死にたくないの
縁はゆっくり瞼を持ち上げる。激しい雨が降り続けていて、常にどこかから雷の音が聞こえる。縁はそんな大地に横たわっていた。
「ようやく起きたね」
聞いたことのある声。
「……ゆき!」
ようやく意識がはっきりして、縁は飛び起きた。ゆきは、縁の横に屈んで縁の顔を覗き込んでいた。
「……ここって……」
「イタリア中部の街、カストロ……だった場所だよ」
「だった、って……。ゆき!あんた、何をしたのか分かってるの?たくさんの人が死んでるんだよ?……そういえば、未玖さんは?」
縁はゆきに掴みかかって尋ねた。
「死んだよ」
縁は絶句した。
「でも大丈夫。みんな幸せになる世界を作り直すからさ」
縁は拳を握りしめて、ゆきを殴った。何度も。何度も。その間、ゆきは一切抵抗しなかった。
やがて縁はその手を止める。
「満足した?」
縁は無言のままだった。
「見てよ、すごい景色だよね。まるで地獄みたい。こんなの、異能力が存在しなかったら絶対に見れないよ。今のうちに目に焼き付けておいてね」
「……何がしたいの」
縁はやっと一言だけ絞り出した。
「縁も聞いたでしょ?世界を完全に壊して、作り直す。超常現象とかが存在しない、ちゃんとした世界に作り直すんだよ」
「壊したら、私たちはどうなるの?」
「大丈夫、作り直したあとの世界にもゆきは居るから」
「今の私たちはどうなるの?」
「……死ぬかな」
「……死にたくないよ。誰にも死んでほしくない」
「大丈夫、みんな作り直したあとの世界にも居る」
「死にたくない」
「大丈夫」
「死にたくないの」
「大丈夫だよ」
ゆきは縁を抱きしめた。
「じゃあ、縁は特別だよ。これから世界を壊して、作り直すから。それを、縁にだけは見せてあげるよ。今もこうして、本当は即死しているところを生かしてあげてるし」
縁は、ゆきの胸の中で「怖いよ」「死にたくないよ」と言い続けている。一方、縁はゆきを抱きしめて、その頭を優しく撫で続けている。
「縁は、どうしたい?魔法のある世界がいい?それとも、なくてもいい?」
縁は黙っていたが、暫くして口を開いた。
「私は、ゆきと……みんなと、一緒に居たい」
「……じゃあ、私がそうしてあげるよ。私は、みんなと一緒に居るために、全部作り直すの。……いい?」
縁の返事はなかった。
「じゃあ、始めるね」




