魔女狩りの その日
「ああ…、【魔女狩り】の方ぁ。」
「…少しお待ち下さいね。」
アポイントなしの訪問だったが、母親は 慌てる素振りもなく、念のため少し片付けを済ませて 玄関に向かった。
「お忙しい所、恐れ入ります。」
そう言いながら、その男は 名刺を差し出し、首から下げた身分証を提示した。
「私、【魔女狩り】を担当しております、瑞慶覧 と申します。」
「本日、参りましたのは、こちらの娘さん…えぇ…あゆみ様が、【魔女】 ということで…」
「…あ…はい、あ、上がって下さい。少し散らかってますけど。」
母親がそう言い終わる前に、
男は 少し慌てたように言った
「!申し訳御座いません。私共【魔女狩り】の人間は 玄関で対応する事になっておりまして。申し訳ありません、説明不足で。それと本日は、お知らせと概要等の簡単なご説明だけさせていただいて。そうですね、およそ10分ほど お時間いただければ 済みますんで。お時間…あ、よろしいでしょうか。あ、ありがとうございます。」
「あの~、娘…は?呼んだほうがよろしいですか?」
母親が そう聞くと、
「あ、えぇ、出来ましたら、そうですね、娘さんもご一緒に聞いていただいたほうがよろしいかと…」
男がそう答えので、母親は 娘を呼んだ。
「あゆ!あゆみー!【魔女狩り】の方がいらしてるんだけど?」
すると、奥から 声優の様な可愛らしい声がした。
「あ、はーい。あ!クロは?一緒のがイイかな?」
母親は、男にたずねた。
「あの~ウチの黒猫は?一緒のほうがよろしいですか?」
「あ、そうですね、どちでも構いませんが、こちらの黒猫は?私共の言葉が理解出来る?あ、でしたら ご一緒に聞いていただいたきましょうか。」
男がそう返答したので、娘が黒猫を抱いて玄関に出てきた。
シャワーを浴びて間もないためか、頭にタオル巻いて。
男は、当初の予定通り約10分ほどで説明を済ますと、「また、別の日に参ります。本日は、ありがとうございました。失礼します。どうも…」と頭を下げながら、ドアを丁寧に閉めて帰って行った。
「瑞慶覧て…」
「話が全然 入ってこなかった…」
黒猫が、眠そうな声で鳴いた。