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恋せよ文学乙女  作者: ほか
第2話 人魚姫の運命はお断り!
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⑳ 物語ドレスが恋をつれてきた ~もも叶の場合~

若草物語の物語ドレスをきたもも叶の前にカレと似た男の子が現れて?

 その人の顔を、はっきりと見たわけじゃない。

 でも、雰囲気は確かにマーティンと似てた。

 和やかな会場の中、一人走るあたしを周りの人は不思議そうに見てるけど、かまっちゃいられない。

 ふいに、視界が揺れた。

 長いスカートを踏んじゃって、転びそうになる。

 危ないとこだった。

 急いで辺りを見回すけど、マーティンに似た彼は人ごみにまぎれちゃったみたい。

 うそー。

 せっかく気持ちを確かめるチャンスだったのに。

 しょうがない。

 夢たちのところに戻ろう。

 歩き出して、あたしは二度目の悲鳴をあげた。

 スカートの先についてるレースが、ひどく破れてたの!

 やっば。

 人目につかないでいられるとこ見つけなくちゃ。

 部屋の隅、濃い緑のカーテンが四角く仕切っている小さい小部屋に目が留まった。

 よし、とりあえず、あそこへ。

 あたしはカーテンを開けて、さっと中へ飛び込む。

 そして、びっくり。

 そこにいたのは。

 黒いタキシードをまとった、あたしより少し背の高い。

「マーティン……?」

 彼が、振り向いた。

「もも叶ちゃん」

 ――ん?

 振り向いたその顔は、

「あ……!」

 薄茶色の髪と目。優しい顔立ち。

「ジョニー!」

 なぁんだ。

 よく見たら、髪の色も目の色も、ぜんぜん違う。

 でも、スラッとした体つきとか、ヨーロッパの人の持つ、凛とした雰囲気とか。

 そういうのが遠目で見たら、マーティンと似ていたのかも。

 ジョニーはすばやくあたしを見ると、耳元に口を近づけてくる。

 えっ。

 な、なに?

 だめだよ、もも叶。

 耳元にキスは、彼としか――。

 あたしはびっくりしてぎゅっと目をつむる。

「こっちへおいで。使われてない奥の間があるんだ」

 へ?

 拍子抜けしていると、ジョニーはあたしの手を握って、目立たないように広間を通って、奥の部屋に滑り込んだの――。

 その部屋は、さっきまでいたシャンデリアきらきらの広間に比べたら小さいけど、それでもうちのキッチンより大きい。

「ここでなら、レースがほつれていても思いっきり踊れるよ」

 軽やかな音楽が流れて来て、ジョニーは手を差し出した。

 こ、これって、本や映画の中でよく見る、ダンスのお誘いってやつ?

 えぇと確か、こういうときヒロインは。

 あたしはどぎまぎと、クリーム色のスカートをつまんでお辞儀をする。

 ワルツとか、そういう優雅な踊りが始まるんだ。

 どうしよう。

 踊ったことないけど。

 そう思ったとき、胸に手を当ててお辞儀をしたジョニーが、ステップを踏み始めた。

 あたしも見よう見まねで動いてみる。

 くるくる回って、元気に跳ねて、膝を叩いて、手を合わせて。

 あれ、なんか想像してたのと違う感じ?

 踊ってるうちに、あたしはこんなシーンを頭に思い浮かべたことがある気がしてきた。

 そう、確か本を読んでいたとき。

 足をはね上げた時、ちらと今着てる茶色いドレスが目に入る。

 そう。このドレスのもとの持ち主、若草物語のジョーのエピソードだ!

