① 両想い疑惑とトリプルデートプラン
文学乙女会議で恋の経過報告をするせいら。
両想いほぼ確定?!
めでたく、トリプルデートプランが始動し……。
「それじゃ、今日の『文学乙女会議』、はじめますっ」
メンバーがそろってさっそく、わたしは開会宣言をしたんだ。
あ、いきなりびっくりしたよね?
ごめん、今ちょっと焦ってて。
はじめての人にもわかるように、説明しなきゃ。
わたし、本野夢未。栞町に住んでる、小学六年生。
遠い国で書かれた物語を読むのが大好き。
二人の友達と『チーム・文学乙女』を組んでるの。
チームの使命は二つあるんだ。一つは本の中の世界に起こるトラブルを解決すること。
去年のクリスマスに、栞町駅ビルの『星降る書店』が、本の中の世界とつながってるって知ってから、いろんな事件を解決してきたんだ。
そしてもう一つは――それぞれの恋をがんばること。
実は先月、チームの一人のせいらちゃんの好きな人が、本の中の世界にさらわれちゃって大変だったの。
無事彼を取り戻したせいらちゃんの恋の進展模様がすごく気になってるんだ。
だから、マンションのわたしの部屋(今日の会議室)にせいらちゃんがやってきてテーブルをみんなで囲ったら、さっそく開会宣言しちゃったの。
「それで、せいら。さっきからなんか表情硬いけど、神谷先生と、あのあとどうなったの?」
チーム・文学乙女のもう一人のメンバー、ももちゃんも、気になってるのは同じみたい。
ぐっとせいらちゃんの方に近づけたポニーテールがぴょこんって揺れてる。
せいらちゃんの好きな人っていうのは、通ってる塾の神谷先生なんだ。かみやんってあだ名。さわやかなかんじのかっこいい先生なんだよ。
今日の司会担当はわたしだから、ちゃんと進めなきゃ。
「せいらちゃん、もしよかったら、話してくれる?」
せいらちゃんは、しばらく心ここにあらずってかんじで座布団にすわってテーブルを見つめてたけど……こくり、頷いてくれたの。
「あのあと、かみやんと話した時、彼のファイルから、あたしが忍ばせておいた『恋のリトマス紙』が落ちてきたの」
「おぉっ!!」
ももちゃんが目をきらっとさせてさらにせいらちゃんに顔を近づける。
「も、ももぽん、近いわっ」
せいらちゃんが突っ込むけど、でも、ももちゃんの気持ちもわかるよ!
『恋のリトマス紙』っていうのは、本の世界の中にあるショップ『秘密の花園』で売ってる便利グッズ。見かけは青い符線みたいなんだけど、恋する相手の持ち物に挟んでおいて、時間が経つと、自分への恋心指数が測れるんだ。脈ありなら、符線の色が変わるんだよね。
「で、何色だったの?」
急かすももちゃんに、せいらちゃんは消え入りそうな声で、でもちゃんと、答えてくれた。
「……きれいな、ピンク色……」
ももちゃんだけじゃなくわたしも、きゃって悲鳴を上げちゃった。
「それじゃ、神谷先生、せいらちゃんのこと……」
「どうなのせいら! 肝心の手ごたえはっ」
ももちゃんにばしっと背中を叩かれたせいらちゃんが、今度はまたテーブルを見つめて言った。
「それが……。まったく……」
え?
「授業中はもちろん、自習室で鉢合わせたときも。
彼の態度、今までとなーんにも変わらないの。
だから、なにかの間違いじゃないかって思ってるくらい……」
うーん……。
わたしとももちゃんはおもわず唸っちゃう。
そこへ、助け舟が現れたんだ。
「また恋の話?」
ジュースとお菓子を差し入れにきてくれた、星崎さんだった。
わたしはあわててお礼を言ってトレイを受け取る。
星崎さんは、わたしと一緒に暮らしてくれてる『星降る書店』の店主さん。
日曜日の今日は部屋でお仕事してるから、邪魔しちゃいけないって思ってたのに。
それでもこうやってわたしの友達をおもてなししてくれるところとか、星降る書店のときのシャツとは違うラフな格好も、お休みの日限定の眼鏡も、すてきだな。
……そう。
星崎さんは、わたしの、好きな人なんだ。
あっ。
わたしはいいことを思いついた。
「星崎さんなら、神谷先生の大学の先輩だったんだから、なにかわかるかも!」
「ゆ、夢っち、いいのよ、そこまで」
せいらちゃんがあわてて止めようとするけど、やっぱりできるだけのことは知りたいよ。
星崎さんはおもしろそうに笑って、
「龍介の気持ちか」
でもちゃんと答えてくれた。
「大人はそう感情に素直になってばかりもいられないからね。
特に龍介は、自分の才能や気持ちを隠すのが案外うまいんだ。
頭がいいくせに、そうじゃないみたくふるまったり、
教師になりたいっていう気持ちも、かなりの時期まで親御さんにも隠し通してたしね」
そういえば、そんな話、聞いたな……。
「あの人、意外に奥が深いのね」
一言余計なせいらちゃんに、星崎さんは微笑んだ。
「そうなんだ。だから、希望を捨てることはないんじゃないかな」
せいらちゃんが照れたように俯く。
「そっか。わかる気する」
ももちゃんが指を鳴らした。
「先生だったらさ、生徒にそういう気持ち持ってるなんて、おおっぴらにするわけいかないもんね」
確かに、そうかもね。
俯いたまま、せいらちゃんが呟いた。
「あたしは、陰の女だってかまわないのに……」
か、陰の女って、せいらちゃん。
星崎さんも笑ってる。
そして内緒話のように声を潜めて、耳より情報をくれたんだ。
「ここだけの話、龍介言ってたよ。せいらちゃんのことがすごくかわいいって」
ももちゃんが口笛を吹く。
「そ、そんなの。どうせ、生徒としてってことですわっ。わかってるんですっ」
って言いつつせいらちゃん、顔が真っ赤だよ。
そんなせいらちゃんに星崎さんがぼそり。
「それはどうかな」
「えっ」
「頑張ってね、応援してるよ」
「は……はいっ」
星崎さんはせいらちゃんに頷くと、お仕事に戻って行った。
わたしたちは、会議に戻らなくちゃ。
ももちゃんがパチンと手を打つ。
「じゃ、せいらも推定とはいえ両想いになったところで。
あとは夢だよね」
ええっ。
わたし?
