調査
現在、結莉と未玖はマンションの一室で同棲しており、二人だけで消滅した創造神の調査を続けている。如何せん、人手が圧倒的に足りないし、ツールも不足している。使えるのは家庭用の規格の普通のパソコンと、掌サイズくらいの簡易的な魔術的観測装置だけ。もちろん、データは粗いものしか取れないし、大量にデータをとっても処理に時間が掛かる。悪戦苦闘といった状況だったが、そこは元トップエンジニアだった早乙女未玖である。結莉に言わせてみれば「わけの分からない謎技術」によって、今回の創造神の手掛かりの入手に漕ぎつけたのだった。
ちょっと苦しそうになるまで縁に食べさせて、満足した結莉が帰宅したその瞬間も、未玖はパソコンの前で作業を続けていた。横からちょっと覗いてみるが、相変わらずものすごい勢いで画面が切り替わっていて、同時に大量のタスクを同時進行しているようだった。もちろん、同時並行にはパソコンの性能的な限界がある。だから、未玖はパソコンの操作と同時に手元の紙にメモを書きつけたりしている。そこに書かれている文字列は、傍から見ると理解に苦しむものだが、未玖曰く「一瞬だけ記憶を整理する補助だから、10秒後の自分が理解できればそれでいい」らしい。実際、あとで何を書いてるのか聞いてみたら「忘れちゃいました」だそうである。
結莉が外出してからも休まず作業しているのであれば、未玖はかれこれ30時間以上は寝ずに作業しているはずだ。昨日の朝から徹夜している。
結莉は未玖の肩を軽く叩く。だが、未玖は作業の手を止めない。次に、肩を揺らしてみる。だが、未玖の手は止まらなかった。
「おい!」
結莉は声をかけると同時に、未玖の肩を強く揺らす。
「……あ、結莉さん。帰ってたんですね。お帰りなさい」
未玖の反応は、明らかに鈍っている。顔は蒼白で、目の下は特に青ざめて見える。
「もう何時間作業してる?寝た方がいいぞ」
「だめです……あと少し、あと少しで……」
「ずっとそんなことを言ってるじゃないか。いい加減休め。適切に休憩を取らないと作業効率も落ちるし、何より、体に悪い。いいから休め!」
そこまで言われて、未玖は作業を保存して、フラフラとベッドルームに向かった。ベッドルームに未玖の姿が消えた直後、ベッドが大きく軋む音がした。未玖は気絶して倒れ込んだらしい。未玖に毛布をかけてやった後、結莉は作業の続きに取り掛かった。
創造神は、ロゼッタ・ラ・ロテッラとの戦闘を開始した直後に消滅した。ナノ秒程度の時空の歪みが生じて、その後、彼女たちはこの世界のどこにも観測されていない。正確には、ほぼ壊滅状態となった機関では人手が圧倒的に足りなかったのだ。職員が減っても、世界中にある設備と装備の管理の手間は減らない。検討を重ねた結果、結莉は機関の機能縮小――事実上の解散を決定した。
そんなことを続けていた間も、未玖は細々と創造神の探索を続けていたらしい。もちろん、未玖も多くの仕事に追われていたから踏み入った操作はできていない。そんな中だったが、未玖はある結果を得られた。
宇宙背景放射というものがある。ビッグバンのときの高温の宇宙の名残が、宇宙の全方位から等方的に飛んでくる極めて微弱な電磁波として観測できるというものだ。それに近い形で、創造神を示す魔力波が観測されたのだ。宇宙のどの方角を観測しても、極めて微弱だが、創造神の波長が観測できた。魔力波は、高次元空間を含む、この宇宙の外の空間にも波及するとされている。一方、時間方向には伝導しない。だから、創造神は遠く離れた次元の空間に存在すると考えられるのだ。
つい昨日、データの処理が終わったばかりだというのに、未玖の謎の技術力によって解析はほとんど終わっていた。今回だけは「あと少し」という台詞は本当だったようだ。結莉が未玖の作業の続きに手を付けると、1時間程度で解析が終わった。
予想通り、創造神が異次元に存在するのは確実なようだ。そして、観測結果は時間の経過とともに変化している。創造神は何らかの動きを続けている、つまり、生きているのだ。結莉はひとまず胸をなでおろした。縁を悲しませないで済む。
さらに解析を続けていた結莉は、ある結果を目にする。
「これは……まさか……!」
結莉は突然立ち上がり、そのまま窓から飛び出した。結莉は能力者であり、その身体強化をもってしたら地上20階のマンションからでも無傷で飛び降りられるはずだった。




