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恋せよ文学乙女  作者: ほか
第2話 人魚姫の運命はお断り!
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㉙ 星撒く列車、出発します! 〜夢未ともも叶の語り〜

海の魔女にとらわれたマーティンを助けに、星撒く列車で出発!

って、夢未たちはまだ小学生。

列車の運転なんてできないよ~っ。

 カフェスペースはがらんとしていて、ケストナーおじさんもモンゴメリさんも留守みたい。

 だけど今は、心細いなんて言ってる場合じゃないよね。

 テーブルにつくのも惜しいくらいに急いで、わたしは切り出した。

「ももちゃん、マーティンを探そう。探し出して、助けるの。きっとなにか方法があるよ」

『秘密の花園』のテーブルで、わたしは一生懸命励ますけど、ももちゃんは答えない。

「夢っち」

 代わりに口を開いたのはせいらちゃんだ。

「ももぽんの気持ちも考えて。マーティンくんが今どこにいるのか、どうしてるのかわからないですごく不安な中、きっとそんなにいろいろ考えられないわ」

「でも急がなきゃ。ももちゃんがマーティンと幸せになれるチャンスがあるんだったら、わたしどうしでも逃したくないの」

 焦るわたしに、せいらちゃんは鋭く言った。

「これ以上急かさないで! 時間がないとかそういうことはわかってる。でもこういうのはまず、ももぽんがどうしたいかでしょう。答えを焦らせたら余計混乱させるだけ。待ってあげるのも友達じゃないかしら」

「でも……っ」

 そこで呻くような小さな息遣いが聞こえた。

 あたしははっとして、ももちゃんを見る。

 ももちゃんが、泣いてた。

 声を殺すって感じで、口を押えて。

「ごめん……今は、何にも考えられなくて。ただ……胸がいっぱいで、でもなんでいっぱいなのかも、わかんなくて」

 わたしはうつむいて、テーブルをじっと見た。

 せいらちゃんの言うとおりだ。

 いい結果に向かって急げって言うことは誰にでもできる。

 でもいつでも結果に向かって百点満点な姿勢でいられる人なんていない。

 そういうとき、支えてあげるのが、友達なんだ。

 せいらちゃんはそっとレースのハンカチをももちゃんに渡してる。

「いいのいいの、恋なんてそんなものよ」

「ありがとう、せいら」

 ももちゃんはハンカチを受け取って涙をふいた。

「あの、ももちゃん」

 ごめんね。

 わたしは謝ろうととしたけど、先にももちゃんが言った。

「夢も、ありがとう」

 曇りのない、笑顔だった。

「ちゃんとわかってるよ。夢があたしのこと想ってくれてること」

 ももちゃん……。

「だから、ありがとう」

 わたしはなにも言えなくなった。

 涙にぬれた目で笑うももちゃんがすごくきれいで、いつの間にか大人になっちゃった気がして。

 なにも、言えなかったんだ。

 みんなが黙っていると、がたんと、勢いよく『秘密の花園』の扉が開いた。

 入って来たのは、ぼろぼろになった服を着たジョニーだった。 

「もも叶ちゃん……」

 そう呟いたと同時に倒れるジョニーをみんなで支える。

「どうしたの、ジョニー。傷だらけっ」

 心配そうに言うももちゃんに、ジョニーは告げたの。

「魔女を探して、頼みに行ったんだ。僕が身代わりになるから、マーティンを解放してくれって」

「それで、どうなったの」

 せいらちゃんも、きれいなハンカチが汚れるのもかまわずにジョニーの傷口を拭き取りながら尋ねる。

「お断りだって言って、彼を大蛇で締め付けだした」

 小さく悲鳴を上げるももちゃんの肩をたたいて落ちつける。

 みんなの力を借りてなんとかカフェの椅子に横たわり、ジョニーは絶え絶えの息で続ける。

「蛇はターゲットの、誰かを想う気持ちと生命力を吸い取って、薬にするんだ。その薬には願いを叶える力があって、魔女の商品になる」

「マーティンが、おばさんの商品に……!?」

 青褪めるももちゃんのもう片方の肩をたたいて、せいらちゃんがジョニーに言った。

「魔女とマーティンはどこにいるの?」

「パレ駅からかなり離れた、ブーフシュテルンと線路しかない荒地だよ。きっと魔女が、誰も助けにこられないように、人目につかない場所を選んだんだ。もも叶ちゃん」

 名前を呼ばれて、ももちゃんが顔を上げる。

「マーティンの、ところに……行って、やってくれないかな。彼を助けられるのは、君しかいないんだ! 早く!」

 わたしも言う。

「パレ駅から汽車で向かえばきっとすぐだよ。ももちゃん、行こう」

「あたしも、もちろんついてくわ」

 せいらちゃんとわたしに、ももちゃんは力強く頷いた。

「二人ともありがとう。あたし、彼を助ける」

 数時間後。

 わたしはせいらちゃんと一緒に、なんと鉄道を運転してます!

 小学生の運転する列車で、ブーフシュテルンがいっぱいに光る宇宙空間を駆け抜けてるの。

 うわーん、怖いよーっ。

 なんでこんなことになったかというと。

 パレ駅に着いたわたしたちは、そこがガランとしてることに気がついたんだ。

 いつもいる車掌さんも、切符売りのオルコットさんもいないの。

 もしかしてもしかしなくても。

 まさかの運休日!

 愕然とするわたしの横で、まじまじとホームの端の車庫を見て、ももちゃんが言ったの。

「あたし、自分で列車を動かして、マーティンを助けに行く」

 えぇぇっ?!

 隣のせいらちゃんを見ると、

「どうやらそれしかなさそうね」

 まさかの乗り気!?

