密に描かれていた。俺のような俺じゃないような、精悍な顔立ちをした男がそこにいる。


 中には手を構えた時の戦闘場面も描かれており、ローブのはためき具合まで分かるようになっていた。


 思わず息を呑む。


「レイナ……本当に多才だな」

「モデルの先生が色男だからです」

「はは、色男なんて面白い冗談だ……ってこれやっぱり俺なんだ」


 だいぶ美化されているが、体格などが精密なためとても参考になる。


「ローブというよりは、どちらかといえばコートに近いですね。走っても裾を踏まないようにできています。内ポケットの数などもご確認ください」

「すごい機能的だ……レイナ、とてもいいデザインだよ」

「ふふ、ありがとうございます。あとは、遺灰が大量にありますから、ローブの染料にすることで魔術を記憶させることもできそうですね」

「もともとデスイーターの布には魔術耐性があるからな」


 魔力を帯び、魔術による攻撃を阻害する。


「さらに頑丈にする【鉄壁】と、魔力の吸収を上昇させる【魔吸】でもかけようかな」


 俺の言葉をノートに書き写してくれるレイナ。


 やがてこう口にした。


「これでいくとなると、四着は仕立てられるかなと思います。替え用にいいですね」

「それなら……もう一着分の布はレイナが使ったら?」

「私は昨日、何もしてません。それは流石に」

「交換用なんて贅沢だし、置いていたらもったいない。俺は一着でいいよ。洗濯も乾燥も、支援魔術なら十分もあれば終わるんだから。それに……レイナにも安全でいてほしいというか」

「先生……分かりました……! ならば私のも作らせていただきます!」


 ノートにばばばっと筆を走らせるレイナ。そこには俺のローブの意匠と似たローブを着るレイナがいた。


 いや、そもそも宮廷魔術師たちは皆、黒やら紫系の服を着ている。何もおかしいわけじゃない。


 レイナは描き終えたのか満足そうな顔をすると、さらにこう訊ねてきた。


「では、次は鎌はどうしましょう?」

「鎌か……これも魔術耐性がある。やはり刀剣にするのがベストかな」


 レイナはメガネをクイっとあげるとノートを捲る。


「そう仰るかと思いまして、そちらも考えておりました。まずは剣、刀からご覧ください」

「おお! めっちゃ格好いいじゃん!」


 俺はその後も、男心をくすぐられるようなレイナの刀剣のデザインを見ていった。


 そうしてデザインが決まると、デスイーターの布を仕立て屋に、鎌を鍛冶屋へと持っていくことにした。


 ローブ二着と、剣が二振り。遺灰を中心にだいぶ素材が余ったが、残った素材はまたいつか使おう。


 まずは仕立て屋。魔術や魔道具を駆使するお店だそうで、夜にも仕立てが終わるという。


 仕立て屋を後にした俺たちは、鍛冶屋へと向かったのだが……


「お二人ともすまぬが……」


 白髪の老人──鍛冶屋の主人は後ろの工房へと振り返る。


 そこでは職人たちが滝のように汗を流しながら、デスイーターの鎌の刃に金槌を振るっていた。


 普通、ああいうのは熱で赤くなった金属を打つと思うが、鎌は黒いまま。


 主人は続ける。


「あの鎌、魔界の魔王鋼でできておるようじゃ。ワシの工房の炉や魔術師の炎では、溶かせられん」

「となると」


 レイナの声に主人は頷く。


「うむ……手前味噌ながら、ワシの工房は職人も魔術師も炉も、帝国……いや世界一と自負しておる。他の工房でも溶かせんじゃろう」

「相当な炎魔術の使い手でなければ溶かせない、というわけですね」


 どうやら、鎌を溶かすのに難儀しているらしい。


 今どうしているか分からないが、ギベルドクラスの魔術師でないといけないのかも。


 と思った矢先にレイナがこう呟く。


「ギベルドが百人いても厳しいでしょう。先生、剣は諦めますか?」

「そう、だね。ただ、一つやってみたいことがある。工房に入っても?」


 俺が問うと、主人は首を縦に振ってくれた。


 そうして金属を熱する煉瓦造りの炉に近づく。


「【魔撥】──」


 炉の外側に魔力の吸収を阻害する【魔撥】をかけ、付近の職人にこう頼む。


「このまま炉に鎌を入れていただけますか?」

「え? 魔術は」

「魔術は要りません。逆に邪魔になる」


 首を傾げる職人たちだが、俺の言う通り鎌を炉に入れてくれる。


 俺はその後、魔力の塊であるウィスプの遺灰に【炎纏】をかけて炉に投げ込んだ。


「炉の扉を閉めてください」


 職人たちは言われたように炉の扉を閉めた。


 それから俺は、炉の周囲に隙間が生まれないよう、【魔撥】をかけ続ける。


 職人たちは訝しむように炉を見ている。


「お兄さん……悪いが、こんなんじゃ溶けないと思うぞ」

「何度やっても同じさ」


 しかし、レイナは短く呟く。


「いや……そろそろ開けてみては?」


 その言葉に、職人の一人が炉を開く。


 すると、


「か、鎌が赤くなってる!?」


 炉の中の鎌は赤みを帯びていた。


 レイナがメガネを位置をクイっと直しながら解説してくれる。


「炉の中への魔力の供給を阻害し、鎌の魔術耐性に必要な魔力を与えない。そこに、ウィスプの遺灰にかけられた【炎纏】が熱を送る……」

「昔、生徒と実験でやってみたのを思い出したんだ……これで打てますかね?」


 俺が言うと、職人は早速炉から鎌を取り出し、金槌で打ち始める。


 すると鎌はみるみる内に平たくなっていった。


 職人は顔を明るくする。


「すげえ! こんな製法があるなんて!」

「ううむ。昔同じことを何度か試したが」


 鍛冶屋の主人は首を傾げていた。何か条件が異なっていたのかもしれない。


「兄さん、また炉に入れるから頼む!」


 それから俺は、デスイーターの鎌に熱を送る作業を手伝い続けた。


 やはり刀剣を作るの大変だ。俺も夕方まで手伝うことになった。


 しかしそのおかげで──


「おお……めっちゃ格好いい!」


 光沢のない黒い刃……光すらも反射させない黒い剣だ。

 鎌が大きいため、レイナのためにも一本作ってもらった。


 俺は剣を、デスイーターの鎌の柄でできた鞘に納める。


「ありがとうございます」

「こちらこそ、希少な金属を打たせていただきありがとうございます! また、お越しください」


 主人に金貨を支払い、店を出る。


 すでにローブは完成しており、レイナに取ってきてもらっていた。早速二人で羽織っている。


「おお、とっても暖かい」

「自分で言うのもあれですが、動きやすくできましたね」


 互いにローブの着心地を確かめる俺とレイナ。


 するとレイナがこんなことを口にする。


「これで先生とお揃いですね」

「言われてみれば……レイナ、嫌じゃない?」

「そんなわけありません! むしろ毎日、いや寝る時もこれを着たいぐらいです!」

「そ、それはちょっと……」

「なんで少し引いているんですか?」


 頬を膨らませるレイナ。


 何はともあれレイナは喜んでくれたようだ。


 装備も新調したし、明日からも頑張ろう!


 そう意気込んでいると、レイナが俺の裾を引いて言う。


「先生。今日も市街でご飯食べていきましょう。美味しい麺料理のお店があるんです」

「お、いいな」


 そうして俺はレイナおすすめの麺料理屋へ行くことにした。暖かい魚介のスープに細い麺が絡む美味しい麺料理だった。

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