ゆきちゃんの消滅
最終章になる予定です。とりあえずこの連載は完結はさせます。
この世界から創造神が消えて、一ヵ月ほど経った。消える前も後も、世界は何の変化もなく動き続けている。日中関係は良くも悪くもなっていないし、世界各地には変わらず戦争も紛争も溢れている。世界が変わるような規模の革新的な発明が起きたわけでもないし、しかし、東京都内の某駅はまた再開発されて構内は複雑化しているようだ。
そんな社会だが、ただ、一連の出来事で「機関」は完全に瓦解した。魔法とか超能力とか、世界中の超常現象を真面目に研究する組織だ。幹部はほぼ全員死亡したし、僅かに残った職員だけでは組織を動かすのは不可能だった。この一ヵ月で、かつて「機関」が所持していた資産はだいたい処分された。超常現象が絡むものは封印処分の上で焼却されたし、そういうのが絡まない純資産はというと、職員への退職金と、封印処分するときにだいたいなくなった。残った分だけスイス銀行の口座に入れてある。もう使う人間も居ないのだが。
1人、何の変哲もなかった女子高生、立花縁だけが創造神の消滅から立ち直れずにいた。
冬休みの間、寝てご飯を食べるだけの無気力な生活を続けていた。横でくだらない漫画を読んでケラケラ笑っていた彼女は、いなくなった。どれだけ待っても帰ってこない。昼寝しているフリで他人に興味はないってフリをして、誰かが漫画を読んだりゲームしているところをコッソリ覗いて人知れずニヤニヤしていた彼女も、いなくなった。どこに行ったか分からない。そういうことを急に思い出して、何も手につかなくなる。
インターホンが鳴ったが、縁はベッドの上から動く気配がない。5秒くらいして、もう一度インターホンが鳴る。それでも縁は動かない。さらに5秒経って、3回目のインターホンが鳴る。それでも縁は動かない。今度はドアを叩くドンドンという音が聞こえてきた。
「うるさいなぁ……」
縁は小さく呟いた。直後、小さなカチャカチャという音が聞こえて、ちゃんと鍵をかけているはずのドアが開く音がした。それで縁は慌てて、ベッドから転げ落ちるようにして玄関に向かった。
ちょうど部屋から出るところで、勝手にドアを開けた主と派手にぶつかって、縁は尻餅をついた。
「……おはよう」
「おはよう……ゴザイマス」
縁は視線を逸らしたままで挨拶を返した。
ずかずかと上がり込んできたのは、長い黒髪にスーツを着こなしている女性だった。祇園寺結莉、「機関」の2代目であり最後の総統である。今は書類の上では無職ということになるが、「機関」の残った資産はほとんどなくなったとはいえ、人1人が贅沢の限りを尽くしても使いきれないくらい残っている。それを使い放題だから、今もわりと良い生活をしている。
結莉は両手に大きなレジ袋を持っていた。
「近くのスーパーでセールやってたから色々買ってきたんだ。どうせまともな食事は取ってないんだろう?腹が減っては戦はできないぞ?」
「だから、そんなお節介は要らないって……」
結莉を押し返そうとした瞬間、縁の腹が音を立てた。縁は俯いて、小さな声で言う。
「ちょっとだけなら……食べてあげますけど」
そんな縁に、結莉は満足そうに笑った。




