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誤解とお願い 1

医者に運動不足と言われてから数日後。

リディアはフリッツと一緒に庭へ出ている。


リディアの運動不足をどうにかしようと、フリッツが庭の案内を提案してきたからだ。

いつもなら上着が必要なくらいの気温だが、この季節にしては珍しく暖かで、散歩をするにはちょうど良い陽気だった。


「広い、ですね」

「研究に使う薬草とか料理用のハーブなんかもあるからな……」


最初は色とりどりの花を見ながら、どんな花が好きだとか、好きな色は何かとかたわいない話をしながら散策していた。それが途中から草木の生い茂る道なき道を進むことになるとは思わなかった。


「すまない、良ければ抱えて歩こうか?」

「……さすがに、それは、申し訳、ない、です。が、少し、休ませ、て、いただいて……も?」


リディアは疲れ果て途切れ途切れに返事をする。


「どこか休めるところを探そう」


フリッツは申し訳なさそうにリディアを振り返り手を差し伸べてくる。さすがに抱えてもらう訳にはいかないが、差し伸ばされた手をしっかり掴み、甘えさせてもらう。広大な土地を持つフリッツの屋敷は庭も広く、手入れされた花壇の他に、自然そのままに草木が生い茂るエリアがある。自然のままの庭が珍しくて、つい好奇心の赴くまま足を踏み入れてしまったのが良くなかった。案の定リディアは日頃の運動不足が祟って、大変な思いをしている。そろそろ歩くのが限界かもと思い始めた時、フリッツが手頃な岩の上にハンカチをひいてくれる。良かったら休めということだろう。リディアは厚意に甘えて休むことにする。


「あの、本当にすみません。私が見てみたいと言ったのに」

「いや、俺も止めなかったし君の体力を考えるべきだった。すまない。この先を進むと少しひらけたところにでる。そこからなら近道があるから、すぐに戻れるだろう」

「本当に広いですね」


リディアは何度目になるか分からない感想を言う。木が森のように茂り、空を覆い隠している。木々の間から光が漏れてところどころ地面を照らしている。


「なんだか叔母の家を思い出します」


思わずそんな感想が溢れる。


「マイヤー夫人のことか?」

「そうです。こんなに広くはないんですけど、子どもの頃によく行ってたのでなんだかとても大きく感じてたというか……」


そう言いながらリディアは子どもの頃を思い出す。あの頃は母がいたので叔母の家に良く連れて行かれた。人見知りで人が集まる場所の苦手なリディアは、社交をかねた訪問を嫌がり勝手に抜け出しては庭に隠れていた。この国の人にしては珍しく叔母夫婦は庭にあまり関心がなかったのか、木々の生い茂る庭はリディアにとって最高の隠れ場所だった。そこでなら何時間でも遊んでいられたし、同じくらいの子どもも一緒にいたので飽きることもなかった。


「あれはエレノアだったかしら……?」


懐かしくて昔のことを思い出していたら、つい声に出てしまった。


「どうかしたか?」

「すみません、つい考えごとをしていて。エレノアも一緒にいたなと思って。妹は私と違って可愛いし社交的なので叔母に可愛がられてたんですよ。私は愛想がなくて可愛げがないって言われてて」


思い出に気を取られていたのを誤魔化すかのようにリディアは早口で話す。


「そんなことはない」

「え?」

「いや、そんな事を言わないで欲しい」


フリッツに言われ、リディはエレノアの話をした事を配慮が足りなかったと反省する。本当だったらフリッツはエレノアと婚約しているはずなのに。それなのに実際はエレノアとは似ていないリディアと婚約するはめになっている。自分を騙した相手の名前などあまり聞きたくないだろう。それにたとえ家族が勝手にやったとしてもリディアにだって責任はある。これからはエレノアの名を出さないようにしようと気を引き締める。


「すこし肌寒くなってきたな。歩けそうか?」

「はい、大丈夫です。歩きます」


フリッツに問われ、思わず身構えてしまい可笑しな返答をしてしまう。たしかに少し肌寒くなってきた。


「では遅くならないうちに行こうか」


そう言うとこちらに手を差し伸べてくれる。少し休んで回復したとはいえ、普段から出歩かないリディアの足は限界に近い。大人しく手を取って歩くことにする。


「ありがとうございます」

「辛ければいつでも抱えるから言ってくれ」

「最後まで歩きますから大丈夫です」

「そうか」


なんだか少し残念そうに見えるが気のせいだろう。もしかしたら早く帰りたいのかも知れない。リディアはフリッツが毎日忙しそうにしているのを思い出し、なるべく早く戻れるように頑張って足を動かし続ける。屋敷に戻った時には、足どころか指先すらも動かせそうになかった。

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