表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋せよ文学乙女  作者: ほか
第2話 人魚姫の運命はお断り!
53/434

㉓ 夢のお父さん ~もも叶の語り~

マーティンに会おうと名作の部屋に向かったもも叶の前に、思わぬ人物が……。

 万を持して、あたしは『名作の部屋』の前に立っていた。

 鉛筆型の部屋を包む薄紫のカーテンとオレンジの扉。

 そのドアノブに手を掛ける。

 マーティンは、どうして別れ話なんか切り出したのか、ちゃんと訊く。

 そのうえであたしの気持ち、伝えるんだ。

 一歩踏み出そうとした、そのとき。

「君。すまないが、少しよろしいかな」

 誰やねん。文学乙女の一大事に。

 顔を向けて、あたしは思わず一歩後ずさりそうになる。

 そこにいたのは、スーツ姿のがっしりしたおじさん。

 夢のお父さんだったんだ。

 夢を何回も殴ったことがあって、今は離れて暮らしてる。

 すぐ怒鳴ることはあたしも経験して知ってる。

 少し前本を焼く炎がこの栞町を襲った時、火のもとはこのおじさんの心だったんだ。

 あのときは火を消すために、あたしも夢も大変だったんだから。

 あたしはできるだけ背筋を伸ばして、答える。

「なにかご用ですか」

「いや。用というか、その」

 おじさんは少しためらうと、あたしの目を見て、言った。

「夢未がどこにいるか、教えてほしいんだ」

 ぴぴぴっと、頭の中に警報発令。

 絶対、だめだ。

 答えは決まってたけど、同時にちょっと同情した。

 おじさん、すごく悲しそうで、断ったら消えちゃいそう。

 前のくそおやじぶりがうそみたいだよ。

 とはいえ、どうしよう。

 困ったすえ、あたしは腹を決めた。

「教えられません」

 目をつぶってぐっと身構える。

 怒鳴られたって、例えグーで殴られたって教えない。

 ところがいつまで経っても大きな声もパンチも襲ってこなかった。

 あたしはそっと目を開ける。

「そうか。そうだろうな。わかった。悪かったよ」

 おじさんは力なく微笑むと、くるりと背中を向けて、この階の自動ドアの方へ去って行った。

 途中振り返って、あぁそれからと、一言言い残した。

「夢未と友達になってくれて、ありがとう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