Part5
翌日の夕方、俺は勇斗の新しい病室で肩を落とした。気持ちと肩は脱臼寸前。部屋が移
っただけで一体全体なんでこうなる。
「あら、またお会いしましたね」
「なに?二人は顔見知り?」
勇斗のベッドの横には向日葵が咲き誇っていた。つまり、三宮さんがいた。
「なんでやねん」
心の声が口から漏れる。もはや、思考する気にもならない。
「和谷さんには昨日助けていただのです」
「良い子でしょー?うちの子は」
「誰がお前の子やねん」
「ええ、お茶もごちそうになってしまいました」
その言葉を聞いた途端に勇斗はこちらを軽蔑するような眼差しで見てきた。
「え?まさかナンパ?」
こいつらが仲良く喋ってる理由が分かった。ジョークのセンスが同じなのだ。
「うるせえ、なんで仲良くなってんねん?」
「このフロアの数室は特別なんですよ、和谷さん」
「どういうことや?」
意味がわからなかった俺は勇斗に目を向ける。すると、勇斗は両手を肩くらいの高さに
あげて呆れたジェスチャーをした。少しだけだが腹が立つ。
「ここは所謂VIPルームだよ、周りを見てないから分からないかもだけど」
そう言われて辺りを見ると昨日の病室よりも間取りが広い。
「叔父上の配慮か?」
勇斗の父親は関西では有名な和谷グループの重役を務めている。ついでに言えば、三宮
さんはここ横浜で有名な企業の社長令嬢だ。
「まぁね。それでこの病院にはVIP用のラウンジが設けてあるんだよ」
その言葉だけで、だいたいのことを察した。
「なるほど。そして、そこで仲良くなったと」
「ええ、VIPのラウンジは景色が良くて気分転換にはいいんですよ。でも私が入院して
る間は私以外に若い方はいらっしゃいませんでした」
やはりそうだった。若い入院患者は少ない。さらに、VIPとは聞こえはいいが恐らく
は政財界が中心。そうなれば年齢層が高くなるのは必然だ。
気付いたことがあるけれど、今の口ぶりからするに恐らく声をかけたのは三宮さんから
だろう。
「なるほど、逆ナンか」
昨日の仕返しだと言わんがばかりに、口元を歪めて言い放つ。
「ち、違います!」
顔を真っ赤にして反論する。なんとも可愛らしい。
「ナルホドー、ギャクナンダッタカー」
「文里さんは演技がやる気なさすぎません!?」
コロコロと表情が変わる三宮さんを笑いながら、窓際の椅子に座る。ベッドには勇斗が
いて、俺の向かいの広いスペースには三宮さんが車椅子でいる。
「とりあえず、用事を先に済ませるわ」
肩にかけていたバッグから幾つかの紙を取り出しながら説明する。
「だいたいのレポートはいつも通りウェブから提出。ただ量子論だけは紙で提出。これが
レポート用紙な。」
「サンキュー、ワッシー」
「これでとりあえず用事は済んだな。ところで日常品は問題ないか?聞いたところによる
と、付き添いがないと動くのも厳しいって話やったけど」
「VIPだからか、その辺りは融通が効いたよ。ラウンジにも看護師さんがついてきてく
れた」
「頼めば一階にあるコンビニのものであれば店員さんが持ってきてくださいます」
「至れり尽くせりだな。」
「それに三宮さんが色々教えてくれたからね」
「いえいえ、お気になさらず。ここでは私のほうが大先輩ですから」
大きく胸を叩き、どんどん頼ってくれても構わないという目をしている。先輩風を吹か
すことが普段はないから、余計に吹かしたいのだろう。
「頼りにさせてもらうよ」
勇斗がそういうと胸をそらし自慢げになる。胸は自慢できる大きさではないと思うが。
それから小一時間ほど会話を楽しんだ。もう少しこの時間を楽しみたいところだが、そ
うはいかない。立ち上がり椅子を片付けなら勇斗に告げる。
「それじゃ、面会時間も制限あるし、そろそろ帰るわ。講義が多い日はなかなか時間が取
れないなー」
「仕方ないよ。そじゃ、また」
ベッドで横になったまま、手を振り出口へと進む。
「おう、また明日くるわ。三宮さんもまた」
部屋を出る際に三宮さんにも声をかける。明日も会えればいいけれど。
「ええ、私も何事もなければ明日もお会いしたいです」
彼女は笑顔で手を振ってくれた。心に思っていたことを言われたのが恥ずかしくて、足
早に病院を後にした。