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Case.02 無邪気な悪魔

 まり鈴ちゃんは活発な女の子。


 お友達もいっぱいいます。


 女の子も男の子もいりまじって


 ドッヂボールやだるまさんころんだをしたり


 かくれんぼもします。


 マイブームはすべり台です。


 ただ滑るのでは物足りなくなったまり鈴ちゃんは


 後ろ向きになって滑るようになりました。


 雄叫びを上げながら


 シューーーっ! と上手に滑っていきます。


 端っこまで来たらトトンと地面に着地。


 そのスリルがくせになるまり鈴ちゃんでした。


 それを真似して


 ほかの子たちも同じように


 後ろ向きに滑っていきます。


 シューーっと。


 公園にはそんな子どもたちの


 はしゃぐ声が響いていました。




 でも一人だけ真似しようとしない子がいました。


 運動が苦手な夏帆ちゃんです。


「夏帆ちゃん、なんでやらないの?」


 まり鈴ちゃんが言うとまたほかの子が真似をして


「なんで?」「なんでやんないの?」と夏帆ちゃんを追い詰めます。

 

 おとなしい夏帆ちゃんは小さな声で言いました。


「ええ〜っ、だってぇ……怖いもん」


「楽しいからいっしょにやろうよ〜」とまり鈴ちゃんが誘ってきます。


「……」

 困って何も言い返せない夏帆ちゃんをみんながじーっと見つめて圧をかけてきます。


「もう暗くなっちゃうよ」


 まり鈴ちゃんがイラッとした声で言いました


「せっかくみんなで楽しんでんのにさあ、一人だけやらないとしらけるじゃん」


「でもぉ……」


「じゃあさ、見ててあげるから一回やってみよう?」


「ええっ……」


 腰が引けている夏帆ちゃんの手をひっぱって


 強引にすべり台に誘導するまり鈴ちゃん。


 それを見たほかの子が手を貸します。


「怖い、怖い……」


 かわいそうに夏帆ちゃんはお友達に背中を押されて


 むりやり頂上まで登らされてしまいました。


「発射3秒前〜」


 そうまり鈴ちゃんが言うと


 みんなが一斉にカウントダウンを始めます。


「スリ〜〜ぃ」


「トゥ〜〜ぅ」


「ワぁ〜〜ン」


「ゼロぉお〜〜発射〜!」


 一際大きな声でそう言うと同時に


 まり鈴ちゃんは握っていた夏帆ちゃんの手を


 その瞬間ぱっと離しました。


「キャ!!?」


 ふいうちのような出来事に


 夏帆ちゃんは慌てて空をかき


 どうにか手すりをつかんで


 落っこちないようにしようとしましたが


「あ」


 バランスを崩した夏帆ちゃんの身体は


 ゴロンと後転するようにすべり台の上を転がって行きました。


 ゴロンゴロンゴロン――


 その様子をほかの子たちはポカーンと口を開けて


 ただただながめているばかり。


「あ!」


 すべり台から外れて地面に身体が投げ出されました。


「あ〜あ」


 頭が地面に叩きつけられてゴチッというにぶい音がして


「うわっ!」とみんながいっせいに顔をしかめます。



「やばくな〜い?」


「やばくな〜い?」


「やばくな〜い?」


 口々にみんな言いました。


 まり鈴ちゃんもさすがに青ざめましたが


「ハハ」と言って軽く苦笑いします。



 それからみんなで相談して救急車を呼び、夏帆ちゃんは到着した病院に運ばれていきました。

 


 公園の防犯カメラがその様子を映していました。

 まり鈴ちゃんもその他いっしょに遊んでいたお友達も

 防犯カメラの存在は知っています。

 でもまり鈴ちゃんはこう考えていました。


 あたしはみんなとすべり台で遊んでただけ

 夏帆ちゃんがすべり台から落っこちたのはあたしのせいじゃない


 だって


 あたしは別に夏帆ちゃんのこと

 押したわけじゃないし


 カメラにもそれが映ってるはずだし♪



 悪びれもせず、チロッと舌を出す無邪気なまり鈴ちゃんでした。


 夏帆ちゃんは一命をとりとめましたが


 頭部と脊髄を損傷して


 まだ眠ったままです。



 「酷い!」


 夏帆ちゃんのお母さんは、現場にいたお友達が許せませんでした。


 見せてもらった当日の映像には娘の夏帆ちゃんが、いやいやすべり台に誘導され


 頂上から転がり落ちていく姿がしっかりと映っていました。


 果歩ちゃんのお母さんは、昏睡状態になってしまった娘の無念を晴らすために

 

 強要罪と傷害罪で刑事告訴しようとしますが


「こどもだから」


「この子にも未来がある」


 しまいには

  

「あなたも子を持つ親ならわかるでしょ!?」と罵倒される始末です。


 ここは未来。


 少年法は改正され、凶悪犯罪に該当した場合は未成年でも、知能指数が7歳以上から刑事告訴が可能です。



 夏帆ちゃんのお母さんは諦めませんでした。


 彼女はそんな言葉にも負けたりしません。


 強くあろうとしました。


 彼女は――夏帆ちゃんのお母さんはシングルマザーです。


 こんな時、頼れる旦那さんはおらず


 娘を守れるのは母親の自分しかいないのです。


 ここで引き下がることはできませんでした。


 強き母は


 『無人街(ムジンガイ)』へ向かいました。


 機械の裁判官に、人間の裁判官より


 公正な判決を下してもらうために。


 

 

 「押してない」と言うまり鈴ちゃん。


 だから罪はないということになるのか?


 一人の少女の命が消えかかっているというのに…… 








 その判決は――――




              『有罪』



 機械の裁判官はそう判決を下しました。

 その瞬間夏帆ちゃんのお母さんの目には、涙が溢れ出します。


 最後に機械の裁判官は被告人の少女――まり鈴ちゃんにこんな声をかけました。




   『ドンナコドモモ更正デキルト評判ノ



    セミナーガ受ケラレル場所ニ招待シマスノデ   



    ソコデ学ンデキテクダサイ



    ドウカ



    弱イ者ヲ守ッテアゲラレル



    ヤサシイ大人二ナッテクダサイ』






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