表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

Part9


「こっちにきていいよ、初音」

 そう言うと初音は僕の腰に柔らかく巻き付き、顔を腹に埋める。僕は頭をそっと優し

く撫でる。彼女の誰にでも共感できるところは美徳だ。

「勇斗は、勇斗は何を知ってるの?」

 要領を得ない質問だけど、だいたい分かっている。

「だいたい全部かな。」

「ねぇ、深夏ちゃんは救われないの?」

 命を救うことは出来ない。それは現在の医療ではどうやっても無理だ。それでも救え

るモノは確かにある。

「救われないけど、救われるかもしれない」

「どういうこと?」

 埋めていた顔をこちらへ向ける。目元が赤くなっちゃってる。

「初音は違和感を抱かなかった?あのワッシーが、彼女を身内に入れることを反対しな

かったのに」

 それを聞いた初音は、あっ……と小さく声を漏らした。

「初音も知ってるでしょ、ワッシーとあいつのお祖父さん、先代のことは」

 記憶の果てにある黄金の景色。ワッシーが今みたいに眉間に皺を作らず、ただ楽しそ

うに笑っていたあの頃を。

「うん。あれからワッシーは誰も周りに寄せようとしない。私でさえ小さな壁を感じる。

本当の意味で傍にいるのは勇斗だけ」

「そのワッシーがさ、他人を少し内へ入れようとしたんだ。僕は本当に驚いたよ」

 その言葉ではじめて気付いたのか、驚愕の表情を浮かべた。

「そうだね、初めて見た。案外一目惚れだったりして?」

 そういうと悪戯っぽく初音は笑う。流石にそれはない、そんなロマンチストじゃない

よ。それでも、もしそうなら。

「そうだったなら、彼女は救われるし、ワッシーも救われるかもしれない」

「そうなの?」

 それを聞いた初音は首をかしげて不思議そうに聞いてきた。

「うん。でも、どっちにしろ辛い結果にはなる。それでも、二人が救われるなら僕は喜

んで協力しようとおもうんだ」

 さらさらとした髪を撫でて初音に宣言をする。

「それなら私も協力する」

 君は僕の欲しい言葉をいつも言ってくれる。僕の幼馴染みは口下手で言ってはくれな

いから、それがたまらなく愛おしい。

「さて、明日から頑張りますか」

 窓の外を見ると陽は沈み辺りはちょっぴり黄金色をしていた。


 アパートに帰った俺はベッドの上を回転していた。

「あれはないでしょー、あれは。初音にも怒鳴っちゃったし、三宮さんになんてほぼ捨

て台詞。うわー、もうめっちゃ嫌、最悪、消えたいわ」

 思い返せば思い返すほど、あまりの酷さに自己嫌悪が止まらない。

「あー、明日あったら謝らんといかん。でも、行きたない。会いたくなーい!」

 愚痴が止まらない。誰かに吐き出すことも出来ず、いつも部屋で一人喚き散らす。そ

して、思い出すのはいつも同じこと。

「爺さん、俺はどうしたいい?」

 もうこの世にはいない、一番大切だった人に問いかける。記憶の中の祖父はいつでも、

同じ言葉をなげかける。

「自由にしたらいい。選択は自由や」

 ただ、その言葉だけが俺の胸を締め付けている。

「なら、なんであんなモノを残した。俺にどうして欲しいんや?」

 二十歳の間に片付けないといけない、大きな課題がある。

「全てを捨てて自由に生きるか、自由を捨てて大切なモノを得るか。その選択を迫るの

は卑怯やろ、ほんまに」

 その選択を知ってから、俺は今まで選択することを避けている。誰かの大切な決断に

影響を与えたくない。だから、誰も寄せ付けたくない。

「なのに、なんで」

 どうして、三宮さんのことを突っぱねきれないのか。心を閉ざして輪から外して壁の

外へと追いやれば良いだけなのに、それが出来ない。

「重症やで」

 自分について考えれば考えるほど、可笑しくなったとしか結論は出せない。

「まぁ、ええわ。とりあえず勇斗の部屋いこ」

 そうして、俺は勇斗の部屋の荷造りを始めた。いつの間にかラインが来ており、本や

ノートパソコンを中心に持ってきて欲しいものがリスト化されている。

 同じアパートの勇斗の部屋の玄関には3日ほどしか経っていないのに、雑木林のよう

に郵便物が扉から生えていた。ついでに郵便物も確認してあげよう。重要なモノが混じ

っていたら届けてやらないと。そうして丁寧に一つずつ確認していくと、見慣れた宛名

があった。

「これは……」

 その差出人の名前を確認した瞬間に嫌な予感がした。駆け出して自分の郵便受けを確

認する、予感が現実に変わる瞬間。

 流れ始めた砂時計を止めたくて、俺は自分と勇斗の封筒を握り潰した。しかし、時は

止まることなく握りしめた手から砂が落ちるように進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