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恋せよ文学乙女  作者: ほか
第3話 恋に悲劇はお呼びじゃないわ!
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⑲ 契約終了と恋の判定結果

3話最終話です。

せいらの恋の結末は?

 気が付くと、あたしは塾の自習室の机に座っていた。

 隣の机で、かみやんが青いファイルにつっぷして寝てる。

 あたし確か、汽車にひかれそうになって――。

 はっとした。

「キャサリンさん! どこにいるの、かかってらっしゃい、今度こそあたしが――」

「せいら、もう遅いよ」

 座ったまま後ろを振り返ると、そこには笑顔のももぽんと夢っちがいた。

 夢っちが事の次第を話してくれる。

「キャサリンさんは無事、本の中に帰っていったよ。女の子たちに悲劇じゃなくて、幸せな気持ちをあげたかったっていうことに気がついて」

 へ?

 あたしが気を失ってるあいだにそこまで都合よく片付いちゃったの?

 ももぽんがぽんっとあたしの肩をたたく。

「反省会はまた後日。せいら。あたしたち邪魔者は帰るから。神谷先生とうまくやりなよ」

「頑張ってね!」

 え、ちょ、ちょっと……。

 止めるひまもなく、二人は教室を出て行った。

 静かになった自習室。

 あたしはそっと、隣の彼を見る。

 ……寝顔って、はじめて見た。

 さっき、線路に挟まったあたしのところに駆けてきてくれて、ミュールの紐を切って助けてくれた彼は、ほんとうにあなた?

 誰もいない自習室を見回して。

 あたしは囁いた。

「すごく、かっこよかった」

 彼の瞼が、ぴくっと動く。

 徐々に、その目が開いた。

 思いっきり、見つめ合う。

「……やっべ。塾で先生が寝るとか、生徒に示しつかねー」

 彼は肩をほぐしながら、いつもの調子。

 とっても優しい気持ちが、流れ込んできて。

 あたしは言った。

「疲れてるのよ、きっとすごく」

「おー。なんかすっげー重厚な夢見てた気がするぜ……。でもあれ、ほんとに夢か?」

 ぎっく。

「いやでも、現実なわけないか……」

 ちらと。

 かみやんがあたしの足元を見たので、あたしは急いで左足を後ろに隠した。

 左足のミュールの紐は、しっかりと、切れている――。

「ま、いっか」

 彼は額に手を当ててる。

「きょ、今日は早めに帰って休めば? そのほうがいいわよ。ちゃんとお風呂入って、ご飯食べてね」

 天井にむかってぐっと伸びをして、彼はこっちを見た。

「お前はオレの奥さんかっての」

 不本意だけど、やっぱりきゅんとしちゃって。

 思わず買い言葉。

「……なってあげてもいいけど」

 ばーかって。

 言われるかと思ったら。

 ふっとかみやんは噴き出した。

 え、なに?

 この反応。

 思わず一瞬言葉に詰まっていると、誰かがドアを開けて自習室に入ってきた。

 泉先生だ。

 かみやんの前に来るなり、泉先生は勢いよく頭を下げる。

「すみませんでした! あの手紙は神谷先生が書いたものじゃないって、わかっていたのにわたし」

「そのことなら、もういいですよ、泉先生」

 泉先生が一瞬、泣きそうな顔になる。

「神谷先生。いくら優しさでも、ああいう嘘は……困るわ」

 わたしは泉先生の気持ちがわかった。

 あのとき弁明もしないで、彼は泥をかぶった。

 泉先生を傷つけないために。

「わたしに嫌われようって思ったんでしょうけど、あんなことされたら、余計――」

「すみません。泉先生」

 かみやんは、まっずぐ、泉先生を見つめて、はっきりと言った。

「本物の結婚、だけでなく、契約上の婚約も、もう続けられなくなりました」

「……そう、ですか」

 泉先生はしばらく下を向いていたけど。

 もう一度上げた顔はいつもの清楚な先生の顔だった。

「わかりましたわ。契約任期満了ですね」

「ほんと、すみません。ご両親には――」

「大丈夫。親があんまりプレッシャーをかけすぎるせいで、小心者の神谷先生に逃げられたって言ってやりますわ」

 泉先生はうふふと笑って、眩しそうに、かみやんを見上げて。

 その耳元で、なにか囁いた。

 なんて言ったかあたしには聞こえなかったけど、とっても優しげな顔だった。

『神谷先生の本物の恋が、叶いますように』



 泉先生が立ち去った方向をわたしはしばらく見てた。

 泉先生の気持ちを想うと、なにも言えない。

「いいの? 泉先生、かみやんのこと――」

「いいんだよ」

 かみやんはさっぱりと笑っていた。

「反省したんだ。これからは、自分の気持ちを少し考えてみようって」

 ……ちょっと待って。

 かみやん、泉先生との婚約がなしになったなら……。

「だったら暫定婚約者はあたしにしときなさいよ」

 かみやんは笑いながら、廊下に出てしまった。

 逃がすか!

 しつこく追いついて、あたしは力説を続ける。

「言ってるでしょ、良妻賢母型のあたしにしておけば間違いはないって。だいたいかみやんは肝心なとこ抜けてるし、やっぱり将来的には、しっかり手綱閉めてくれる人が必要だと思うのよね」

 笑顔のまま、そしてなにも言わないまま、彼は廊下を進んでいく。

「もちろん、先生と生徒だから関係は秘密にしとくし、どうかしらこの際、仮にでもそういうことに」

 ぽんと、頭の上に大きなファイルが乗せられた。

 彼が呆れたようにこっちを見てる。

 ちょっと、突っ走りすぎちゃったかしら。

 謝ろうかな。

 彼の目を見上げると――え?

 彼が、ふっと微笑んだ。

 あたしの耳元に口を寄せて、言ったの。

「……それも、悪くねーな」

 両手両足が、だらりと垂れる。

 去って行く彼の背中を茫然と見送っていると、頭の上からふわりふわりと小さななにかが落ちてきた。

 キャッチしてみたら、それはお城の柄が描かれた符線だった。

 数秒経ってそれが、前にあたしが彼のファイルに挟んでおいた、『青い城』の『恋のリトマス紙』だったことに気が付いたとき、心臓が止まりそうになった。

 リトマス紙はほんのりあたたかい、ピンク色に染まっていたの――。


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