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決戦

 ロゼッタの顔は真っ青になっていた。大量出血で血圧が低下しているのだ。だが、彼女にとってそのようなことは些事に過ぎない。大量出血程度では死なないし、大量出血ほどのことが起きても死なない。

 そんな彼女は、ひたすら東に向かって走っていた。ちょうどナイル川に出たところで、ロゼッタは足を止めた。

「おや、ようやく本命のお出ましか?」

 川岸を歩いてやってきたのは、雪のように透き通った白い髪と白い肌の女だった。

「創造神……!」

 何の前置きも置かず、ロゼッタは殴りかかった。

 すると、突然の明転。


 ロゼッタは、気が付くとあらゆる物質が存在しない空間に放り込まれていた。存在するのは、ロゼッタと創造神のゆきのみ。まあ、そういったものの視覚による認知をできている時点で、少なくとも光子は存在するということだろう。だが、重力がない、つまり重力子は存在していないようだ。

「ここなら、何をしても誰にも迷惑がかからない。」

 ゆきが言った。

「ご丁寧に、応接間を用意してくれたってわけか?ありがたいことだねえ!」

 自分で言い切る前に、ロゼッタはゆきに突進した。

 ゆきは避けることもせず、そのまま突進を受け止める。ロゼッタは神を殺す術式を使ってきた。だから、そのままだとゆきは死んでしまう。

「……また何か小細工をしたのか?」

 ロゼッタの言う通り、ゆきは死ななかった。ただ、その左の手首から先は千切れてなくなっていたし、凄まじい量の血液が溢れている。

 ゆきはロゼッタの問いに答えず、ゆっくりと右手を翳した。

「かかるか!」

 ロゼッタはすぐにゆきの真後ろに回り込み、背中から蹴り飛ばした。ゆきはすんでのところで左腕で受け止める。同時に、左腕は吹き飛び、完全になくなった。

 ロゼッタは空中に大きく長い剣を生み出した。一方、ゆきは細い刀を生み出す。ロゼッタはそのまま切りかかった。ゆきはそれよりずっと小さく、細い刀身で受け止めて見せた。ロゼッタは奇声に近い絶叫をしながら力押ししてくるが、ゆきが押し負けている様子はない。左腕は吹き飛んで無くなったままで、右手だけで相手をしているというのに、微動だにしていなかった。

 一旦諦めたのか、ロゼッタはその剣で突き刺すように攻撃してきた。ゆきはそれを躱して、ロゼッタに切りかかって見せる。その刀はロゼッタに直撃するが、ロゼッタにダメージが入っている様子はない。そこでゆきには隙が生じた。ロゼッタはここぞとばかりに、ゆきの脇腹を剣で叩くように切りつける。だが、ゆきも無傷だ。

 一旦ロゼッタは距離を取ったようだ。

「……ああ、なるほど分かった。体の一部だけを神でなくしていたのか。」

 それにゆきは答えない。荒く、乱れた呼吸で、目の焦点がうまく合っていない。

「だから、神殺しの術式では死ななかった。だが、神でない人の体では物理的な衝撃は無効化できず、神でなくした体の一部は物理的衝撃で千切れ飛んだ。単純な物理攻撃では無傷だったのはそういうことか?」

 ゆきは答えない。呼吸はさらに荒くなっており、視線は宙を彷徨っている。

「図星か?答える余裕がないってことか?」

 何が面白いのか。ロゼッタは高笑いしている。品性というものが感じられない、下卑た笑い声だった。

「分かった、分かったぞ。つまり……」

 ロゼッタはさっきまで振り回していた大きな剣を投げ捨てた。それはゆきの頭部に直撃した。だが、ゆきはこれでは無傷だった。

 せっかく作った武器を捨てて、今度はロゼッタは素手の右手で殴りかかってきた。それをゆきは刀で受け止める。続けて、今度は左手で殴りかかる。刀はロゼッタの右手を受け止めているから、ゆきはそれを止める手段がなかった。

「う……ぅああぁぁあ!」

 左腕が千切れ飛んだ断面から、赤黒い肉塊が飛び出した。それがロゼッタの拳を受け止めた。当然、その肉塊は即座に弾け飛んだ。真っ赤な肉片が細かく千切れて、また、血液も一緒に散らばった。これに対して、ロゼッタは少なからず面食らっていた。

 ゆきは絶叫し続けていた。左腕の断面からはピンクっぽいような黒いような肉塊がとめどなく拡大し続ける。たった数秒で、その肉塊の体積は数万リットルに達した。ゆきの左腕の肉塊にロゼッタは完全に飲み込まれていた。

 成長し続ける肉塊の中で、ロゼッタはもがき続けていた。迫ってくる肉壁を物理的に破壊し続ける。だが、僅差で肉塊の成長速度のほうが上回っている。ロゼッタの周囲に残っている空間は、広がったり狭まったりしながら、少しずつ肉塊で埋まっていった。やがて、ロゼッタは完全に肉塊に包まれてしまった。この時点で、ロゼッタの周囲数十兆キロメートル四方は、ゆきの左からから肥大した肉塊に埋め尽くされていた。

 ロゼッタには異変が生じていた。まず異変が生じたのは、足先だった。ゆきの肉塊から神経細胞が侵食を始めた。それは指先でも同じだ。侵食が進んだ部位では、ゆきの肉塊とロゼッタとの境界がなくなり始める。そして、完全に同化する。

 ロゼッタは生まれて初めて、恐怖という感情を覚えた。

「嫌だ……。体が……動かない!私の脚が……!腕が……!…………!」

 やがて、肺機能がロゼッタの支配下から離れた。呼吸ができなくなり、ロゼッタはもう声を出すことすら叶わない。聴覚がなくなり、味覚がなくなり、視覚がなくなる。脳機能が完全に奪い取られ、事実上の死を迎えるロゼッタは、断末魔を上げることも、謝罪することも救済を求めることも叶わなかった。

次の章で最後です。

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