「そうね。星崎さん、小夏さんとはどういう関係なのかとか、未だわからずじまいだし」
せいらちゃんの指摘に、うっ……。
小夏さんは、ある日星降る書店に現れたきれいな女の人。
星崎さんの前からの知り合いで、彼のこと好きみたいなんだけど、わかってるのはそれだけなんだ。
とってもすてきな人だし、星崎さんも、小夏さんのこと好きでもおかしくない……。
落ち込み気味になっていると、ももちゃんが言ってくれたんだ。
「ライバルに一歩リードするには、彼の隙を探るといいかも」
隙?
どういうことだろう。
「先週ね、マーティンと映画を観に行ったんだけど」
マーティンはももちゃんの彼。『飛ぶ教室』っていう本の中からやってきた男の子なんだ。
「彼、すごくしっかりしてるみたいだけど、ちょっと時代ギャップってのがあってね。
映画の中の犯人を捕まえるために、どうやってスクリーンの向こうへ行けるかずーっと考えてたって言うんだもん。おっかしいよね」
あはは。
マーティンの住んでる世界は九十年近く前のドイツだって考えると、それも仕方ない気もするけどね。
「でね、『スクリーンの向こうに顔つっこむとか、逆サダコかい!』ってあたしが突っ込んで」
ぷっ。わたしは笑っちゃうけど、
「いかにもももぽんが言いそうね」
せいらちゃん、冷静。
「そしたらマーティン『サダコ? その人はスクリーンを超えられるのか。きっと、いろいろな映画の悪役を懲らしめている、感心な人なんだな』とか言うからもう、盛り上がっちゃって」
「それでももぽん、ちゃんとほんとのこと教えてあげたんでしょうね」
すわった目のせいらちゃんに、ももちゃんはふふふと笑った。
「『そうなんだ。サダコは人格者。これ常識だね』って、あえて否定しなかった」
なにそれっ。
ひっどーい!
「とまぁこんなふうにね、彼の意外な隙を見つけると、盛り上がれたりするわけよ」
ももちゃんがまとめて、うーん、なるほど。
でもなぁ。
わたし、ついぽつり。
「星崎さんって、いつもにこにこしてて、なんでもできて、ぬけてるところとか、想像つかないんだよね」
「そういえば」
ももちゃんも同意。
「ちょっとでも取り乱したりしてるとこ見たことないかも。うぬ、完璧すぎるぞ、あの王子は」
「そうね……だけど」
そこへせいらちゃんが分析してくれる。
「どんな人だってほんとに完璧な人はいないわ。『意外な隙』、探してみる価値はあるんじゃないかしら」
「そうかなぁ」
「なにも、ぬけてるところだけが隙じゃないと思うの。明るくさわやかな彼が実は心に影を抱えていたり。そこに夢っちが優しく寄り添うのよ」
あぁ、そっちなら、ちょっとは想像つくかなぁ。
行き場のないわたしをひきとってくれたり、星崎さんにはなにかしてもらうばっかりで、わたしができることってあんまりないから。
なにかしてあげられたらっていつも思うんだ。
やってみようかな。
考えたらわたしが星崎さんに抱くイメージって、かっこいいとか優しいとかそういうものしかまだない。
もっとほかのわたししか知らないところとか見つけられたらすてきかも……。
そんなことを思ってると、せいらちゃんがはっと閃いた顔をした。
「好きな人の新たな一面を探すにはデートがいちばんよ」
デート!?
そ、それはしたいけど……。
「折しももうすぐ夏休み。
父さんの仕事のつてで、ストーリーシーのチケットが手に入ったの」
さ、さすが、お嬢様のせいらちゃん……。
ももちゃんも目をまん丸くして、
「まじ!? あの天金駅すぐにある、物語の世界をモチーフにした夢の国の遊園地!?」
確かに、デートスポットでは定番だよね。
「ご覧あれ、この枚数よ」
せいらちゃんがチケットを取り出してトランプみたいに並べて持つ。
すごい。十枚以上ある……。
「ももぽん、あたしたちも様子を探れるわよ。それぞれの彼にも協力してもらってね。つまり……」
せいらちゃんは、重ねたチケットを口元に持って行って、わたしたちの方に身を寄せて、囁いたの。
「トリプルデート、しちゃう?」
途端に、ももちゃんの歓声。
「やったー! 超楽しそう」
わたしも心がうきうき。
星崎さんと、みんなと、ストーリーシーに行ける……!
「決まりね。今回の『文学乙女会議』の宿題は、それぞれの好きな人をデートに誘うこと。オーケーかしら?」
手を差し出すせいらちゃんにわたしとももちゃんは手を合わせた。
「「鋼の誓い!」」




