第73話:王手
倒れているキリヤマに斬りかかるメイナードだったが、間一髪で躱される。
メルナード
「何故だ?再生するにせよ貴様の脳は切って思考はできないはずだ。」
俺
「生命力...!!トカゲの尻尾切っても尻尾は一定時間ある程度動くだろ。」
メルナード
「なるほど、その状態で会話ができるのか。貴様...本当に人間か?」
俺
「テメェも大概だろ...でも、そうだといいな。さっ、続きだ続き。
風付与魔法、雨之波羽斬。」
メルナード
「またその刀の初見殺しか。八裂之大蛇。」
俺
「んな!?」
ガキィイン...!!
メルナードの剣の残像は8つに別れ、それぞれが別の軌道を描き、
その軌道一つ一つが生物のように畝りながらキリヤマを襲う。
刀で受け止めても手に伝わる衝撃は、確実にキリヤマの体力を蝕む。
俺
(経験値が違え!能力で技術を得るための手助けは出来るが、
能力自体で技術を補うことは出来ねぇ!)
メルナード
「せっかく生き永らえたのにこれで終いか?威勢だけだな。」
俺
「ほざいてろ、今すぐに吠え面をかかしてやるよ」
メルナード
「やってみろ、若き反逆者よ」
俺
「おらよぉ!」
色んな角度からメルナードに斬撃を浴びせるキリヤマ。
しかし、メルナードはその場を一歩も動かずに受け流し続ける。
メルナード
「ふざけているのか?」
俺
「んなわけあるか!鬼突き!」
脱力フェイントからの一瞬で強い踏み込みでメルナードの喉元を突こうとするも、
メルナードはギリギリで後ろに左後ろに避ける。
メルナード
「!?」
躱したはずだが、メルナードの背中に斬撃が入る。
動揺して元の位置に戻るも、頬に切り傷が出来る。
俺
「それが風魔法の能力だ。能力の詳細は教えてやんね。」
メルナード
「なるほど。斬撃が暫くその場に残るのか。」
俺
「分かんのかい」
風魔法を鬼灯丸に付与した場合、刀を振ると10秒間振った場所に斬撃が残る。
それはキリヤマにしか見えない。つまりキリヤマの刀の軌道を覚える必要がある。
メルナード
「頭を使わされる能力だな。」
俺
「へっ、ネタが割れても大丈夫な能力だ。ま、
初見で殺せるに越したことは無いけどな。じゃ、続き行くぞ。」
キリヤマはメルナードに攻撃の隙を与えないように攻撃をし続ける。
それもメルナードレベルの化け物でしか対応出来ない速度で。
その剣筋を10秒間分更新し続けながら記憶しなければならない。
メルナード
「グッ!」
俺
「俺の学習能力舐めんな。」
さすがのメルナードも、対応に追われながら記憶を更新し続けるのは不可能だった。
そしてキリヤマの優勢に見えたその瞬間、形勢は逆転する。
メルナード
「ハァ...我にこの技を使わせるとは、実に愉快であるぞ!!
絶対不可侵死領域!」
俺
「あ"ぁ"!?」
メルナードがその技を構えた瞬間、キリヤマの腕が消えた。
俺
「どういう事だ!?」
メルナード
「この技が終わる時が、どちらかの勝敗が着いたときだ。」
俺
「そうかよ...。ッ!!ハァ...ハァ...ア"ァ"...!」
キリヤマは膝をつき、胸を抑える。
メルナード
「こんな時にガタが来たか。」
俺
(まだだ...まだ耐えろ...持て俺の身体!ユルリカちゃんのためだろう!
こんな所でへばってる男がユルリカちゃんと肩を並べれるものか!!!)
視点はラックと松風とリルラへ移る。
ラック
「危ねぇ、松風ぇえぇえ!!!!」
氷の巨人の腕が松風に降り掛かろうとしたその時...
リルラ
「爆炎の香!からの扇流、炎風の舞!火災旋風!!」
巨人の手が溶け砕け、松風に攻撃が当たるのが一瞬遅れる。
その甲斐あって松風は巨人の攻撃を躱せた。
松風
「助かったでござる!」
リルラ
「加勢させていただきますわ!」
ラック
「タチバナは?」
リルラ
「ひたすら雑兵を眠らせまくってますわ!」
ラック
「なるほどな。んじゃ、俺が本体をブチのめす。
これ以上氷の敵を増やさせねぇ。お前らは兵を壊しまくれ!」
松風
「承知にござる!」
ロベリオス
「絶対零度砲撃!」
ラック
「牙神翔炭!!」
燃えた金棒をで冷気の砲撃を止めようとするも、金棒の炎ごと腕が凍る。
松風
「ラック殿ぉおぉおおおおぉおお!!!」
ラック
「うるせぇ!俺がコイツを止める!お前らは氷の敵を壊し続けろ"ぉ"お"!」
ロベリオス
「しかし、使い物にならなくなったその腕で何が出来るんだ?」
ミラ
「熱暴走を少し起こしてあげれば、凍った腕でも元通りですよぉ。」
凍ったラックの腕が、湯気を出しながらもとに戻る。
ラック
「腕を治してもらったのは2度目か。助かった。」
ミラ
「いえいえ、メイナード様からあなた方へ、
加勢してあげるように指示を承ったので来た次第ですぅ」
ラック
「おい、この男を倒すの手伝え。」
ミラ
「えぇ、勿論です。」
ロベリオス
「女一人加わった所で何が変わるという訳でもあるまい。」
ミラ
「ってか、ここら辺に冷気の空間魔法が展開されてますねぇ。この空間は、
動きが鈍くなったり氷魔法の魔力消費コストを削減出来ますぅ。
そうだぁ!私の炎結界で上書きしましょう!これで氷魔法のコストは増えるし、
炎系の魔法の威力が上がりますよぉ!ただこの結界内暑くなるんですよねぇ。」
ラック
「カハハハハハ!!!!女一人にネタがバレてんじゃねぇか!
