第八話【再発】
不死林檎です。いつものです。
【codename:Doll/コードネーム:ドール】
暁月を探りに来たアラサーのプロスパイ。
気さくで明るい性格で、コミュ力が高いのが自慢だったがターゲットの暁月には効かなかった
日常生活では暁月のつけた偽名、『アミィ』を使っている。
【夏野 暁月/なつの あかつき】
国家直属の組織で情報管理を任されている高校生。
クールでドライと思われがちだが、人付き合いが苦手なだけの単なるコミュ障。
アミィが来るまでマンションに一人暮らしだった。
「ただいま」
「おそくなってごめんなさい」
「おとうさん?」
「おかあさん?」
「いないの?」
ごめんなさい、怖い、痛い、触らないで、気持ち悪い、ここから出して、助けて、もう殴らないで、殺さないで、言うこと聞くから、苦しい、どうしてこんなことするの、おとうさん、死にたくない、返事して、おかあさん、いい子にするから、夢なら早く覚めて、嫌だ、いやだ、もう痛いのはいや…!
「暁月!!」
息を吸い込むような声、ぱっちり開いた瞳と目が合う。よかった…。ひと先ず安心した。
いつもより若干早く起きたので、だらだらとテレビを見ていたのだが、いつも暁月が起きてくる時間になっても部屋から出てこない。
ちょっと心配になって、ドアをノックしてみたものの返事が無い。遅刻したら可哀想だからな~許されるよな~…と心の中で言い訳をしながら、部屋にお邪魔したら変な声が聞こえた、…魘されていた。
怖い夢でも見ているんだろうか。とにかくこのままじゃ可哀想だ。起こしてあげなくては…。
最初は遠慮がちに小さな声で、でも目覚めないからもう少し近づいて大きな声で。そこでようやく眠りの世界から戻ってきてくれた。まぁ…一応落ち着きはしたけど…。
どうみても普通じゃない。怖い夢だったなら尚更、目覚めて現実じゃないことを実感して安堵するはずなのに。
顔が真っ青で、引き攣った顔で心做しか目元に微かに雫が見える。息も荒いし、動悸もすごいんじゃないか?
どうしたの、って聞きたいけど、…喉の奥に何か引っ掛かって出てこなかった。
いつの間にか暁月は胸の前で、まるで祈るように目を瞑り両手を重ねて、
「大丈夫…大丈夫……。」
と譫言のように呟く。…今の自分に何ができるのか、考えたところで答えなんか出なかった。黙っていたおかげで、…新たな疑問を聞き逃すことができなかった。
「せんせい…。」
「え?」
今何て言った?「せんせい」?…「先生」?え…誰。
「だ、…大丈夫です。今、朝ご飯用意しますから…。」
「あ、あ、いい!もう食べた!俺は大丈夫だけど、お前が大丈夫じゃないだろ…!今日学校休んだ方が良いんじゃないか!?」
飯食ったなんて嘘だけど、今こんな状態のお前に料理させようとするほど性格悪くないぞ、俺。
暁月は俯いて小さく頭を振る。こいつ、変なとこ頑固だからな…。無理しないで欲しいんだけど。
結局、碌に朝飯も食べずに家を出て行った。そんな背中を見送った後、玄関で立ち尽くしていたら、俺も遅刻しかけた。
***
午後四時くらい、書類の整理をしていたら暁月からメールが来た。
「ごめん、ちょっとトイレ。」
さりげなく理由をつくってオフィスから離れ、個室の中でスマホを見る。え~、なになに?
『仕事中にすみません。今晩は夕食を作れるかどうかわからないので、お惣菜等を買って帰ります。ご飯は冷凍してあるものと、お湯でできるお味噌汁がキッチンの戸棚にあるので心配しないで下さい。それと、帰りに寄らなくてはいけない所があるので遅れたらごめんなさい。お気をつけてお帰り下さい。』
なんて丁寧な文章なんだ。育ちが良いにも程があるぞ。…俺とは大違いだな。
それにしても無理して料理するとかじゃなくて、ちゃんと買うのか。そこは良かった。
だが…ひとつ腑に落ちない所がある。
料理もできないほど弱っているのに、どこに寄ると言うんだろうか。そういえばあいつ、定期的にどこかへ出かけてるんだよな、買い物とかじゃなくて。
もしかして仕事関係か?体調次第で休めないほどの職場環境なんてなぁ…。まだそうと決まったわけじゃないが。
わかった。無理しないで、そっちも気をつけろよ。と、返信して、個室から出る。
***
「そっかぁ、最近は頻度下がってたのにね。」
「…はい。」
「多分、前まで高校に入ってから忙しくて、疲れて夢も見ないほど熟睡してたんじゃないかな。でも余裕ができてきたから、ちょっと眠りが浅くなってるのかもね。」
「……。」
「君、もう睡眠薬は服用してないよね?ちゃんと処方されたものだけ飲んでる?」
「はい。あの、捨てました。あれから飲んでません。」
「なら全然構わないよ。それじゃ、今月の分、出しておくから。もっと辛くなってきたらまたおいで。」
「はい、ありがとうございます。」
「楓先生。」
今回も何も書くことが無いですね。最後まで読んでいただきありがとうございました。