プロローグ
「お姉様!! 婚約が決まりましたよ!!!」
勢いよく扉を開けて部屋に入って来たエレノアは手に持っている紙を掲げて見せた。
「お相手は辺境伯のフリッツ様です。噂ではあまり社交的ではないとのことですが、お姉様もあまり社交は得意ではないので気が合うと思います。パーティーに来ていたと思うのですが私はあまり記憶になくて……。でもとても見目の良い方だと伺いました。それに辺境伯ならパーティーなどもあまり参加する必要はないと思うのでお姉様にはちょうど良いと……」
「ちょっちょっと待って。婚約ってどういうこと?」
一気に話そうとするエレノアをなんとか遮り、困惑したままリディアは問いかける。
「あら?この間言ったじゃないですか?お姉様の婚約者を探そうって」
言った。確かに言っていたが、まさか本気だったとは思ってもいなかった。双子の妹が姉の振りをしてパーティーに参加するなんて無理だと思っていた。
「でも私とエリィじゃ容姿が全然違うでしょう。その婚約はエリィにきたのでは?」
「それは大丈夫。これは正真正銘お姉様の婚約よ!わざわざ王都から遠い地でパーティーに参加したんだから。私たちのことなんて知らないわ」
そう言うエレノアは、細身で髪は綺麗なブロンドにカールがかかり、顔つきは天使のように愛らしく、男性なら思わず手を差し伸べたくなるような見た目をしている。
「でもそれじゃあ相手を騙していることになるわ」
一方、双子の姉であるリディアは妹と瓜二つのはずだが、部屋に篭りがちなためふくよかな体型をしており、顔色も青ざめて見える。オシャレにも興味がないので服は流行とは程遠く、髪も手入れが行き届いていない。二人を知らない人が見れば、双子だとは思わないだろう。
「でももうお父様が婚約成立させてしまったから、すぐには破棄出来ないわよ」
それを聞いてリディアは青白い顔をさらに青ざめる。
「いや、でも、それは、会ったらすぐ相手が違うと分かって婚約破棄されるじゃない」
「さすがにそれは体裁が悪いからしないと思うわ。それに噂では良い方らしいから、結婚するまでは家族と過ごしたいと言って会わなければ良いのよ。でもお姉様が気になるならお父様に頼んで辺境伯の人柄を調べてもらいましょう。これから婚約の準備で忙しくなるわね。あとお姉様は健康のために、もう少し外に出て散歩でもした方が良いと思います」
言いたいことだけ言ってエレノアは去って行き、あとに残されたリディアは大変なことになったと途方に暮れるのだった。