第三話【探訪】
不死林檎です。
この前書きの部分に登場人物を書こうと思います。
【codename:Doll/コードネーム:ドール】
暁月を探りに来たアラサーのプロスパイ。
気さくで明るい性格で、コミュ力が高いのが自慢だったがターゲットの暁月には効かなかった。
日常生活では暁月のつけた偽名、『アミィ』を使っている。
【夏野 暁月/なつの あかつき】
国家直属の組織で情報管理を任されている高校生。
クールでドライと思われがちだが、人付き合いが苦手なだけの単なるコミュ障。
アミィが来るまでマンションに一人暮らしだった。
「ここか…。」
周りの人に気づかれないほど小さく、口の中でそう呟いた。ここが県立永玲高校、間違いない。
空は厚い雲で覆われていて、時間がいつだか目で見てわかることはないが、高校なんてどこも真正面の見やすい位置に時計があるもんだ。ここも例に漏れず、目的のそれは午後三時過ぎを示していた。
ブロック塀の角から顔を出す俺は宛ら、張り込みをする刑事のようだ。
前回の作戦では目ぼしい情報は得られなかった。その後の情報収集も芳しくなかったのは事実だ。
流石にこうも悠長に機会が訪れるのを待ってちゃいられない―そしてついに、暁月の高校まで視察に来たのだった。
***
学校まで見に来たならば、得られる情報は多いだろう。学力や交友関係、ついでに今までの経歴なんか。
本人に単刀直入に聞いたら勿論怪しがられ、簡単に口を割らないだろう。そもそもリスクが大きすぎる。
その点今回は学校に来て、その辺の学生数人に話すだけで済むので実に楽且つ利益が高い。
ノーリスクハイリターンな今回の作戦は完璧だ。もう何も怖くない。(あっ…)
時計の長針が1/4を過ぎたところで、制服が似て非なる着こなしの生徒達が次々に出てきた。
しかし割と長い時間待ってはみたが、目的の暁月はなかなか現れない。さて、どうしたものか。
周囲を見渡すと、高校の塀にもたれかかるようにまどろんでいる女子生徒がいた。
おそらく彼女は誰かと待ち合わせているのだろう。一人でいるのは声を掛けるのに都合がいい。
「へい、そこのお嬢さん、ちょっといいかい?」
「きゃあああぁぁぁぁあああ!?」
「うえええええぇぇ!?待って怪しい人じゃないから多分!ぼ、防犯ブザー鳴らさないでっ‼」
ちょ、話しかけただけでそんな悲鳴上げるか!?あとなんでそんなアイテム持ってんだよ!
しばらく周りの注目を浴びていた俺とその子は傍から見れば滑稽なものだろう。
***
「す、すみません取り乱してしまって…。」
先程の少女はぺこりと頭を下げる。特段悪いことをしたつもりはないのだが、こうも自分より年齢の低い女の子に謝られてしまうと申し訳ないような気持ちになってくる。
気にしなくていいよ、などという軒並みの返事をし、指で頬をポリポリと掻いた。
俺が今謝辞を述べられてしまう前に、二人で簡単な自己紹介を済ませていたのだ。
彼女の名前は如月 兎妃といい、頭の左右で結ったツインテールと片目が隠れがちな長い前髪、そしておそらく平均より小さい身長が特徴な、小動物を想起させる風貌であった。
「ところで、君は暁月と同じクラスなんだっけ?」
「はい、1-Cクラスです。ご存じでしたか?」
いや、本当に声を掛けたのは偶然だったのだが、深堀りされると面倒くさい。
まぁそんな感じ、とはぐらかす。彼女もそれ以上追及してこなかったので、俺はそれで良しとした。
そこで俺は本来の目的を思い出す。初対面の女の子に話しかけに遥々やってきたわけではないのだ。
「俺はあいつの学校の様子が知りたくってさあ。どう?教室だとどんな感じ?」
そうですねぇ…と言いながら軽く握った手を口元にやり、考え込む素振りを見せる。適当なことが言えない、真面目な子なんだろう。
「私も喋ったことは無いんですけど…すごく頭がいいんです、前のテストも一位だったかな。私は自慢できるような点数じゃなくて…羨ましいです…。」
自分で喋った内容に自分でしょんぼりしちゃったよこの子。取り敢えず適当に励ましておいた。
