⑤ 小さな詩人の男の子 ~もも叶の語り~
もも叶の前に、またしても本の中から友達が現れて?
あたしは帯紙公園のブランコでぶらぶら揺れていた。
心も宙ぶらりん。
自分がよくわかんない。
夢がほかの子と仲良くしてるってだけで、どうしてこんなに寂しくていらいらするんだろう。
足でブランコを止めた。
やっぱりあたし、変だ。
マーティンと別れてから。
「はぁぁぁ」
盛大な溜息をつくと、それをおもしろがるようにくいーって鳴く小鳥さんの声がした。
そっちに顔を向けると、薄い茶色の髪の男の子がベンチに座って小鳥さんに餌をやりながら、こっちを見てる。
あ、やば。
溜息なんかついて、いやな気分にさせちゃったかな。
目が合うと、彼はちょこんと頭を下げてお辞儀した。
あ、これはどうも。
あたしはお辞儀を返す。
男の子は黙って、あたしを見て微笑んで、上を指さした。
そこにはなんと、紫から赤、オレンジへと変わる夕焼け空があったの。
「きれい……!」
顔を空から戻した時、男の子はすぐ隣のブランコに座ってた。
「きれいなものをじっと見ると、少しだけ気が晴れるよ。自然は、たくさんのことを話してくれるから」
へぇ~。
夢のあること言うねぇ。
こういうの文学的とか詩的っていうのかな?
「ありがとう。元気出た」
「なにを落ち込んでいたの?」
すっかり感心したあたしはその子に、話した。
夢が露木さんと仲良くなって、ちょっぴり辛いこと。
彼がこの辺じゃ見かけない、ヨーロッパのどこかの国の顔立ちをしていたこともあったんだと思う。
他人同士だからこその気安さってあるよね。
話を聞き終えると、男の子は深く頷いた。
「その気持ち、わかるなぁ。そういうとき、ひどく落ち込むよね」
「ほんと!?」
「僕にも親友がいるんだ」
彼は隣のブランコに腰掛けると、遠くを見るようにして語った。
澄んだ目が物思わしげにかげる。
「彼、最近、ぼーっとすることが多くなったんだよね。いつもみんなのリーダーで、てきぱきしていたのに」
ふむふむ……。
「もしかしたらその親友さんも、なにか悩みがあるのかな。あなたのこと、大切に思ってないわけじゃないけど、今はそれをちゃんと表現する余裕がないっていうか……」
あれ。
あたしなんで、男の子の親友さんの気持ちがわかるんだろう。
でもきっと、そうじゃないかって強く思ったんだ。
男の子も大きく頷いてくれた。
「その通りだよ。言わないけど、わかるんだ。彼が好きな子のことを考えてるって」
!
やっぱり。
恋なんだ。
恋をして、悩んで他のことまで上手にできなくなっちゃってるんだね。
「うーん。あたしだったら恋に悩んでるときこそ、友達に励ましてもらったりするけど」
男の子ってそういうことしないのかな……。
あ、そうだ。
「あなたが、親友さんの話を聴いて、力になってあげたら? きっと親友さんもそうしてほしいと思ってるよ!」
ふっと男の子は笑った。
なんか、人生を長く生きた大人みたいな、切なげな笑い方。
「そう、うまくいけばいいんだけどね」
やっぱり、あたしの解決策は単純すぎたかな……。
「あたしも一緒に考えるよ。あなたの名前、なんていうの?」
男の子は答えた。
「ジョニー」
目も髪と同じ薄茶色で、優しげな眼差しが繊細そう。
やっぱり詩人タイプなのかな。
そこまで考えてあたしはあっと声をあげた。
ジョニーってまさか。
「あの、ジョニーくん、つかぬことをお聴きしますが、ご出身って、本の中とかだったりしますか」
あたしの手をぎゅっとにぎりながらジョニーくんは微笑んだ。
「『飛ぶ教室』の本の中からきたんだ。クリスマスには友達がお世話になったみたいだね。マッツとウリーと、それから――」
彼はその先を言うのをわざとやめたみたいに、いたずらっぽく笑った。
じゃぁ、彼の親友って……。
一月前、キスを残して物語の中に帰って行った、あたしの、好きな人――。
「僕のことはジョニーでいいよ。マーティンの友達なら、僕にだって友達なんだ」
ジョニーは小鳥さんを夕焼けの空に向けてはなった。
緑色の羽が赤い空に向かって羽ばたいていく。
きれいすぎる光景に、儚くてきれいな男の子。
「ごめん。もう行かないと。仲間たちが待ってるから」
えっ。そんな。
まだまだ話したいことありありなのに!
もどかしいあたしの気持ちを察したように、彼は片手を差し出した。
「必ずまた会おう。約束だよ。もも叶ちゃん」
「あ……。うん。約束ね!」
思わず手を取って、握手したあと。
公園を出て行く薄茶色の髪の彼を見送りながら、あたしはまじまじと、握られた自分の手を見た。
スマートな握手に、『もも叶ちゃん』……?
マーティンとは別の意味で、普通の男の子と違うかも。
小さな紳士って感じ。
あたしはそっと冬のさわやかな風を吸い込んだ。




