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恋せよ文学乙女  作者: ほか
第1話 名作の国にご招待
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⑨ オルコットさんの物語占い ~もも叶の語り~

本棚で恋の行方を占う?

物語占いの開幕です。

 夢がルンルンで教室を出て行っちゃってから、あたしは窓から、甘酸っぱいオレンジみたいな夕焼けを見た。

 よかった。

 夢、すごく楽しそうだった。

 「友達のこともいいけれど、まずは自分の心配をしたらどう?」

 あたしはびっくりしてよろめいて、数メートルけんけんぱをするなんてマヌケな動作をしてしまった。

 今、女の人の声、したよね?

 それも、あたしの腰の辺りから。

 最悪なことに、ここは放課後の教室で、さらに最悪なことに、誰もいない。

 ぶるっと全身が寒くなる。

 もしかして、幽霊?

 女の人の声は笑った。

 「あたしが幽霊、か。当たらずとも遠からずってとこね。でも安心して。あたしは善き文豪の霊だから」

 文豪って言葉に一気に謎が解けた。

 あたしはミニスカートのポケットから、手鏡を取り出した。

 丸くて小さな、フタがクリスタルでできた手鏡。

 小さなひし形のクリスタルが二重に蓋の外側を覆っていて、中心は冬の湖のように不思議にうごめいている。

 フタを取ると、鏡の中に女の人がいた。

 聞こえてくる声はこの人のものなんだ。

 実はこれ、『秘密の花園』に行った時、モンゴメリさんが渡してくれたんだよね。

 『もも叶。あなたにもう一つ、グッズを渡しておくわ』

 夢の恋の作戦を話し合ったあと、帰り際、かわいい雑貨がいっぱいの棚の前で、あたしにこっそりと。

 「ごきげんよう、現代っ子さん」

 鏡の中の女の人は肩より少し上までくるくるの茶色い髪を幾房もたらしている。華やかで、気が強い感じ。

 「あなたがオルコットさん?」

 「いかにも」

 その女の人は、こめかみをざっとかきあげた。そんなことをしても、ちっとも髪の縦ロールが乱れないのが不思議。どんなワックス使ってるんだろ?

 『秘密の花園』でのモンゴメリさんの声が蘇る。

 『オルコットはご存知、『若草物語』の作者よ。わたくしの親友。と言っても、生きているとき直接会うことはできなかったのだけどね。でも、あのときからわたくし達は親友だったわ。わたくしが、彼女の作品を読んですぐに、半ば勝手に腹心の友に認定したの。

 生涯を終えた文豪たちが行く、メルヒェンガルテンに来てからようやく会えたんだけれど、想像通り、気が合って、一緒に『秘密の花園』を営んでいるのよ』

 へぇ、オルコットさんも『秘密の花園』の女性店主の一人なんだって思った。

 「これは、氷のコンパクトミラー。

 オルコットの書いた『若草物語』は読んだことがある? あのお話に出てくる姉妹のジョーとエイミーが大ゲンカした場面を覚えていて?」

 もち。

 お姉さんのジョーがお芝居に出かけるのに末っ子のエイミーを置き去りにしてしまうの。怒ったエイミーは、なんとジョーの大切な自作の小説の原稿を燃やしてしまうんだ。ジョーは当然怒り狂う。でもそのあと、スケートに出かけた氷の湖での出来事がきっかけで、二人はめでたく仲直りするんだ。