 ジョーはドレスのスカートを焦がしてしまってカーテンの部屋に隠れたら、すてきな男の子と出会って友達になるんだ。

 二人が踊りを踊るなら、ちょうどこんな感じのダンスかなって想像したんだっけ。

 あたしにもジョーと同じことが起きたってわけか。

 音楽の最後、ジョニーは右手をすっと胸に添えて終りのお辞儀。

 あたしもお辞儀を返す。

 ラッキー。このドレス、あたりくじだね。

 ダンスが済んだあと、ジョニーはここも人目につかないからって言ってくれて、あたしを外のベランダに誘い出してくれた。

 大きな窓の外に丸い形でせり出してて、夜空が見えるの。バルコニーって言うんだよ。

「約束通り、また会えてよかった」

 ジョニーは青いお月様を背にして、素早く調達してきたジュースをあたしに渡してくれる。

「あたしもだよ!」

 ジョニーが目を丸くする。

「ジョニーに会って、訊きたい事いっぱいあったもん」

「あぁ、そういうことか……」

 ジョニーは何故か目を伏せて、月を見上げた。

 少し悲しそうに見える。

 不思議な子だなぁ。

 すごくスマートで優しいけど、ちょっと考えてることがわからないの。

 やっぱり、詩人って感じ。

 そのへんは、はきはきしてるリーダータイプのマーティンと違うね。

 そこまで考えてはっとした。

 だめだめ、しっかりしなきゃ。

 あたし、マーティンのことを彼に訊こうとずっと思ってたんだ。

 恋に悩む親友っていうのが、マーティンのことなら。

 その様子が知りたくてたまらない。

 そう口に出そうとしたまさにそのとき、あたしの心を読んだかのようジョニーが言った。

「マーティンが海の魔女のところに通ってるって噂があるんだ」

 !

 この間、メルヒェンガルテンで会った時の事が蘇る。

 海の魔女のおばさんとのあいだに、マーティンはなにか秘密を持ってるみたいだった。

 身を乗り出すあたしに、ジョニーは目を伏せて、言ったの。

「マーティンは悪い女の子に心を奪われてしまったからおかしくなってしまったんだ」

 目の前が、真っ暗になる。

「……確認ですけど、心奪われたってのはその、詩的な表現てやつだよね。つまり」

 自分の声が、震えてるのがわかる。

 ジョニー静かに頷いた。

「好きになったって言うことだよ。」

  ……やっぱり。

 薄々、勘づいてた。

 デートのときのマーティンの思い詰めた顏。

 あたしといても、心はぜんぜん違うとことにいて。

 それから、切り出された別れ話。

 でも悲しくて、認めたくなかったんだ。

 涙をなんとかこらえるあたしに、ジョニーのさらに残酷な宣告は続く。

「魔女によると、生意気で、がめつくて、お金にだけは細かい子なんだって」

 そんな子が、マーティンと?

 いやだ……。

「僕もいやだ。海の魔女はいい人じゃないけど、みんなの願いを叶える力を持ってるから、彼女のところへ行って、マーティンの心を取り戻したいって相談したんだ。」

 そんなことが、できるの?

「一つだけ方法がある。僕がその女の子の心を盗みだしてくること」

 しんとした空気が辺りに漂う。

 つまり、その意地悪な女の子に、ジョニーのことを好きにならせることができれば、マーティンの恋心を覚ましてくれるってこと?

「もも叶ちゃん、協力してくれないかな」

 どくどく、心臓が波打って、めまいがする。

 ジョニーに協力すれば、マーティンはまた、あたしのことを好きになってくれる……?

 あたしはがっくりとバルコニーの椅子に座り込んだ。

「ごめん。あたしにはできない」

 両手で顔を覆って、それでもしっかりと言う。

「マーティンがその女の子のこと、自分から好きになったんだったら。それを変えるようなこと、したくない」

「……!」

 しばらく、驚いた目でジョニーはあたしをじっと見ていたけど、

 すぐに頷いてくれた。

「わかった。話を訊いてくれてありがとう」

 そして、彼はバルコニーを出て行った。

「でもね、もも叶ちゃん」

 最後に、こう言い残して。

「僕は諦めないよ」

 言葉の割に控えめに響いたその台詞が、甘い痺れ薬みたいにあたしの耳にいつまでも残っていたんだ――。


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