なるほど、あいつ頭の回転が速いとかの「頭がいい」じゃなくて、単純に学業の成績がいいのか。これは有益な情報かもしれないな。サンキュー嬢ちゃん。
「にしても…遅くないか?」
「確かに…もう四時半ですよ。私も人を待ってるのですが…。」
やっぱり誰か待ってたのか。二人で歓談している内に出てくると思ったが、そんな気配がまるでない。
「なぁ、その待ちあわせてる奴から連絡とか来てるんじゃないかなぁ、こんだけ遅れるならさ。」
「そ、そうですね、確認してみます。」
彼女はいそいそと端末を取り出す。
「あ、来てました。音、鳴ってたのかなぁ…?」
と、首を傾げて端末を操作した。通知がオフになっているのに気づいていないのだろうか。
「あ、ついでにそいつに暁月何してるか聞いてみてくれない?」
「わかりました。えぇと、な、つ、の、く、ん、は…。」
フリック操作が…ゆっくりだなぁ…。持ち慣れてないのだろうか。
「えっと、夏野くん教室で寝ちゃってたそうです。今から玄関に向かうそうですよ。」
「いや寝てたのかよ…ありがとなお嬢ちゃん。」
***
結局彼女は待ち合わせの誰かさんが、もう少し遅くなるから校舎の中に入ってきてほしいとのことだったので、別れを惜しむように何度も手を振ってくれた。うん、いい子だなぁ。
小走りで玄関に向かう彼女と入れ違うように、俺の同居人もといターゲットの暁月は現れた。
いつもよりぼおっとした雰囲気でトコトコと歩いてくる。そして俺の姿をようやく視認したようだ。
「ど、どうしてここにいるんですか…?何か緊急の用でも?」
暁月は何とか眠いのを取り繕おうとしてはいるものの、顔に腕もしくは机を押し付けた跡が残っているうえ目撃情報もあるのだから熟睡してたのは知ってるぞ。
「いやぁ、ここら辺最近不審者が出てるらしくてさ?心配で迎えに来たんだよ~。」
もとから用意していた言い訳をさも普通のように話した。子ども扱いしないでくださいと不服そうに言われたが、眼鏡の高校生探偵じゃないんだから高校生は子供だろう、俺からしたらな。
ひとまず来訪の理由に納得してくれたのか、もういいから帰りましょうとのことだった。
俺が先行して歩いていたが、暁月は急に足を止める。そして手のひらを中空に向け、上を見上げた。
いつの間にか鉛色の空から不定の間隔で水滴が、雨が降ってきていた。
俺は当然傘なんてものの持ち合わせがないから、コンビニでも寄らせてもらおうと思ったのだが、暁月は鞄から取り出した無地の折り畳み傘を差し出してきた。
「俺に使えってこと?いいよいいよコンビニとかまで我慢するから…お前が風邪ひいちゃうよ、そんな細いのに。」
「ほ、細さは関係ありません…!わざわざ迎えにまで来てくれたのに、病気でもされたらこっちはもっと申し訳ないんです。いいから使ってください、はい。」
こいつはどれだけ断ろうと頑なに傘を引っ込めようとしない。意外と頑固だな…。
俺がそれを受け取り、半分だけ使った。要はまぁ…相合傘。
最初暁月は戸惑ってちゃんと使ってくださいと抗弁していたが、俺が聞く耳を持たないことを悟ると大人しく横についてきた。俯いたこいつの顔はうっすらと赤く、何だか照れているようだった。
その後暁月の高校周辺で不審者注意の喚起がされた。まさか言い訳の為の作り話が実現してしまうとは。
目撃証言によるとどうやら可愛い子を選りすぐって声を掛けていて、その人物はスーツを着て小さな女の子に悲鳴まで上げられていた…らしい。
全くそんな奴もいるのか、世も末だな。
ここも、今回初登場のキャラクター紹介の場にしたいと思います。
【如月 兎妃/きさらぎ とき】
暁月のクラスメート。大人しく控えめな典型的ドジっ子。
小動物を思わせる小さな身長とウサギの耳のようなツインテールが特徴。
実は僕の親友から提供されたキャラクターです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。