 『この鏡は、氷の湖でエイミーがおぼれそうになったときジョーが助けようと駈け出し た、最初のひとけりでできた欠片でできているの。

 だからこのコンパクトには友情を手助けする力が加わっている。

 いざというときに、大切な人や友達の未来を覗けるようになるの』

 あたしは思わず早口で反応した。

 『すごっ。未来の映像が映るんですか?』

 期待して訊いたのに、モンゴメリさんはあいまいに笑って首を振った。 

 『まぁその、なにかしら。多少独特な方法を使って、ではあるのだけれどね。なにしろあのオルコットゆかりの品だから』

 『?』

 まぁ、どんな方法であれ、いい。

 オルコットさんがこうして鏡の中に姿を現したということは。

 今が『いざというとき』ってことだよね。

 あたしは手鏡に顔を近づけた。

 「オルコットさん。夢の気持ちが実を結ぶかどうか、教えてよ!」

 そう言うとオルコットさんはやれやれと肩をすくめる。

 「あたしがわざわざ現れたのは、あんたのためなんだけど。まぁいいわ。占ってあげましょうか」

 「え、占う?!」

 あたしは今度は体を反らせちゃった。

 だって占いってワード、女の子がめっちゃ好きな言葉じゃん。

 「あたしが披露するのは、物語占いよ」

 物語占い?

 聞いたことないけど、超すてきな響き!

 「この本棚に手をかざすと、知りたいことの答えにいちばん近い物語や場面を自然と引き当てられるの」

 スマホで画面を縮小したみたいに、鏡の中のオルコットさんが、胸までの姿から全身の姿になる。そのすぐ後ろは一面が本棚だった。狭い手鏡の画面じゃ収まりきらない、広い本棚。その中の本の一つに、オルコットさんの白い手が触れる。

 「あんたの友達の未来は……これ」

 取り出されたのは……濃い緑の表紙で、英語でタイトルが書かれた本だった。

 「ありゃ、なんてことなの。これは、『ハムレット』じゃない」

 「えっ、嘘! そんなぁ」

 と、あたしは叫んだあと、

 「ってなにが驚きなの? ごめん、それ読んだことなくて」

 だめねぇと呟きながら、オルコットさんは言った。

 「『ハムレット』は有名はシェイクスピアの作品。デンマーク王ハムレットの復讐譚よ」

 「な……! んな物騒な」

 って違う。思わずつっこんじゃったけど、そんな場合じゃない。

 これは夢の未来なんだ。

 「あんたの親友になにか、危機が迫っているようね。特に家庭の問題」

 あたしは頷いた。

 知ってる。

 夢は家でたくさん大変な想いをしてるんだ。

 「どうすれば、夢を危機から助けられるの!? ねぇ、なんとかしないと!」

 がくがくとあたしは手鏡を揺さぶった。

 「ちょ、ちょっと、やめてちょうだい」

 必死なオルコットさんの声にあたしははたと手を止めた。

 「たいした礼儀ね。教えを乞う代わりに大地震をプレゼントしてくれるなんて」

 さんざんに乱れたカールを直しながら、オルコットさんが言う。

 ちょっと、ひどいことしちゃった。

 けど、こっちだって必死なんだよね。

 「お願いです、教えてください、天才女流作家オルコットさん」

 「……仕方ないわね」

 オルコットさんはもう一度本棚に手をかざした。

 出てきたのは、小さな白い本。表紙の真ん中には、雪の積もる窓の絵。その奥に、仲のよさそうな男の人と女の人が描かれてる。納得というように、オルコットさんが言った。

 「解決策が、『賢者の贈り物』ね。なるほど」

 「それなら知ってる!」

 『賢者の贈り物』は、夢から勧められて読んだ短いお話。

 ある夫婦がクリスマスに贈り物をし合うの。旦那さんは奥さんにすてきな櫛を、奥さんは旦那さんに懐中時計につける鎖を。

 ところがそのお金をつくるために奥さんは髪を切って売ってしまったし、旦那さんは自慢の懐中時計を売っちゃってたってオチ。

 一見すると悲しい行き違いだけど、この結末、なんかほっこりするよね。お互いがお互いを想って行動してるからだ。まさに夫婦愛って感じ。

 ん?

