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第15話 支援魔術師、ダンジョンボスを剣で仕留める!

「デスイーター!? Bランクダンジョンに出るような魔物じゃ」


 ミアは盾を構えながらも、額から汗を流す。


 確かに強力な魔物だ。

 手にしている大鎌の一振りは重く、一方でその見た目に似合わず速い。羽織っているボロボロの黒いローブは魔術への耐性がある一方、本体には物理攻撃が効かないときた。


 対する俺たち。

 俺は支援魔術が得意で、ミアは防御が得意。まずローブを斬る必要があるが、近接攻撃が得意な者がいない今、相性としては最悪だ。


 しかもこいつは死者の魂と遺骸を喰らうことでさらに力を増していく。


 死んだとされる二十名の冒険者の遺体は、こいつに全て食われたんだろう。それだけ、力を蓄えているはず。


 だが──倒せない相手じゃない。後ろのレイナの手を煩わせるほどでもない。


 俺はデスイーターを睨みながら、ミアに告げる。


「やつを引きつけてくれるか?」

「わ、分かりました! できれば、以前かけてくださった体の動きが速くなるやつ、かけてくれますか?」


 ミアの息の調子は戻っている。外傷もなさそうだし、もうかけて大丈夫そうだな。


「行きます!」

「ああ!」


 走り出すミアに手を向ける。【加速】と【俊足】でミアは、まるで鎧を身につけてないかのように軽快に走り出した。


 やがてデスイーターが大鎌を振りかぶる。


「ミア、耐えてくれ!」


 ミアが吹き飛ばされないよう【不動】、そしてミアの盾を【鉄壁】で頑丈にした。


 すぐにゴンと大きな音が響いたと思うと、ミアは盾でデスイーターの大鎌を弾いていた。


 身を仰け反らせるデスイーターだが、すぐに大鎌をかまいたちのような速さでミアに振るっていく。


 ミアといえば全くデスイーターの攻撃によろめかない。そればかりか、メイスを振りかぶって反撃の素振りまで見せている。


「足りないのは速度だけ──この子は化けるな」


 と、思わず見惚れてしまった。


 ともかくミアのおかげで容易に隙を突ける。

 ミアへ向けている【加速】の魔力を少なくし、自分に【加速】をかけよう。


 やがてデスイーターは大鎌をミアの盾に振り下ろし、盾ごとミアを潰そうと試みる。


「──今だ」


 俺はリビングアーマーが落とした剣を手にすると、デスイーターへと走る。


「剣は得意じゃないが」


 黒いローブを斬るぐらいなら俺にもできる。


 デスイーターは接近する俺に気がつくと、再び鎌を振り上げようとした。


「させない!」


 しかしすかさずミアが大盾を振るい、デスイーターを鎌ごと仰け反らせた。


「よくやった、ミア!」


 俺はデスイーターの懐に潜り込むと、黒いローブに剣を何度も斬りつけそのまま走り去る。


 黒いローブは大部分が斬られ、何枚かのボロ布となって床に落ちていった。


 こうなれば裸同然。デスイーターの本体である黒靄が露わとなる。


 踵を返し、俺は剣に聖の魔力を纏わせる【聖纏】をかけ、再びデスイーターへと走った。


 デスイーターは大鎌を振り下ろしてくるが──


 咄嗟にミアが間に入って盾で防ぐ。


「トールさん!」

「ああ!」


 ミアの脇を通り抜け、デスイーターの頭に剣を突き立てる。


「GUAAAAA!」


 デスイーターは思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げ、儚く霧散した。粉雪のように青白い遺灰が落ちていく。


「た、倒せた……」


 口をポカンとさせるミア。


 俺も意外だ。本体は魔術に弱いとはいえ、一撃で倒せた。


 レイナも見ているはずだ。


 これで、ある程度は格好つけられたかな──脚攣った!


 格好よく剣を振り回したはいいが、脚を攣ってしまった。


 脚をぴくぴくとさせながら、俺はミアに振り返る。


「あ、ああ。よくやったなミア」

「あ、あたしは本当に何も……全部トールさんのおかげです」

「何を言うんだ。ミアがいなかったら勝てなかったよ。盾の扱い……思わず、見惚れた」

「み、見惚れたなんて!」


 顔を真っ赤にするミア。

 流石に疲弊しきっているだろう。早めにダンジョンから出るべきだ。


「と……まずはダンジョンコアを破壊しようか。早くしないと魔物が召喚されるかもしれない」

「あ、そうだ。私が破壊しますね」

「ああ、頼む」


 ミアは頷くと、奥の部屋へと歩き、紫色の結晶──ダンジョンコアにメイスを振り下ろした。


 すると、ダンジョンの周辺が白い光に包まれる。


 光が収まると、俺たちはウルヴァン村の採石場に立っていた。


 ダンジョンコアが破壊されると、ダンジョンを構成する構造物は消え去り、中の魔物もダンジョンコアの向こうの世界に召還される。元々この世界の生物ではないからと言われている。


