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頭上に飛び交う鉄の塊。
逃げ惑い、怒鳴り合い、死んでいく目の前の人達。
つい数分前まで、ふざけて笑いあっていた若い夫婦は血の水分で出来た泥にまみれて原型を失っていた。
建物の陰へ逃げた人達は爆弾で体の足だろうか、腕だろうかを空へ飛ばしていた。
広い道へは鉛の雨が降り、赤い水溜まりを作る。
建物は燃え尽き、その中からは怨嗟と恐怖、運命を呪った叫びが、命燃え尽きるまで続く。
その音は1つ2つでは効かない。
フラフラと歩いていて、死んでいないのは奇跡だった。
血の匂い、灰の匂い、油が焦げる匂い。
臭いなんてものじゃない。
まともな感覚なんて残ってない。
感性はとうに死んだ。
永遠とも思える時間はしかし、有限で、辺りに死体が増えれば空は何事も無かったかのように青色を見せる。
若干、灰色の線が残っているのがこの出来事の名残であり、また、逃げ場などないと言われているよう。
皆、やせ細っていた。
それでも生きようと無理に笑って、乗り切ろうとしていた。
今日より明日、明日より明後日といい方へ行くと信じて各自元に戻ろうと我武者羅だった。
そう、だった。
辺りは地獄。
希望なんてなかった。
失った心はしかし、1つの感情だけ残していった。
「全て殺す」
幼い声。
その稚拙さに刻まれた怨嗟。
眼光は死だけを捉え、拳は血で滲んだ。
内戦。
平和な国と言われた皇国は錆び付き、綻び、軋轢を産んで2分化した。
詳しい内容は国民は知らない。
軍と国。北と南。ちっぽけな島国はさらにちっぽけに4分割され、争いの絶えない国となった。
今起こったことはもう珍しい事では無い。
文明が発達して、戦争はより高度へより残酷に、被害を広げどこまでも続いていく。
この状況は今年で5年目。
内戦や、戦争はなにもこの皇国だけでは無いというのが救いの無い話。
カチリと脳のどこかでナニカが壊れた。
少女は皇国の軍へ保護される。
まともな生活はない。
最低限が保証され、働かされるだけ。
それでも鉛の雨よりはマシ。
そして、壊れた脳は、他の人を凌駕する膂力を手に入れていた。