 このお話が、夢を危機から救える解決の鍵だとすると……。

 「やっぱり、キーワードは愛ってこと!? 夢の好きな星崎さんの力を頼るしかないってことか」

 「それもあるかもしれないけど、答えをその一つだと決めるのは早計ね」

 鏡の中のオルコットさんが人差し指を立てる。

 「物語占いっていうのは、深い読解力がないと、正しい結果が読み取れないの。つまり、ジャンルや傾向だけじゃなく、お話がなにを伝えようとしているのかってこと。その物語にしかないようなメッセージを読み取ることが、大切なのよ」

 えぇなにそれ。

 むずかしそうだなぁ。

 夢なら超喜んで、読み解きに専念しそうだけど。

 「落ち着いて考えて。この物語の他にはない特徴を見つけるの」

 「う~ん?」

 この物語の特徴って言えば、ちょっと独特な結末だよね。

 一見するとバッドエンド。

 櫛も時計の鎖も、役に立たないものになっちゃったんだから。

 でも読む人は誰も、このお話を悲しいお話としては読まない。

 ガラクタ同然になっちゃったプレゼントは、二人が相手を想って自分を犠牲にできる『賢者』であることの証なんだから。

 待てよ。

 てことは、一見すると役に立たないものも、すごい価値があるってこと?

 誰かの小粋な行動とか、それを受けた人の気持ちとか、そういうものを感じさせてくれるものが、この世にあるってことだもんね。

 だとすると、夢を危機から救うキーになるのは、そういうものなのかもしれない。

 「一見ガラクタだけど、ほんとは、パソコンより、スマホより役に立つもの? うーん、なんだろう」

 うーん。

 うーん。

 ……降参!

 泣きそうになって手鏡を見ると、オルコットさんが頬をバラ色に染めて微笑んでいた。

 「そこまで辿りつけたらもう十分よ。いざというときになったら答えが出てくるわ」

 きれいな微笑みそのままにオルコットさんは言った。

 「あんた、友達想いなのね」

 当然。

 あたしは拳で胸を叩く。

 「そりゃそうでしょ。友達は大事にしなきゃ」

 「それに、案外賢いわ。驚いた」

 「一言余計ですけど」

 オルコットさんはそこでにやりと笑った。

 「ついでに、あんたの運命も占ってあげようか?」

 「え? いや、あたしは」

 運命は自分で切り開くタイプだし。

 なんてね。

 ほんとはちょっぴり気になる。

 あたしの気持ちを悟ったようにオルコットさんは頷くと、縦ロールを揺らしながら、本棚に沿って歩き、またまた一つの本を取り出した。

 「あんたの運命は……『ロミオとジュリエット』。わぁお」

 「あ、こっちはちょっと知ってるよ! 家同士が仲悪い二人の、悲しい恋物語でしょ?」

 『秘密の花園』でもらった、ジュリエットの唇っていう香水は一応今もランドセルに忍ばせてる。

 「って、え?」

 これが、あたしの運命?

 「えぇ。特に、ジュリエットがバルコニーで叫ぶ場面が出て来たわ。『おおロミオ、あなたはどうしてロミオなの?』って。どうしてあなたはわたしと敵対する家のロミオなのですか? って意味ね」

 ショックのあまりにあたしは手鏡を取り落しそうになって、やめなさい、殺す気? とオルコットさんに叱られた。

 「あたしが、恋してるってこと……?」

 一瞬、マーティンの顔が浮かんで――。

 抱きしめられた感触とか、思い出しちゃって。

 ぶんぶん首を振っていると、さぁねとオルコットさんは知らんぷりした。

 「え、そこはぐらかすの。意地悪な占い師だなー」

 「本がなにをを告げようとしてるのか、読み解くのはあなただもの。そうね、キーワードは『夢でできた恋』『恋してしまったのがつらい』ってところかしら」

 よくわかんないけど、なんか、切ない感じ。

 そういう恋をこれからするってこと?

 首をひねっていると、それじゃ、あとはあんたなら自分でなんとかできるでしょうって台詞と一緒に、手鏡がパタンとしまった。

 しばらく無言で立ち尽くした後、あたしは呟いていた。

 オルコットさん。

 「最後は、丸投げですか……」


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