戦闘
前回の続きです(当然)
相変わらず展開がジェットコースターです。ごめんなさい。
「神になることだよ。」
そして、ロゼッタ・ラ・ロテッラはこう続けた。
「神を殺し、その能力を手に入れるんだよ。」
「……はあ。そんなことさせるわけないでしょ。」
ゆきは疲れたようにそう呟くとロゼッタの目の前に手を翳した。瞬間、ロゼッタは消えた。
縁が聞く前にゆきが答えてくれた。
「ロゼッタを太陽系外にテレポートした。まあこれで大丈夫……」
「……かと思ったか?」
ゆきの後ろには、ゆきがテレポートさせたはずのロゼッタが立っていた。
「テレポートくらい、私にもできるんだよ?」
「まさか……結莉と同じ『能力』でも持ってるの?まあこれくらいの方が張り合いがあるってものだよね。……消えろ。」
またもやロゼッタが消えた。しかし、
「……!」
今度は縁の背後に現れたロゼッタは、縁の首に腕を回した。
「ゆき!たっ……助け……うぐっ」
縁の首を絞める腕に力が入る。
「く……るし……」
ロゼッタはありえないほど冷静な声で言った。
「おい神。大人しく殺されろ。」
「そう言われて大人しく殺されるわけないでしょ。」
「こいつを殺していいのか?」
「……」
ロゼッタには今のところどの攻撃も効いていない。ゆきですら干渉できないほどの強さの能力があるらしい。どうするのが最善か。
「……げて」
「ゆかり……?」
「逃げ……て。ゆき、私のことはいいから……逃げ……かはっ」
「……ゆかり!」
ロゼッタが縁の首を絞めつける腕にさらに力を入れる。
そしてロゼッタはこう宣告した。
「私の番だ。」
ロゼッタは左手で白衣の胸ポケットから小さな何かの記号が書かれたカードを取り出した。ロゼッタは右腕で縁の首を締め付けながらそのカードを高く掲げるとこう唱えた。
「神は死んだ」
突然、ゆきの体が音もなく崩れ落ちた。
「ゆ……き……?」
「神を倒した……ハハ……神を倒したんだ!……ウフフ……ウフヘヘヘヘェへへへへヘヘヘヘヘヘェヘヘヘヘェェ!!」
縁の首を絞めていた右手を離し、顔を覆い笑う姿はまさしく狂人のそれだった。
「……何を……したの?」
笑いをなんとか堪えているというふうにロゼッタは話し始めた。
「神の存在は……ヘヘ……非科学なものだ。クフフフ……非科学に対抗するのはフフ……非科学だ。私は科学に対を成すもの……ウフフフフゥハハ……即ち魔術を使ったんだ、神殺しの魔術を!ハハハハハハ!フハヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!」
ロゼッタの高笑いに共鳴するように大気が振動し、風が吹き渡る轟音と共に響き渡る様は世界の終焉を感じさせた。
「ま……じゅつ?……そんな、こと、できるわけが……」
「簡単だ。科学的なアプローチで非科学的現象を誘発したんだ。……ウフヘヘヘヘ……」
縁は軽い酸欠でクラクラする頭で倒れたゆきのもとに駆け寄った。
「ゆき!起きて!しっかりして!死んじゃいや!」
すると。
「……や……だな……そんな簡単に、死ぬわけないでしょ?」
「ゆき……!」
ゆきがゆっくりと体を起こしたのだ。
それを見たロゼッタは笑いが止まり、額の血管を浮き上がらせた。大気の振動はさらに大きくなり、その場に居るだけでかなり辛い。
ロゼッタは聞く。
「なぜ……なぜだ!魔術は確実に成功したはず!」
ゆきが答える。
「死ぬ前に、体を神のものじゃなくしたんだよ。神を殺す魔術なら神以外には効かない……人間の体になれば大丈夫ってね」
しかし。
「ゲホ、ゴホ……オエッ」
ゆきが血を吐いた。神にも血は流れているのだろうか。いや、人間の体になったからか。
