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第五話【晩餐】

不死林檎です。今回は前回から続いています。そして恒例のメインキャラクター紹介になります。


【codename:Doll/コードネーム:ドール】

暁月を探りに来たアラサーのプロスパイ。

気さくで明るい性格で、コミュ力が高いのが自慢だったがターゲットの暁月には効かなかった。

日常生活では暁月のつけた偽名、『アミィ』を使っている。


【夏野 暁月/なつの あかつき】

国家直属の組織で情報管理を任されている高校生。

クールでドライと思われがちだが、人付き合いが苦手なだけの単なるコミュ障。

アミィが来るまでマンションに一人暮らしだった。

 例の飲み会の次の日、俺は丸一日暇を持て余すはずが、酷い二日酔いが抜けきれずろくに綴ちゃんのアドバイスを行動に移せなかった。

土曜日なので普通の公立高校に通う暁月も家にいて、朝飯もまともに食べられていない俺を心配してくれた。何故そう言い切れるかと言うと、リビングに起きてくるのも覚束おぼつかなかった俺へ、何も言わずに味噌汁と頭痛の薬を出してくれたからである。

これは親密度上がったんじゃね?とか思って調子に乗っていたが、頭痛薬を飲んで冷静になってみると、この対応は別に誰に対しても同じようにするんじゃないかと、俺限定とか特別とかでない、ただ単純に具合の悪い人にするそれと同じなんじゃないかという気分になってきた。


***


 夕方まで暁月は自室にこもり、俺は本当に何もする気が起きなかったのでテレビをずっと見ていた。

お昼時の料理が出てくる番組ほど、お腹が空いている時ならたまったものじゃないが今日だけはその気が微塵みじんも沸いて来なかった。その後もチャンネルを変えては、サスペンス劇場やドラマの再放送を鑑賞していた。

 一日のほぼ六割が過ぎたところで、暁月はようやく部屋から出てきた。

そういえばこいつ、いつトイレとか行ってるんだ?必ずリビングを通るのに俺が気付かないなんてありえない。人間辞めてんじゃねえかな、とふと思う。

「あ、どっか行くの?」

手にした地味な手提げに、これまた地味な財布を入れるのを見て反射的に声を掛けてしまった。

「…今晩の食材が無いので、買い出しに行ってきます。すぐ戻ります。」

それを聞いた瞬間、なんというか、冷水を被ったみたいに急激に頭が冴えた。そしておぼろげな記憶が脳内を駆け巡った。

『一緒に夜ご飯を食べれば…協力して料理しても…誰かと一緒に食べたほうが…』

断片だんぺん的な記憶の中の会話が俺に最適解を享受きょうじゅしてくれる。まさかこんなに早く機会が訪れるとは思ってもみなかった。そしてここを逃したらチャンスは無いということも瞬時に理解した。

「俺も買いたいものがあるから一緒に行く!歩きだよな!?」

焦って若干早口になりつつあったが、そんなことは気にも留めていないようだった。

「そうですけど…、言ってくれれば買ってきます。一緒に行く必要は…。」

「あーえっと…そう!酒!酒はお前まだ買えないだろ!?昨日みたいに飲みすぎちゃうことがあるからさぁ!だからいつも少しずつ飲んだりすれば酒に強くなれるから今日欲しいの!駄目!?」

手提げを肩に掛けたままの暁月は相変わらず無表情のまま視線を足元に移す。俺を連れて行こうか悩んでいるようだった。俺の必死な様子に根負けしたのか、暁月は、

「じゃあ…行きますか?」

とポツリと呟くように問いかける。もちろん俺は諸手もろてを挙げて、その言葉を待ってましたと言わんばかりに幼い子供がするような良い返事をしたのだった。


***


「だっ、だから駄目ですってさっきから何度も言ってるじゃないですか…!」

「だっていっこに絞れないんだも~ん。半分あげるから二つ買おうよ~!」

辿りついたどこにでもあるようなスーパーマーケットの一角で、些細ささいで平和な口論をしていた。

もとより酒類のものを買うつもりのなかった俺は、酒じゃなくて酒のさかなが欲しかったんだった~と偽笑ぎしょうじみた顔で苦し紛れに言い訳をしたのだった。

その後の暁月の顔が何だか冷ややかな気がしてならず、つまみのコーナーに無理やり引っ張ってきていさかいを起こすことで意識を別の方向に向かせようと試みている最中である。

 「じゃあもう…いいです。早く入れてください。」

こいつほんとに押しに弱いな。前にどっかの廃ビルで極道相手に取引したのと比べると、粘った時間が余りにも少ない。あの時は一晩掛けて支払いを値切ったんだっけな。

暁月は会計を済ませ、手提げの中に手際よく買ったものを詰めていく。ナマ物をビニール袋に包んだり、牛乳パックなんかを下に入れたりしていて、一人で買い物をすることに慣れているような感じがした。

そういえば、こいつは俺が来るまでどう生きてきたんだ?マンションの家賃や生活費は一体何処からの収入なんだ?例の情報管理の仕事か?そして家族はどうしたんだろう。いつからあのマンションに一人で暮らしているのだろう。

 「行きますよ。」

急に自分の思考の世界から現実に引き戻される。暁月は俺の数歩先で手提げを肩から掛けて待っていた。

いつか俺がこいつについて探っていることがすべて判明する日は来るんだろうか。気の抜けた返事をしながら、俺は小走りで後ろについていった。


買ったものは明らかに今日の晩飯の分だけ、という量じゃなかった。明日の分の買い物も済ませようとしていたのだろう。

しかし、手提げを肩から掛けているが重そうだな。そういえば暁月は高校一年生にしては比較的細くてちっこい。睡眠不足か、栄養失調か?それとも遺伝なのか…?まだまだこいつについて知らないことが多すぎる。まぁ、それはともかく…。

「え?あっ、ちょっと…!」

俺は暁月の提げている荷物を、大人の余裕でひらりとかすめ取った。見た目ほど重くないな。

「あっあの、どういうつもりですかっ…!」

「ははは、盗んだんじゃねーよ、言っとくけど。俺の我儘わがままを聞いてくれたお礼に、家まで荷物持ちになってやるぜ~!」

手提げ片手に、くるくると回りながら軽い足取りで先導する。取り返すことに躍起やっきになるほど子供じゃないだろうが、暁月は焦った様子で手を伸ばす。

「そ、そんな気を遣わないでください、重くないですから…!」

俺はそんな言葉に聞こえないフリをして、鼻歌を歌いながら帰路きろに着いたのだった。


***


流石にもう色々聞いてもらったので、『一緒に料理』は保留にした。その代わり、今日は一緒に食べたいというと、今日の俺の引かなさで学んだのか提案はあっさりと受理じゅりされた。

晩飯のメニューは野菜炒めだった。フライパンを動かし油で炒める音と、エプロンをつけて料理する後ろ姿を見ているとなんとなく心がなごむ。ダイニングテーブルで頬杖を付きながら冷たい麦茶をすすった。

手際がいいのか、晩飯はほんの数分で出来上がった。料理を堪能たんのうしながらも観察を忘れない。

箸の持ち方や食事のマナーとかに注意してみてはいたが、上品で非の打ち所が無かった。いいとこの育ちなのかな。暁月は俺に注目されていることに気づかず、黙って食事を敢行かんこうしている。

美味しいよ、と伝えるとうつむいてありがとうございますを小さな声で言った。


今日得た情報は『得意なのは家庭料理』ということだけだったが、何だか満たされた気持ちになった。

今回は特に何も書くことがないですね。

自分用でも小説は書いていて楽しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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