ゆきちゃんの退屈 Ⅱ
誤字あったら正直に言ってください
最初にゆきにお呼ばれがかかったのは12月24日、午後5時だった。
「結莉が呼んでる。」
ゆきは一緒にババ抜きをしているといきなりそう呟いた。
「え?どこで?」
「こう見えても常に全人類の話してる内容くらい把握してるんだよ?それじゃ、行ってきまーす。あ、勝手に私のカード触らないでね?」
「そんなことするくらい私が下劣に見えるか?」
ゆきは特に何か言うこともなく瞬間移動でもしたのか完全に消えた。
ゆきは「機関」の本部にテレポートした。そこはイタリア中心部の小さな建物で、巨大な組織の本部である風格はなく、周りの景色に溶け込むようにして建っていた。イタリアと日本は7時間の時差があるのでここは10時、窓から朝と昼の中間くらいの気怠い日差しが差し込んでいる。
テレポート先の小さな事務室のような部屋では、結莉と未玖が2人だけで待っていた。
「色々と引き継ぎの関係で忙しくてね。今日までかかってしまったよ。」
結莉が申し訳なさそうに言った。未玖がバインダーを見ながら話す。
「では、今日はいくつか質問をさせてもらいます。ゆきさんについての情報をまとめるためです。」
「あい。」
「それでは1つ目の質問です。えと、ゆきさんが覚えている1番昔のことを教えてください。」
「1番昔……」
自分自身のことについて考えたことはあまりなかった。周りばかり見ていて、自分を振り返って見つめる機会などなかったから。
「うーん……気がついたら居た、って感じかな?自分の始まりなんて全然覚えてないや。」
「なるほど。それでは、2つ目の質問です。具体的に、どうやって宇宙を創ったんですか?」
「んーと、それもあまり覚えてない……かな?創ったというか、できちゃったというか……」
「『能力』使用時と似ているな。」
黙って話を聞いていた結莉が不意に口を開いた。
「私が『能力』を使う時もあまり意識はしていないのにできてしまう、そんな感じなんだ。」
「そっかー。『能力』なんてバグみたいなもんだからね。私はよく分かんないや。」
紅茶のガラステーブルの上の高級そうなティーカップに入った紅茶に手を伸ばしながら答える。
未玖が続ける。
「えっと、それでは3つ目の質問です。」
ざっと十数個の質問に答えると、未玖から終わりだ、と告げられた。かかった時間は30分ほどか。
最後にゆきがぽつりと呟いた。
「私が思うに、私の能力の本質は『0から何かを創り出す』能力だと思うんだよね。私の持っている能力も何もない無能力な状態から自分自身で作り上げたもの。多分、そんな感じがする。……このことも踏まえた上で、私が一体何者なのか調べてみたらいいかもね。」
紅茶を飲み干したゆきは「じゃあね」と言ってその空間から消えた。
「あれは本当に神なんでしょうかね。」
未玖がぽつりと呟く。
「それを確実に言い切れるのは多分神以上の存在だろうな。でも、私は彼女は本物だと信じる。」
「……そうですか。だったら私も信じます。」
結局ババ抜きはゆきの勝ちだった。
「ゆき、これで何勝だっけ?」
「私の50勝、全勝だよ。」
「絶対私の心読んでるでしょ!」
「……読んでないよ。」
「あ!ちょっと黙った!嘘ついてる!」
「ゆかりは私を信じられないって言うの⁈」
「存在自体が胡散臭いのに信じられるか!」
「ひっど〜!もう知らない!」
ゆきはそう言い残すと部屋の窓からどこかに飛んでいってしまった。
ちょっと言いすぎたかな。それにしても当然の権利かのように空飛んでるな。
ゆきが適当に放り投げたトランプをのろのろと片付ける。
「どうせ暇だとかなんとか言って帰ってくるでしょ。」
自分に言い聞かせるように呟いた。
でも、その日ゆきは縁の家に戻ってくることはなかった。
短っ