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第11話 支援魔術師、凶作を調査する!

 宮廷の一角にある食堂は宮仕えの者たちで賑わっていた。


「よし、頑張るぞ」


 朝食後の紅茶を口にした後、俺は立ち上がる


「はい。一日頑張って参りましょう!」


 隣には、元気な返事を聞かせてくれるレイナがいた。


「レイナ……紅茶までいただいといてなんだが、本当に俺のことは」


 朝食まで作るなんて言ってくれたがさすがに悪い。朝食はこの宮廷の関係者が使う食堂のものを食べたが、紅茶はレイナが淹れてくれた。


 俺の世話よりも自分に時間を使ってほしい……そう伝えるもレイナは首を縦に振らなかった。


「お気になさらないでください。恩返しなどではなく、私が先生の隣にいたいだけなのです」

「レイナ……」


 そこまで言われると何も言い返せない。俺も格好悪いところは見せられないな。


 これはますます仕事を頑張らなければ──そう考えたが。


「分かった。それじゃあ……」


 エレナ殿下からは何も指令がない。仕事がない状態だ。


 レイナはそんな俺の頭の中でも読めるのか、こう答える。


「やる仕事がないのでは、困りましたね」

「……というかこれで金貨百枚ってやっぱり悪くないか。何か仕事ないのかな? 自慢じゃないけど、雑草抜きや掃除は得意なんだ。なんでもやるよ俺」

「この食堂を見ればわかるかと思いますが、そういう仕事をされる方もちゃんといますからね。まず、先生の出番はないかと」

「どうしよう……何もしないで金貨百枚なんて耐えられない」


 レイナはさらにこう続けた。


「基本的に宮廷魔術師に回ってくるのは、冒険者や衛兵では手に負えない仕事ですからね。近衛騎士団も似たような組織ですし」


 そもそも仕事が少ないのか。街道もミアを助けた以外は平和そのものだった。あの時も衛兵がすぐに駆けつけてくれたし、帝国は他の国と比べ治安がいい。


 しかしレイナはこんなことを口にする。


「あるいは……誰もやりたがらない仕事とか、面倒な仕事はあるかと思います。宮廷魔術師の詰所の掲示板に残っているかなと」

「おお。早速見にいこう」


 そうして俺たちは宮廷内にある宮廷魔術師の詰所に向かう。


 荘厳な宮殿風の建物の扉を開くと、洒落た円卓や椅子が置かれた大広間に出た。家具や調度品が豪華でなければ冒険者ギルドに近いかもしれない。


 中には宮廷魔術師たちもいて、俺たちのほうを見て囁き合っている。


 昨日の試合でズルをした、みたいな声が少し聞こえた。


 事実無根だが、立った噂は仕方がない。実績を上げることで見返していこうじゃないか。


 気にせず詰所を見渡すと、入り口のすぐ近くに掲示板があった。


「ここだな。なるほど」


 見覚えのある様式の依頼書がある。冒険者ギルドで貼り出される依頼書だ。その他にも商人ギルドやら職人ギルドからの依頼書、陳情書などもあった。


 いずれの書も紙がクシャクシャだったりシミができている。誰にも受けてもらえず、宮廷魔術師のほうへ回ってきたのだろう。


 レイナも依頼書を見ながら呟く。


「それなりに残っていますね。ミスリル鉱石を求むとか、隣国へ買い物を頼むとか、提示報酬に見合わないものばかりですが」

「そうだな……ただ緊急性の高い依頼もある」


 俺は一枚の依頼書を手にした。


 その依頼書をレイナが覗き込んで読み上げる。


「リュガット村の凶作の調査。この二年、種蒔きした作物がすぐに毒を含み枯れてしまう。原因を調査してほしい」

「国の義倉の配給でなんとか食い繋いでいるが、多くの村人が村を出てしまった。冒険者や役人たちが幾度となく調査に赴いたが原因は不明……相当深刻な状態だろう」

「その分面倒な依頼、ということになりますね」

「ああ。なんとかできないか見てみたい」


 すると後ろから宮廷魔術師たちの声が響く。


「報酬は金貨一枚にもならんのによくやるぜ」

「どうせ何も分からず帰ってくるだろう。無駄足だ」


 ムッとするレイナ。

 確かに難しそうな依頼ではあるが……


「だからこそやりがいがある……行こう、レイナ」

「はい、先生!」


 そうして俺たちはリュガット村へ向かうことにした。


 帝都から東の街道を徒歩で二時間。雄大な山林を背にした場所にリュガット村はあった。


 五十軒以上の家屋が建ち並んでいるが、どこか活気がない。立ち込める白煙はまばらで、廃屋も見える。


