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舞踏会 3

 先に王太子殿下のディルクに会ったためか、さほど緊張せずに王族へ挨拶を終えることが出来た。それでもホールまで戻ったリディアはほっとして肩の力が抜ける。なんだか喉が渇いてしまったので、何か飲み物はないかとあたりを見まわす。

 

「どうかしたのか?」

「喉が渇いたので、何か飲み物が欲しくて」

「俺が取って来るから、ここで待っていてくれ」

「ありがとうございます」

 

 フリッツはリディアの返事を聞くとテーブルの方へと歩いていくが、辿り着く前に色々な人に話しかけられている。普段社交の場に出ないフリッツと交流をするまたとない機会だと思われたのだろう。すぐに多くの人に囲まれしまい、姿は見えなくなってしまった。この様子だとしばらく戻って来られないだろう。リディアは大人しく壁際で待つことにする。

 会場を見渡しているとチラチラとこちらを伺う視線を感じる。フリッツではなくてリディアを見ているのはなぜだろう。何かおかしいところがあるのかと自分のドレスを確認していると、真っ赤なドレスを着た女性がうしろに二人を引き連れて、こちらへとやって来る。

 

「もしかして、あなたがヴォルフ様の婚約者?」

「……そうですけど」

「あら! 婚約した、と言う噂は本当だったのね!」


 大げさに驚かれ、婚約の部分を強調される。そしてリディアの頭から足元まで視線を移動させたのが分かった。


「それにしてはいささか地味ねぇ」

「それに社交界でお見かけたことがありませんわ」

「これではよほど家柄の良いご令嬢でないとヴォルフ様とは釣り合わないですわ」

 真っ赤なドレスの女性が言うと後ろの二人も同意するかのように話し始める。

 

「そうよね。私のような侯爵家の縁談を断るくらいだもの。あなた名前は何というの?」

 

 最初に声を掛けてきた女性は侯爵家の人間らしい。リディアの生家は伯爵家なので、彼女の方が爵位は高い。


「リディア=ウィレムスと申します」

 

 失礼のないようにドレスの裾を掴み、精一杯の挨拶をする。

 

「あらウィレムス家なの? たしか双子の姉妹がいたはずよね……。違ったかしら?」

「……違いません」

「それにしては似ていないわね?」

 

 エレノアはよく社交の場に出ているので、見かけたことがあるのだろう。双子なのに似ていないのはリディア自身がよく分かっている。

 

「本当にウィレムス家の令嬢かあやしいですよ」

「勝手に伯爵家の名前を語るなんてことをするはずないと思いますよ」

「なら隠し子とか」

「……ウィレムス伯は愛妻家で有名でしたのに、噂はあてになりませんね」

 

 好き勝手に言う、取り巻き二人の言葉に、頭に血が上る。大切な家族のことを悪く言われるのは許せない。


「ウィレムス家の令嬢かどうかはどうでもいいのよ」

 

 侯爵令嬢の一言で取り巻き二人は静かになる。


「ヴォルフ様はなぜこんな冴えない人を婚約者に選んだのかしら?」

 

 それは……騙して婚約しました、とはさすがに言えない。

 

「答えられないということは、何かやましいことがあるのね」


黙ったまま立ち尽くすリディアに侯爵令嬢は勝ち誇ったかのように笑う。それを見た取り巻きたちは勢いを取り戻し侯爵令嬢に加勢するかのように話し始める。

 

「なにか弱みでも握ったのではないですか」

「あれじゃないですか色香で迷わしたとか」

「大人しそうに見えるのに見かけでは分かりませんね」

「でもたしかに発育は良さそうですわ」

 

 彼女達はリディアの身体を見つめると、くすくすと嫌な笑い方をする。なぜ見ず知らずの人たちにそんなことを言われなければならないのかと、泣きそうになる。身分の差もあるが、頭の中が真っ白になってしまい言い返せない。


「なにか楽しそうだね。何をしてるのかな?」


 声のした方を向くと、爽やかな青年が笑顔でこちらを見ている。青年を見た女性たちは慌てて挨拶をする。

 

「はじめまして。ボルフェルト侯爵様」

「――何をしていたか聞いているんだけど、聞こえなかったのかな?」

「リディアさんに挨拶をしておりました」


 笑顔のまま平然と言ってのけるのは、侯爵家の令嬢としてさすがだと思う。

 

「へぇ、色香で迷わしたとか聞こえたけど? それが挨拶?」

「いえっ、それは、その……私が言ったのではありません」


侯爵令嬢の言葉に取り巻き二人が慌てている。

 

「侯爵家って言ってたのも聞こえたけど? 同じ侯爵家として恥ずかしいから抗議したいんだけど。どこの侯爵家か教えてくれる?」

 

 侯爵家だと聞こえたということは、ほとんど最初からリディアたちの話を聞いていたのだろう。

 

「……失礼しましたっ」

 

 それに気がついた侯爵令嬢は悔しそうにリディアを一瞥すると、その場を早足で立ち去る。二人の令嬢も、その後を追うように去って行った。その様子を侯爵は呆れたように見ている。

 

「リディア、大丈夫だった?」


 侯爵令嬢たちが見えなくなると、心配そうにリディアのところへ近付いて来る。

 

「ありがとうございます。侯爵様。おかげで助かりました」 

「えー、そんな他人行儀な挨拶しないでよ。俺たち従兄妹じゃん」

「そうだけれど、今日はフリッツ様と来ているから」


 婚約者以外の男性とあまり親しくしていると、先ほどのように何か言われるかも知れないと警戒してしまう。

 

「まあそうだね。でもいつもみたくアルヴィンって呼んでほしいかな。それにしても婚約者と上手くいってるみたいだね。ドレスもリディアによく似合ってる。彼からの贈り物でしょ?」

 

 たしかにドレスは贈られたけれど、フリッツとは偽りの婚約で本当はエレノアと婚約するはずだったとは言えない。

  

「ところで今日はエリィと一緒じゃないの?」


 話題を逸らすため、わざとらしくあたりを見渡してみる。いつも一緒にいるエレノアはいなさそうだ。

 

「それがさ、リディアが舞踏会に出ることを聞いたら、はしゃぎすぎて熱出したんだよね」

 

 すごくエレノアらしい。

 

「エリィは大丈夫なの?」

「すごく元気だよ。舞踏会に出たいって言ってたけど熱でふらついてたから、休むように言っといた」

「ありがとう」

 

 エレノアは無理をすることが多い。家で大人しくしてくれているといいのだけれど。アルヴィンの言うことにはあまり聞く耳を持たないので心配だ。

 

「そうだ、あとで一緒にダンス踊ろうよ。婚約者と踊った後なら問題ないでしょ?」


 手を取りダンスを踊る仕草をする。そのまま踊り出しても違和感がないくらい距離が近い。

 

「悪いがそれは出来ない」


 いつの間にか戻ったフリッツが飲み物を持って立っている。眉間に皺を寄せていて、なんだか不機嫌そうだ。

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