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第二話【観取】

不死林檎です。

この小説は自分用みたいなものですというのを前回書き忘れていました。すみません。

自己満足の塊ですが、よろしくお願いいたします。

 「暁月っ!映画見よう!」

今回のチョイスはホラー映画。もしこいつがホラーに強ければ俺が怖がり甘え、弱ければ安心させてやる。

これで親密度を上げる、名付けて【ドキドキ☆映画大作戦】だ―

「あ、…今、課題やってて…忙しいからいいです…。」


***


 「ねえぇぇ!お願い一生のお願いいぃぃ!一緒に見てよおぉお!課題やりながらでいいからさあぁ!」

泣きながら両手を合わせて懇願する。

ここで計画が破綻したら折角練った時間が水の泡なので、何が何でも引き下がるわけにはいかないのだ。

俺の姿でも哀れにでも思ったのか、渋々了承してくれた。

色々と失ったものはあったが、何とかスタートラインに辿りつくことができた。(スタートラインは辿りつくものじゃないだろ)

実はというと、この家テレビはあるがゲーム機はおろか、DVDを再生できるようなデバイスさえなかった。

だからこの日の為に貯金を切り崩してプレイヤーを買い、前日にこのテレビにセットしておいたのだ。

俺は割と慎重派だからな。入念に入念な準備を重ねて、少しのミスなく完成させる。これが俺のスタイルだ。

 序盤は導入なだけあって特に反応は無かった。そこまでは良かったのだが…。

ビックリ演出にも驚かず、ヒヤリとさせられるようなポイントにも目も逸らさず、淡々と鑑賞していた。

ま、まあまあ…ここで俺が叫ぶか抱きつくかなんかして甘えれば、

「お、なんだこいつ、可愛いじゃねえか!しゃ~ねえいっちょいいトコ見せるか!」

的な感情も芽生えるはずだ…。二択の内、【俺が甘える】を選択する。

さて、位置取りが悪い。俺が座っているのはキッチンに近い食卓のテーブルの椅子で、あいつが座っているのはテレビの前の椅子の無いローテーブルだ。

こんな距離が離れていたら何やっても効果は薄い。取り敢えず近づいて隣にでも腰を下ろそう。

ここまで紆余曲折あったものの、俺の準備万端に徹する性格が功を奏して比較的ことは上手く進んでいた。

 隣に座る前に、後ろに立っただけでこいつは敏感にも俺の存在に気づいたようだ。

そして、ぎょっとした顔で身を引く。

「俺はお前に乱暴する気は無いぞ!?た、ただちょ~っと怖くなったから近くにいたいカナーと…思った…だけでして…。」

両手を顔の前で勢いよく振り、精一杯の潔白の意を示す。余り効果は見込めなさそうだ…。

「そ、そんなに怖いなら見るのを辞めればいいじゃないですか。別にこっちは興味があって観てるんじゃないですし…。」

身構えたまま、警戒の姿勢を崩さずに正論で突き返された。そうだこいつは自分の領域に入られるのを避けていたんだった。あぁ、ミスった。

だが、それでも俺は引かない。ここで大人しく引っ込んだらスパイの肩書がすたるってもんだ。

「わかった、こうしよう。隣にいるだけ、ほんとにそれだけ。触らないし話しかけないし充分な距離もとる!それでどうだ!」

威張るようなことではないが、自信たっぷりに条件を提案する。

暁月は考えを巡らせる為にか視線をテレビに移した、…一瞬だった。

 目の前の光景に目を疑う。目の前の暁月が、ぱったりと力無く倒れてしまったのだ。

貧血か?酸欠か?急に人が倒れる原因なんか俺がわかるはずもない。血の気がサッと引いていく。

触られるのを嫌う、こいつの性質も無視して抱き起すと驚くほど軽いこいつの体からは意識があるように感じられない。こいつ…気絶してるのか。にしても、一体何故?

俺の視線はテレビへ。そこには荒廃した部屋に転がる男女の死体が映し出されていた。


***


 「…お、気が付いたか。気分はどうだ?」

相変わらず真っ白な顔をした暁月は薄く目を開いた。二、三度瞬きをした後、俺に焦点を合わせる。

俺のさっきの台詞セリフはゲームとかでぶっ倒れた主人公を助けたみたいだな。

寝たままの姿勢で首をゆっくりと左右に振る。今自分がどこにいるのか把握しかねているようだった。

ここは俺の部屋だ。

倒れたこいつを放置するわけにはいかないから、取り敢えず運ぼうと思ったのだが、この家ソファーも無いし枕代わりにできるようなクッションも無い。

いっそ暁月の部屋のベッドに寝かせてやろうとも思ったが、勝手に入ったらただでさえ低い好感度がゼロどころかマイナス方面に向かってしまう。それだけは何としてでも避けねば。

そう思い、間を取って(?)俺の部屋のベッドに運び込んだのだった。

 「…す、…すみません…。」

「へっ!?」

回想に浸っていたら急に話しかけられたので、裏返った変な声が出てしまった。な、何て言った?

よく観察してみると、眉間に小さくしわが寄っているのがわかった。

「もう大丈夫です。お手を煩わせてしまってすみません。」

次ははっきりと発せられた言葉を理解できた。何を謝ることがあるのか。

「いやいや全然、むしろこっちこそ無許可で触っちゃってごめんね…はは…。」

苦笑を保ちながら右手でポリポリと頭を掻く。そして興味本位で聞いてみたいことがあったのを思い出す。

「もしかしてさぁ…グロいのとか、…苦手だったりする?」

さっきの映画のワンシーンを想起させてしまったようで、暁月はきゅっと固く目を瞑った。そこに対して俺はまた平謝りをする。

「はい…実は少し…苦手です。」

絞り出すような声で俺の問いに肯定の意を示す。

「あー…そうだったのかぁ。ごめんな、悪いことしちゃったな。」


***


 暁月はふらつきながら少し休むと言って自分の部屋に戻り、俺は部屋に一人きりになった。

リビングに戻り、点けっぱなしのテレビを消して飲み物を片手に自分の部屋の机に座り、パソコンの電源を入れた。パスワードを打ち込み、仕事用のファイルを開く。

標的ターゲット、夏野 暁月はホラー映画の視聴中、突如意識を失った。一部分に損傷の激しい死体が映ったことが要因であると考えられる。何故それらが苦手な傾向の原因になったかは調査中。』

粗方あらかた文面を打ち込んだところで、溜息をつき机に伏せてしまった。

暗く、後ろ向きな考えに脳内を支配されていく。

俺はあいつに苦手なものを半強制的に見せた挙句、自分の仕事のかてにしようとしているのか。

この先、こんな感情にさいなまれながら仕事を続けられるのだろうか?

そういえば更に前回忘れていたので、登場人物の紹介をしたいと思います。

【codename:Doll/コードネーム:ドール】

暁月を探りに来たアラサーのプロスパイ。

気さくで明るい性格で、コミュ力が高いのが自慢だったがターゲットの暁月には効かなかった。

日常生活では暁月のつけた偽名、『アミィ』を使っている。


【夏野 暁月/なつの あかつき】

国家直属の組織で情報管理を任されている高校生。

クールでドライと思われがちだが、人付き合いが苦手なだけの単なるコミュ障。

アミィが来るまでマンションに一人暮らしだった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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