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Part4

「病室にいないと思ったら、お茶かい?」

 突如、背中から声がした。振り返るとそこには一組の男女がいた。その二人の顔を見て

反射的に体が動いてしまった。それは刷り込まれた経験からきたもの。椅子から静かに立

ち上がり、相手に向き直り丁寧に腰をおる。

「しまっ……こんにちは」

 相手に頭を下げたままの挨拶。シュールでしかない。しかし、顔をあげることが怖かっ

た。俺は気付いてしまった、目の前にいる三宮夫妻とは面識がある、十年よりも前の話だ。

 そう十年も前のことだ、今の自分の容姿では恐らく気づくことはない。そう結論づけて、

顔をあげて警戒心を下げてもらうため微笑む。

「こんにちは。君は……」

 記憶よりもナイスな叔父様は警戒心が伝わってくる鋭い目付きを向けてきた。穴があっ

たら入りたい、塹壕がベストだ。ここは撤退せねば。

「お父様、私ナンパされてしまいましたわ」

 後ろから剣で突き刺されてしまった。後ろを振り向かずとも楽しそうな顔が目に浮かぶ。

「あらあら」

 間違いでなければフランス人とのハーフの奥様は笑ってらっしゃる。もはや退路はなし。

意を決してお父上の目をまっすぐと見た。

「申し遅れました、私は和谷晴と申します」

 名前を聞いた途端に彼の目が変わった。警戒から遠くを見るような思い出すための目に。

 そして、答えに辿りついたのだろう。しかし、確認はさせない。

「親御さんも来られたみたいだし、失礼します」

 そう言い放ち足早に病院の玄関口へ向かう。

 彼はまるで何かから逃げるように去っていってしまった。お父様の表情が変わったのも

気になる、彼は一体。

「彼とは……、いや、彼にナンパされたのかい?」

 お父様も同じように何かを考えていたようですが、私の悪戯について確認をしてきた。

「ふふっ、ごめんなさい。お父様に嘘を付きました。彼には助けられたのです」

 ここで誤解を解いておかないと、和谷さんにナンパの不名誉を押し付けることになって

しまう。

「助けられた?」

 少し驚きながら確認する。

「ええ、エレベーターの扉に挟まれかけたところを助けられました。そして、意地悪を少

しされてしまったので、子供じみた仕返しをするために嘘をつきました」

「あらあら、あなたがそんなことをするなんて。あの男の子が気になるの?」

 お母様は私が他人に興味を示したのが嬉しいのか笑っている。

 実際に私は彼のことが気になっている。

 なぜかと言うと、エレベータで手を確認したが、手の甲が少し赤くなっていた。赤の他

人のために、自分の体を考えず助ける姿。車椅子を押してくれた後についても、丁寧でお

節介焼きであることは簡単にくみ取れる。他者に関わることを煩わしいと思っているよう

に思えない。

 なのに私の身の上を知ることを拒み距離を置いた、最後のやりとり。その時の彼の目ど

こまでも続く穴のように真っ黒で、一切の感情がなかった。

 その対照的な印象が私の中で引っかかっている。

「お前は……いや、なんでもない。彼がどうして病院に来ていたか聞いているかい?」

 母の少し楽観的なところに呆れながらも、私に問いかけてきた。

「いえ。そう長く話した訳ではないので」

 そういえばどうして彼はここにいたのだろう。どこかを怪我しているようには見えなか

った。きっと誰かのお見舞いにきたのだろう。でも、お父様はなぜそんなことが気になる

のだろう。

「あなた、こんなところで立ち話もあれだから深夏の病室へ戻りましょう」

 お母様はそう言いながら私の車椅子を握った。恐らく父の考えを待っているのが煩わし

くなったのだろう。

「ああ、そうだな」

 私は彼について聞きたかったけれど、この流れで聞くわけにはいかない。お見舞いであ

ればまたチャンスはあるはず。久しぶりに未来への期待に胸を膨らませた。

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