お茶会 1
踏会の翌日は空が澄んでよく晴れた日だった。慣れない舞踏会で疲れてはいたが、リディアはスッキリと目を覚ました。なんだか幸せな夢を見た気がして、気持ちがほわほわと暖かい。
幸せな気持ちのまま、ゆったりと朝の支度をしているとフリッツが部屋にやって来る。
「すまない。急用で領地に戻らなければならなくなった」
「なら私も戻る支度をします」
「いや、リディアはこのまま王都でゆっくりしていると良い。久しぶりに会いたい友だちもいるのではないか?」
リディアには特別に仲良くしている令嬢はいない。けれど友だちがいないとは言いづらく、かわりに他のことをお願いする。
「フリッツが留守の間、マナーの教師をつけて頂くことは可能ですか?」
「それは構わないが、遊びに行かなくて良いのか?」
「ええ、外へ出るよりも屋敷にいる方が落ち着きます。それにもう少し社交の練習をした方が良さそうなので」
せめてダンスは踊れるようになりたい。
「……ああ」
フリッツは思い出したのか、笑いを堪えている。出来ることなら昨夜のことは忘れて欲しい。
「それなら誰かに頼んでおこう。もし出掛けたい時は執事に一言伝えること。買い物も好きにしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
「なるべく早く戻る」
別れを惜しむかのように、フリッツがリディアの手を取る。
「分かりました」
「それじゃあ行って来る」
「お気をつけて」
じっとこちらを見つめたままフリッツは手を離さない。
「急ぎの用があるのでしょう?」
リディアの言葉にしぶしぶといった感じで離された手は、そのままリディアの顔へと近づく。が、ギリギリのところで触れられることはなかった。まるで別れを惜しむ婚約者のようなやり取りに、リディアはドキドキする。朝から心臓に悪い。
「何かあればすぐに知らせてくれ」
「わかりました」
返事をしたものの、フリッツはリディアの部屋に留まり、出掛ける気配がない。見かねた従者に声を掛けられて、仕方ないといったふうに部屋をあとにした。何か他に用事があったのかと不思議に思うが、考えても分からない。
それよりも王都に滞在する間、何をしようかと考える。そしてエレノアに手紙を書くことにする。一緒に舞踏会へ参加することは叶わなかったけれど、しばらく王都に滞在するならお茶をするくらいなら出来そうだ。もちろんエレノアの体調次第ではあるが、きっと喜んで来てくれるだろう。一緒にお茶をするならお菓子は何を用意しようかと考えると楽しくなってくる。リディアはお誘いの手紙をしたためるため机に向かった。
まさかこの手紙のせいで大変なことになるとは思いもよらなかった。