⑧ 恋のライバルはすてきな女性
おしゃれな下着は高すぎて、買えず、悩んでいる夢未たちのもとへ現れたのは?
秘密の花園からの帰り道。
突然ふらっときて、わたしは電信柱に手をついた。
そんなわたしをももちゃんが支えてくれる。
「あ、ごめん、ももちゃん、ありがとう……」
「ねぇ夢。まだダイエット続けてるの?」
ええっ!
ももちゃんどうしてそれを!
「わかるよ。ここのとこ給食ろくに食べてないじゃん。ずっと見てたの。モンゴメリさん特製のいちご水だって飲んでなかったし。気づいてたんだからね」
配膳に給食を戻すとき感じた視線はももちゃんだったんだ……!
「夢が決めたことだと思って黙ってたけどさ。そういうのよくないと思う」
真剣に言う横顔を見てわたしはようやく気付いたんだ。
「もしかして、読者モデルに選ばれたこと、教えてくれなかったのって、わたしにこれ以上ダイエットがんばらせないため?」
「そんなんじゃ」
ももちゃんはあわてて否定するけど、わたしにはわかる。きっとそうなんだ。
「……あたし、読者モデルやっぱり断るつもりなんだ。モデルってすごく食事制限とかしてるんだって。がんばってる人は好きだけど、そういうがんばり方ってなんか違う気がして」
すっと、反対側からせいらちゃんが進み出る。
「夢っち。あたしもももぽんと同意見よ」
二人から見つめられて、わたし、ついついぽつり。
「あのね、二人とも。わたし……太っちゃったんだ」
叫ぶように、せいらちゃんが言う。
「まだそんなこと言ってるの。夢っちはすっごくスマートよ! 自信持って」
ももちゃんも。
「うん、あたしもなかなかいい線いってるって思うよ。バランスのよい食事と運動を守れは、あたしのようなモデル体型も夢じゃないと思う。最近ちょっと大人っぽくなったって思ってたとこだったんだ」
ももちゃんが言いながらあっと思いたった顏をしてわたしとせいらちゃんを手招きする。
「もしかして、夢」
わたしたちは、三人そろって頭を寄せる。
「ブラジャーがきつくなったんじゃない?」
すごい恥ずかしかったけど、わたしは頷いた。
「そういうこと。それを太ったと勘違いしたわけ。夢のおとぼけもあいからわずだね」
「え、わたし太ったわけじゃないの?」
「一人で抱えちゃったのね。無理ないってば。それは、一緒に暮らしてる彼には言いづらいわ」
せいらちゃん、だから、星崎さんは、わたしの彼じゃないけど……。この際、そこはいいや。
「そうなの。言えなくて」
「まっかして」
グーを作ってももちゃんがウインクした。
「かわいいやついっぱい売ってるお店知ってるんだ。今から一緒に行ってあげる」
「あ。もしかして駅前通りの専門店?」
せいらちゃんの言葉にももちゃんはそうそうと頷く。
「わたしもこのあいだ探検してて見つけたけど、女性店員さんばっかりだから、サイズを測ってもらうのも頼みやすそうね」
二人とも!
心強いよ~。
「ありがとう」
「気にしなさんな」
「腹心の友のためよ」
❤
扉をくぐって、わたしは見とれちゃった。
すごい、女の子用の下着屋さんって、こんなにかわいいんだ……。
ピンクや黄色、フリルやレースのものがいっぱい。
「夢にはこれにあいそう!」
「あら、断然こっちよ」
迷いに迷ってようやく二つに絞った。
のはよかったんだけど。
問題が発生したのは、縫い付けられた値札を見たときだったんだ。
「……わたし、やっぱり買うのやめる」
ももちゃんとせいらちゃん、静止。
「ごめんね。せっかく二人が連れて来てくれたのに。でもわたしこの値段で、二日分ご飯が食べられると思うと」
ももちゃんが苦いものでも噛み潰した顔になる。
「出たよ、夢の悪い癖! なんでも食費に置き換え、必要なものまで節約!」
いそいそとせいらちゃんがお財布を取り出してくれる。
「早まらないで、夢っち。あたしたちのおこづかいを合わせたらなんとか――」
ならなかった。
ももちゃんとせいらちゃんとわたしのお財布の中身を合わせても、このお店のいちばん安いブラジャーすら買えない。
「今回は諦めるね。また、もっと安いお店で買えばいいもん」
「ごめんなさい、夢っち。力になれなくて」
「あたしたちも次のお店捜すの手伝うから」
そのときだった。
「そんなの、我慢しないですぐ言えばいいのに」
柱の影から、声がしたんだ。
出て来たのは、パンツルックのスタイリッシュなショートヘアで黒いバッグを肩に掛けた小夏さんだった。
「って、幾夜なら言うと思うわよ」
片手を広げて、おおげさに額を抱える。
「それが言えたら苦労しないわよね。男ってそのへん鈍感だから」
わたしの背中をぽんぽんと叩く。
手に何か渡された。
「これで、買ってらっしゃい。お姉さんからの心付け」
「だ、だめです! 小夏さん、こんなこと」
言いかけるわたしの隣にももちゃんが進み出た。
「きゃっ。嬉しい。小夏さん、ありがとですっ」
うっ。これは。
大人におねだりするとき、甘えるときのももちゃんの得意技(ちなみに男の子にも使用可)、天使の笑顔だっ。
言いながらわたしの頭を持ってぐっと下げる。うっ、ちょっと痛い。耳元で声がする。
「夢の悪い癖パート2。子どものくせに遠慮深い」
一緒になって頭を上げてくれてるせいらちゃんも早口で言う。
「悪いけど今回はあたしも、ももぽんに賛成。背に腹は代えられないってことわざ知ってる?」
「いや、この場合背に胸は代えられない? ん? どっちが正しいんだろ」
「ももぽん、それはどうでもいいの」
小夏さんが笑ってる。
二人とも、聞こえてるよ……!
「かわいい三人組を見れらてなんかこっちが癒やされたわ。じゃぁね」
さわやかに手を振って、あっ、小夏さん、行っちゃう!
「あの、小夏さん。ありがとうございます」
ふりむきざま、小夏さんはウインクした。
「幾夜には黙ってるから」
その後ろ姿。揺れる短い髪を見て、わたしはほっとしたんだ。
星崎さんの彼女さんかもっていうのはショックだけど。
やっぱり、星崎さんの周りの人は、とってもすてきだなぁって、素直に思えたんだ。