 一番速く走りそうな、青い夜空色の列車を選んで、二人は乗り込んで行っちゃった……。

 わたしが遅れて汽車に入ると、せいらちゃんはすでに、運転席にいたの。

「確か、電車の運転手さんはこうしてるはずっ」

 せいらちゃんが黒いレバーを引くと、

 ぷっぷーっと音がして、エンジンがかかったみたい!

「す、すごいせいらちゃん!」

「ま、ざっとこんなものね。だてに鉄道マニアやってないってのよ!」

 てきぱきとせいら車掌の指示が飛ぶ。

「あたしがハンドルを握るから、夢っちはアクセルとブレーキね」

 はい。や、やってみます。

「あの、あたしは?」

 ももちゃんにそう訊かれると、せいらちゃんはにこっと微笑んだ。

「司令塔よ。窓から、囚われてるマーティンくんを見て、近づくよう指示を出して。あたしたちがなるべく側に寄せるから、彼の手を掴んで、列車に引き込むの」

 と、いうわけで、わたしたちは今、必死に線路を走ってるんだけど。

 無事に走れてるのが不思議。やっぱり怖いっ。

 しばらく走ったあと、窓のところにいるももちゃんが声をあげた。

「マーティン!」

 ハンドルの向こうの窓から、外が見えているせいらちゃんも叫ぶ。

「乗車予定客、確認!」

 えっ。

 せいらちゃんの足元の二つの機械を押していたわたしは、あわてて背伸びしてみると、ほんとだ!

 線路だけが縦横無尽にあって、あとは星が瞬くだけの夜空の空間の先に、大きな蔦のような緑の蛇に全身を締め付けられて苦しそうにしてるマーティンがいたの……!

 そのすぐ前では、蛇の先から薬になった液体を瓶に入れている魔女さんがいる。

 あれが、マーティンの、人を想う気持ち。

 許せない。

 窓から手を伸ばすももちゃんからの指示が飛んでくる。

「もっと近づいてっ! 届かない!」

 これを受けて、せいらちゃんがさらに指示。

「了解! 夢っち、アクセルお願い」

「えっ、えっと……」

 わたしは下にある二つの機械を見る。どっちかを押すんだよね。

 アクセルってどっち?

「右に決まってるでしょ! あんた、そんなことも知らないと、そのうち衝突事故起こすわよ!」

 ひ、ひーん!

「だってだって、まだ車だって運転したことないもん!」

 わたしは言いながら、力任せに右の四角を押した。

 頑張れ、ももちゃん――。

 せいらと夢のおかげで、列車が、マーティンに近づいて行く。

 魔女に気付かれないように、心であたしは訴える。

 助けにきたよ。

 気づいて、マーティン。

 蛇に絡まれたマーティンがかすかに目を開いた。

「もも叶……」

 マーティンがそっと手を伸ばしてくれる。

 魔女は、薬を作るのに夢中で気付かない。

 チャンス!

 あともうちょっと……。

 あたしは思いっきり手を伸ばす。

 やっとマーティンの手に届いた!

 でも、蛇はマーティンを覆い尽くしていって、もうかすかな茶色い目と、手だけしか見えてない。

 待ってて、今こっちに引き寄せる!

 そのとき。えっ?

 マーティンの手が勢いよく伸びて来て、あたしを突き飛ばしたの。

 列車は傾いて、勢いよく押し出された。

「スリップ発生だわ~っ」

 せいらちゃんが叫んでる。

「一押しでこんなに列車が飛ぶって、マーティンって怪力だったのっ!?」

「夢っち、あほかおのれはっ! 宇宙には摩擦がないから、一定方向に力が働けば、ずっと働き続けるのよ」

「えっ、そうなの? それじゃわたしたち、どこまで行くのっ!?」

 わたしとせいらちゃんが漫才みたいな話をしていると。

 ももちゃんが滑り込んできて、左の四角――ブレーキを勢いよく押した。

 徐々にゆっくりになって列車が、止まった。

「た、助かった……」

「ももぽんのおかげでね。っていうか、ブレーキは夢っちの担当でしょ。なにぼさっとしてんのよ」

「ううっ。だってだって。急に列車が飛ばされて」

 わたしはあわてて話題を変えた。

「でも、さすがはマーティンだよね。自分を犠牲にして、ももちゃんやわたしたちが蛇に巻き込まれるのをふせぐって」

「ほんとよね。この身はどうなろうともってやつ? 心までイケメンって手ごわいわ」

「うん。どうしようか、ももちゃ……」

 ブレーキの前で座り込んで、ももちゃんはうつむいてる。

「ももちゃん、大丈夫。わたしたちまだ諦めない」

「そうよ、まだチャンスは――」

 あれ?

「ふ。ふふふふ……」

 ももちゃん、笑ってる?

 どこか黒いオーラを醸し出してるような。

 ももちゃんは、顏を上げた。

「おもしろくなってきた」 

 立ち上がってゆっくり、低い声で言う。

「やってくれるじゃん。クラス中の男子が見惚れるこのあたしの胸を突き飛ばすなんて」

 チャレンジャーで気が強くて、元気いっぱいの女の子がそこにいた。

 びしっ。

 ももちゃんは人差し指を突き立てる!

「ところがそうはいかの姿焼きっ。あたしは絶対、もう一度その手を握って、離すつもりはないからねっ。見ていろ、マーティン・ターラー!」

 わたしとせいらちゃんは顔を見合わせて、頷き合った。

 やった。

 ももちゃん復活だ――!


次回はいよいよ もも叶VS海の魔女。

名作児童文学にのっとった方法で、いざ勝負!


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