 また、ダンジョンにいた魔物以外の生物、ダンジョンにあった魔物の武具や道具などは消え去ったダンジョンの跡地に返される。


 そして破壊されたダンジョンコアの破片の中には──紫色の宝石のようなものがあった。


「綺麗な石……」


 何か特別な力を持つ武具や道具、素材などが入っていたりするのだ。一般に大きく強力なダンジョンほど、価値のあるものが出てくる。これは、そもそもダンジョンコアを作る際に使われた材料とも言われている。

 

 俺は宝石を拾い上げてみる。


「これは……闇魔術が扱える石だ。杖にも使われるし、荷物を異空間へ収納するアイテムバッグを作ったり貴重な素材だな」

「すごい……金貨百枚ぐらいする代物ですよね」

「ああ。自分で使うのもよし、売るのもよしな一品だな。はい」


 ミアへと石を手渡す。


「え? こ、これは受け取れません!」

「そんなわけにはいかない。ダンジョンを攻略した証明は必要だろう」

「攻略なんて……失敗のようなもんですよ」

「仲間に置き去りにされたから?」

「いえ……そもそも今回の仲間に置き去りにされる前から、私は無能の嘘つき呼ばわりされていたんです。今回だってトールさんがいなければ今頃死んでいました。私は近衛騎士に向いていないのでしょう」


 ガックリと肩を落とすミア。なんて自己評価の低い子なのだろう!


「そうかな……あの盾の扱い方。今まで俺が見てきた中でも、一、二を争うほどだった」

「そんな、トールさんほどの方が」

「ミアの考えにどうこう言うつもりはないけど、ミアは強い。それは確かだよ」


 俺の声を聞いたミアは目を潤ませる。


 傷つけるようなこと言ったかな……女の子に強いだの格好いいだの言うべきじゃなかったか?


 すぐに謝ろうとするが、ミアは涙を拭いこう答えた。


「ありがとうございます、トールさん。私もう少し頑張ります」

「そうか……何かあったら言ってくれ。ミアは俺の試験の恩人だ。俺も力になれることがあれば、力になりたい」

「トールさん……本当にありがとうございます」


 頭を下げるミア。


 そこに馬蹄の音が響く。


「うん? あれは」


 音のほうに振り向くと、そこには騎乗した鎧の者が数名と、先ほど逃げたボルダスとその仲間たちが歩きでやってきた。


 先頭の男──ヴェルガーが俺たちの前で馬を止める。


「……無事だったか」

「ヴェルガーさん! す、すいません、私」

「何を謝る。ダンジョンを破壊したのだな。見事だ」


 ミアが私はと言いかけるが、ヴェルガーはミアに手を突き出し、俺のほうに顔を向ける。


「トール殿。近衛騎士を助けていただき、感謝する」

「いや、仕事がなくてな」

「仰りたいことは理解している……今回は団長たちに留守を任された私の未熟さが招いたこと」


 そうは思わないが……

 それに仲間を見捨てるのは、冒険者の時もよく聞いた話だ。まあ近衛騎士ともなると、名誉も絡んでくるのだろう。


 ヴェルガーは片膝を突くボルダスと仲間に目を向ける。


「ボルダス。お前を今日より近衛騎士の任から解く」

「わ、私は! ただ自分の命を!」

「そこは責めぬ。評価は落とさざるをえないが、それは違う。だが、先ほど私たちにミアを見捨てたことについて嘘を吐いたのはどう説明する? 上官への虚言は重大な規則違反だ」


 ボルダスはぐぬぬと口を噤む。


 ヴェルガーは他の二人に顔を向ける。


「お前たちは正直にミアが残されていることを報告した。解任はしない。トール殿とミアが得た魔物の遺品や素材は、お前たちが宮廷に持って帰れ」

「は、はい!」


 その場をトボトボと去るボルダスと、ダンジョンの遺物を回収する近衛騎士。


「トール殿。あれは持って帰らせる。また正式にお詫びさせてくれ」

「どうかお気遣いなく」

「それではまた……時間があれば手合わせを願いたい」


 そう言うとヴェルガーは他の近衛騎士と去っていった。


 ミアが嬉しそうに言う。


「ヴェルガーさんも来てくれたんだ……」

「不器用そうだけど、優しい人だな」

「私だけじゃなく、皆にそうなんです。団長も団員の危機には良く駆けつけてくれるそうで。ヴェルガーさんも団長も若いのにすごいなあ」


 部下からも慕われている。ヴェルガーもそうだが、きっと優秀な団長なんだろうな。


 ミアはこちらに顔を向けて言う。


「では、トールさん……私たちも、その、帰りましょうか」

「ああ」


 二人で帰る必要はないが、行先は同じ帝都だ。


 俺はそのままミアと帝都へ帰還することにした。

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