辺境伯 2
「つまり、パーティーに来ていたのは君の妹だったということか?」
問いかける相手の言葉にリディアは無言で頭を上下に降る。
案内された応接間のソファに向かい合って座り、今までの事情をしどろもどろ説明し、なんとか状況を分かってもらえた、と思う。リディアは相手の反応が怖くて、まともに相手の顔を見ることが出来ない。
「それで婚約を破棄したい……と」
「はい」
リディアは消え入りそうな声でなんとか応える。エレノアと間違えて婚約を申しこんだのなら、破棄をするしかない。リディアとしても婚約する気はないのだから、一刻も早く婚約を破棄して家に戻りたい。
きっと辺境伯も同じで、今すぐにでも破棄したいと思っているだろう。
「……すぐには出来ない」
「え?」
予想に反する言葉に驚いて思わず顔を上げると目が合った。が、すぐに逸された。
「まずはウィレムス伯爵に婚約について確認を取る。それにすぐ婚約破棄するのは外聞も良くない。ある程度経ってから、こちらから適当な理由をつける。それまではこの屋敷にいて余計なことは何もしないでほしい」
そう言うと立ち上がり足早に部屋を出て行ってしまった。残されたリディアは婚約破棄されなかったことに動揺し、どうしていいか分からずソファに座ったまま扉の方を見つめた。
辺境伯が部屋を出てから何も音沙汰がなく、出された紅茶もすっかり冷めてしまい、リディアは存在を忘れられているのではと思い始めた。余計なことはするなと言われた手前、勝手に部屋を出て行くことも出来ない。リディアの予定ではすぐに婚約破棄され、実家に帰る馬車に乗っているはずだった。
これからどうすれば良いか誰かに尋ねようとソファから立ちあがろうとした時、扉がゆっくり開きメイドが一人入ってきた。彼女は真っ直ぐにリディアの方へ来ると、丁寧にお辞儀をした。
「お待たせして申し訳ございません。これからお部屋へご案内致します」
そう言うとにこりと優しく微笑んだ。
案内されたのはシンプルな作りの客人用の部屋だった。
「こちらの部屋をご利用ください。本当なら旦那様の隣室を使用して頂く予定だったので、何か足りない物などございましたらお申しつけください。」
その他にも色々と、この屋敷で生活する上での確認をしてメイドは去って行った。
リディアは一人になると、ほっと一息つく。これからどうなるか分からないが、しばらくはこの屋敷の客人として過ごせそうだ。辺境伯の隣の部屋でなくて良かったと心から思う。
リディアは少し休もうとベッドに腰掛けそのまま後ろへ倒れる。ベッドはとても触り心地が良く適度な弾力もあり、良質なものだ。
これからのことを考えると不安だが、旅の疲れもあり、リディアはそのままうとうとと眠ってしまった。