紅破殺猛!!」
身体と金棒に炎を纏ってロベリオスに殴りかかるラック。
ロベリオス
「この程度大した損失にはならないさ。氷塊竜巻!!」
3m程の氷塊が大量に竜巻の中で渦巻く。ラックはその中に堂々と突撃する。
ラック
「こんなのが効くかよぉ!?なぁ元神級冒険者ぁ!!!」
ロベリオス
「今となっては王の側近の称号の方が気に入ってるんだがね!
氷之要塞!!!」
ミラの張った熱空間を優に超える大きさの城が一瞬で構築され、
その城にある大量の大砲がラックを襲う。
ラック
「所詮は氷だろうがよぉ!!」
触れた物を凍らせる大砲の弾は熱を纏った金棒で壊され、
冷気は紅破殺猛が通さない。が、ロベリオスは物量でラックを空中に拘束する。
そこを見逃さず、氷の巨人がラックを手のひらで潰そうとする。
飛ぶ蚊を潰すかの如く。
松風
「ラック殿の邪魔はさせないでござるよ!!火輪刀!!」
炎を刀に纏わせ、回転斬りで巨人の腕を切る。
だが、巨人はそれを見越して松風に息を吹きかけた。
その息に触れた部分は氷漬けとなる。松風は右半身を凍らされた。
松風
「右半身が...動かない...!!」
ミラ
「炎膜!!」
即座に松風に炎の膜を纏わせ、徐々に氷を溶かす。
松風
「助かったでござる!」
ドゴォン!ドゴォン!!
松風が地上に降り立った瞬間巨人は素早く足踏みをし始める。
その足踏みの衝撃で足元のあらゆるものを吹き飛ばす
松風
「何という爆発力!足踏みだけでここまでの威力でござるか!」
ラック
「クソ邪魔だなぁ!?」
ロベリオス
「ブリザードクラッシュ!!」
爆発で浮いたラックに、容赦なく大量の氷塊を落とす。
ラック
「クソが!俺の邪魔をさせんなっつっただろうがぁ!!」
松風
「最善は尽くしてるでござるよ!」
リルラ
「氷兵の数が多い上に巨人が邪魔なんですのよ!!」
ロベリオス
「フフフフフ!!熟練に見える冒険者4人がかりでこの有様かい!」
ラック
「高みの見物かよ!いいゴミ分だなぁ!?」
視点はユルリカへ移る。
レミ
「アタイも、このくらいで倒れるわけにはいかない!
黒砂之嵐!」
嵐の風速に乗せられた黒砂は、人の肌を容易に切ることが可能である。
ユルリカ
「妖精之逃道!!!」
異次元への扉を開き、レミの背後へ移動するユルリカ。
ユルリカ
「閃光爆弾!!!」
黒い嵐で暗さに適応したレミの目の前に、大量の光が溢れ出す。
レミ「大砂漠之番犬!」
この隙をやられまいと、己が身を守る10m程の砂のライオンを出し、
足止めされるユルリカ。
ユルリカ
「断罪之十字架!!!」
その黒きライオンに、5m程光の十字架が大量に突き刺さり、
たちまち崩れ落ちる。
レミ
「いでよ死神!死神の鎌!」
崩れたライオンの黒い砂から死神が形成され、ユルリカを襲う。
ユルリカ
「まさか罠魔法だったの!?」
レミ
「死神は直接攻撃は出来ないけどね...」
ユルリカ
「これは...なんなの!?頭が...!」
死神の鎌に触れ、苦しみだすユルリカ。
レミ
「嫌な記憶を思い出させたり、
これから起こりうる最悪の出来事を強制的に脳に植え付けるの。
アタイはこの魔法、使いたくなかったんだけどね。これしか無かったのさ、
アンタが悪いなんてことは無いよ。ま、聞こえて無いだろうけどさ。」
ユルリカの脳内は、キリヤマがメルナードに殺され、
この戦争で大敗を喫したメイナード軍と、
その後一族が受ける差別と虐待の末路を見せられていた。
それは酷いもので、子供大人関係なく奴隷として、
玩具として虐げられるリアルな想像が脳内を駆け巡らされる。
ユルリカ
「こんな事に...なるわけないでしょ!!!奇跡砲!!!」
見せられた幻覚を振りほどき、レミに光線を浴びせるユルリカ。
レミ
「何で...それを解けたの...?」
光線を浴びせられ、倒れながらにもユルリカに問うレミ。
ユルリカ
「私、信じてますから...キリヤマさんを。先程仲間が教えてくれたんです、
好きな人が頑張ってる時にするのは心配じゃなくて信じてあげることだって。」
レミ
「へっ、完敗だね。」
そう呟きながらレミは戦場で倒れ込んだ。