「……はあ……はあ、少し、魔術を、食らったらしい。」
「へへへへへへ……ヘヘェヘヘヘヘへェ……!そんな体で何もできるはずがない!今すぐ死ね!」
ロゼッタは今度は腰ポケットから銃を取り出した。ゆきに銃口を向け、引き金を……
「待って!」
「あん?」
縁がゆきの前に立ち塞がった。
「私が死んでもいい!ゆきを……私の大切な人を、殺さないで!」
「ははあん、お涙頂戴ってか?笑わせんな、茶番はもう終わりだ。」
ロゼッタはいとも簡単に引き金を引いた。
「ゆかり!」
ゆきは右手を伸ばした。なんの能力もない人間の右手を。ただの人間のただの掌を差し出した。
銃弾はゆきの掌を破壊し、軌道が逸れ、正確に縁の心臓に向かっていた銃弾は縁の脇の辺りに当たった。ゆきの掌で威力が殺された銃弾は縁の脇を貫通はしたが傷はそんなに大きくない。
しかし、ゆきの右腕の先には申し訳程度の肉片がこびりついているだけだった。手が破壊されていた。
「う……ああああああああああああああああ!」
ゆきが右手を押さえながらしゃがみ込む。右の掌から真っ赤な血が溢れ出している。
「ゆき!だいじょ……ううっ」
ゆきに比べればまだましなのに痛みに耐えられない弱い自分が憎い。
ロゼッタは何やら別のカードを取り出した。
「これが私の『必殺』というやつだ。これで……」
「ううあああああああ!」
縁は脇の痛みを振り切るように叫びながらロゼッタに向かって走り、抱きついた。
「……させない。……ゆきは絶対、殺させない!そのためなら、私が死んだって、構わない!」
「……チッ。」
ロゼッタは舌打ちをすると無感情で先ほどの銃を取り出し縁の頭に向けた。
ゆきが呻くように言った。
「馬鹿なこと、言うなよ……。生きなくちゃ、ダメなんだ……死んじゃあ……意味……ないだろが!私が、ゆかりを、守るんだから!」
ゆきはロゼッタに向かって何かを唱え始めた。
「嘘……だろ?この短い間で魔術を解析したと言うのか?」
詠唱を続けるゆき。ゆきの体が浮き上がり、周囲の床や天井に魔法陣のような光る図形が現れる。
ロゼッタは諦観といった表情になると、こう呟いた
「次だ。私にはまだ次がある。」
そして、ゆきの詠唱が終わった瞬間、ロゼッタの肉体が消滅した。そしてゆきが床に倒れた。
周りの魔法陣的なものはいつの間にか消えている。ゆきを膝枕するようにして抱き抱える。
「ゆき……大丈夫?」
返事がない。
「ねえ……勝手に行かないでよ……置いてかないでよ……ゆき!」
縁の目から溢れた涙がゆきの顔に落ちた。すると、
「ふにゃー」
「え?」
「ん?」
「死んだんじゃないの?」
「だ〜か〜ら〜、そんな簡単に死ぬわけないでしょっての。」
「ゆき〜!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でゆきに抱きついた。
「ちょ、鼻水出てるって!汚いからやめてよ!」
次の日、教室は何事もなかったかのように元通りに直っていた。
それは、ロゼッタの言っていた「組織」のしたことなのか、ゆきがしたことなのか、縁には分からなかった。
唯一、縁が分かることは、昨夜の出来事は自分以外の誰一人として知らないということだ。ゆきにもそのことははぐらかされるので、果たしてロゼッタとの戦闘は現実だったのかすら確認できない。
ただ、縁は知っている。138億年もの長い間眠り続け、つい1ヶ月前に目覚めたばかりの女神様がいつどんな時でも守ってくれることを。
さあて、とりあえず第1章と付けるなら多分ここまでな訳ですが、どうでしょうか。クライマックスってやつですね。
戦闘シーン突っ込んでみました。やりたいことやってるだけ感もありますが許してちょ。
"展開がジェットコースター"