 街道沿いの村の入り口へ近づくと、衛兵らしき者が迎えてくれた。


「あ。そのバッジは宮廷魔術師のもので?」


 俺とレイナの胸にあるバッジを見て衛兵は言った。


「ああ。この村の凶作の調査にきた」

「おお、左様でしたか! 村長を呼んで参ります」


 そう言って衛兵は村長を呼んできてくれた。


「よもや宮廷のお方が来てくださるとは……! ありがとうございます、ありがとうございます!」


 頭を何度も下げる白髪の老人。名はグラバというらしい。


「どうか気になさらないでください。早速ですが畑を見てもよろしいですか?」

「もちろんです。こちらでございます」


 グラバはそう言って村の外にある畑へと案内してくれた。


 一面緑でも小麦色でもなく……紫色の枯れ草で埋め尽くされていた。付近には枯れ草を口にしたのか、死んでいる鳥や猪の姿もあった。


「まず考えられるのは土壌に毒が含まれている……付近の川や井戸、用水路の調査は?」


 俺が訊ねるとグラバは首を横に振った。


「冒険者で魔術を使える方や、毒を扱う医者に付近の水場を見てもらいました。しかし、毒は見当たらず」


 グラバは近くの川の向こうへと目を向ける。そこには青々とした農地が広がっていた。


「それに隣村は同じ川から水を引いていますが何も問題はないようです。風に毒や魔術が含まれているわけでもないそうで」


 やがてある方向へと顔を向けるグラバ。


「……全く原因が分からず、我らにはどうにもならない。ですから、いつも聖木様のほうを拝むばかり。何か聖木様のお怒りに触れたのではと、許しを乞うております」


 畑の中には、一際高い巨木があった。村の信仰の対象なのだろう。周囲が枯れているのにその木の葉だけは緑色。何か特別な種の木なのかもしれない。


「分かりました……ともかく、毒が何処から来ているのか探りましょう」


 まずは、周囲の枯れ草に【清浄】という、毒や魔術による状態異常を防ぐ魔術をかけた。回復魔術の【浄化】のように状態異常から回復させる効果も少しだけある。


 やがて【清浄】を受けた周囲の枯れ草が、紫色から黄金色へと変わっていった。


 しかし、徐々に枯れ草はまた紫色へ戻っていく。


 その様を俺は観察していく。


「紫色になるのが早いほう……その方向に毒の根源があるかもしれない」

「となると」


 レイナは紫色に染まる枯れ草から、聖木へと目を向けた。差は僅かだが、確かに聖木に近い場所のほうが紫色になるのが早い。


 グラバが恐るように言う。


「せ、聖木様の近くに毒を撒く何かが?」

「その可能性があります。近づいても?」

「あの聖木様は二千年前からあの場に鎮座されている我らの心の拠り所……我々も十歩の距離までしか近づきませんが、何かいるというのなら致し方ない。ただ、くれぐれも聖木様に失礼のないように」

「分かりました」


 俺が頷くと、グラバは聖木のほうへと案内してくれた。


 聖木から十歩ぐらいの距離にきた俺は、レイナへこう伝える。


「レイナ。聖木の北と西で、さっきと同じように【清浄】を枯れ草にかけてくれるか? 俺は南と東をやってみる」

「かしこまりました!」


 レイナも支援魔術を使える。二手に分かれ、さらに毒の根源の方向を洗い出す。


 すると……


「こっちか……」


 俺とレイナの視線は、聖木にあった。


 すかさずグラバが声を上げる。


「せ、聖木様のせいと仰るのですか!? そもそもすでに聖木様は、役人の方々が調べてくださった。これ以上、怒らせるようなことは……」


 一見すると健康そのものな聖木。毒の原因とはとても思えない。膨大な魔力を宿しており、それが毒を防いでいるようにも見える。


 しかし、やはり不自然だ。


「これ以上は近づきません。ただ、毒を解く魔術をかけたいのです。内部が毒に侵されている可能性もある」

「そういうことでしたら……」


 渋々首を縦に振るグラバ。


 許可を得た俺は聖木へと両手を向け──そして【清浄】を放った。


 青々とした葉を茂らせる聖木に、白い光がぶつかる。


 だが、聖木は急に体を大きく震わせる。幹には、鮫のような大きな口が開いていた。


 やがて聖木は地中から足のような根を出し、樹の巨人となって立ち上がる。


「GAAAA!!」

「トレントか──!」


 現れたのは、トレントという魔物だった。

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