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邂逅

小説を書く才能のなさを実感しています。

 朝、目が覚めると、目の前に人の顔があった。

 当然のことだが、こんな経験は同じベッドや布団で寝るような人が居なければまず経験することはない。

 しかし、昨日の夜、確かに一人でシングルベッドに入ったはずの(ゆかり)の目の前には、銀髪を肩まで伸ばした美少女の寝顔があった。

 縁はこの顔を知っていた。しかし、信じ難かった。北海道に置いてきたはずなのに……と思いながら目の前に寝転がる彼女をよく観察する。

 まず、全裸だった。髪が軽くかかった、自己主張の強すぎない美しく形の整った胸。その頂点には、綺麗なピンク色の乳首。女の私でも興奮してしまいそうだと慌てて目を逸らす。

 駄目だ。状況が整理できない。なんでこんなところにゆきさんが居るの⁈

 ゆっくりと、ゆきさんを起こさないようにベッドを出た。すると、

「あれ?起きたんだ。おはよー。」

彼女は何事もないかのように起き上がった。

「ゆき、色々聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「えーなに何、顔怖いよゆかりー。」

見た目が若いだけに、縁はいつの間にか呼び捨てにしてしまっている。

 縁は、なぜ今までこれを訊かなかったのか分からない初歩的な疑問を目の前の彼女にぶつけた。

「ゆきって、何者?」

「まあ、強いて言うなら宇宙を作った人かな?」

 来たよキタキタ!全く意味不明の単語が飛び出しましたよ!何それウチュウ?は?作った?何それ?マジイミフなんですけど〜!泣きそうになりながら縁は質問を続ける。

「それじゃあ、二つ目の質問です。」

「ん?……うんうん。」

ゆきはベッドに座り直すと、両手を膝の上に乗せて神妙な表情を作った。

「……なんで私についてくるの?」

ゆきは真面目な表情を崩さず、

「面白いから。」

とだけ答えた。

「あー無理。も〜無理。考えるのやめた!それじゃ私はこれ以上首を突っ込まない。あとはご勝手に!」

そう言い残して私は部屋を出た。部屋のドアを閉める寸前にドアの隙間から見えたゆきはどこか楽しそうな表情を浮かべてこちらを見ていた。




 「結莉さん、動きがありました!」

早乙女未玖がモニターの通知を見ながら叫んだ。

「なんだ?」

「粒子の発信源が東京都内に移動したんです。」

「都内?詳しい場所は?」

「えっと……ここです。」

未玖が結莉に見せた大型タブレットの画面に映っていたマップでは、この研究室のすぐ近く、住宅街のとある地点が赤く点滅していた。

 未玖から強引にタブレットを奪い取った結莉は、無言で数秒画面を見つめていると、

「……行ってくる。」

そう言って上着を羽織った結莉は研究室の扉を開けた。廊下の明かりが眩しい。

「ゆ、結莉さん!どこに行くんですか!」

と引き止める未玖に、

「神に、会ってくる。」

とだけ言い残して結莉は研究室を出て行った。困惑する未玖だけを研究室に残し。




 今日は土曜。当然学校は休みだ。

 縁はもう午前も11時になろうというのにまだ寝間着姿でベッドに寝転がっていた。部屋に戻ったときには居なかったのに、いつの間に帰ってきたのか、ベッドの横にはゆきがまるで自分の部屋に居るかのように足を伸ばして寛ぎながら床に寝転んでいた。服を着て。何やら興味深げに縁のスマホを弄っている。

「ねーゆかりー、これどこで手に入れたの?」

「うるさいな聞くなら後にしてよ修学旅行の疲れが全身にキてるんだよ眠いんだよ。」

ブツブツと愚痴る縁。

「ゆかり?」

「……あー、どこだっけ、……近くの携帯ショップ。」

「……ふーん。」

それでもしっかり答えてしまうあたりに縁の優しさを感じる。だが、答えなど気にしていないかのようにゆきはスマホを弄り続ける。当然のようにロックは解除済みだ。縁は気付いていないが。

 すると突然、ゆきが消えた。スマホが無造作に床に落ちている。

 縁は多分どこかにテレポートでもしたんじゃないかと思った。しかしなぜいきなりテレポートしたんだ。……もしかして何かが私の身に近づいているのか?

 そこまで思考が追いついたその直後、窓の外に誰かの影が見えた。冗談じゃない、ここ2階だぞ⁈

 その影は黒髪の女性らしい。見たところ二十代後半くらいか?すごく綺麗だ。その存在は丁寧に靴を脱いで部屋の中に入ってくると、

「お前が神か?」

と聞いてきた。

 「はい?」

色々突っ込みどころは存在するのだが、まず、

「えっと……誰ですか?」

「そうか、まず自己紹介をしなければな。私は祇園寺結莉。……研究者、とでも言っておくか。」

「えっと、桜ヶ丘(さくらがおか)高校2年、立花縁です。」

「……」

しばしの沈黙を破ったのは、結莉だった。

「君は見たところ神じゃなさそうだ。しかし発信源は確かにこの部屋だった。さっきこの部屋から出て行った人は居なかったか?」

「あ……」

 答えかけて口をつぐんだ。なんだこの人。ゆきのことをなんか知ってるのか?そしてこれは答えるべきなのか?この人は信頼できるのか?

 「知っているんだな。」

「……!」

「さっき調べたが、君は昨日まで修学旅行で北海道に行っていたらしいね。そこで、会ったのか。」

「なんで、それを……」

「答え方に気をつけた方がいいぞ。その答え方だと、真実であることを相手に教えてしまう。」

「……」

その時、窓からもう1人、別の存在が飛び込んできた。飛び込んできたというより、窓の外から部屋の中に舞い降りた、と表現する方が似つかわしいその様は、重力の存在を感じさせず、この世の物理法則から外れているような印象を受けた。

「ゆかりをいじめるのは嫌だよ。私に用があるんでしょ?」

鋭い目つきで結莉にそう言い放ったのは、ゆきだった。

「あ……あなた、なのか?」

結莉は緊張しているのか声が震えていた。

「あなたが、神なのか?」

「神……その呼び名が合っているのかは分からないけど、確かに私はこの宇宙を作った張本人で合ってる。」

鋭い目つきのまま口角を上げ笑ったその様は、悪魔のような怖さと、「本物」だというオーラを纏っていた。

 「一つ、質問をしていいか?」

何度か深呼吸をした結莉は、どこか寂しげにこう訊ねた。

「なんで、私は普通じゃないんだ?」

ゆきの表情が緩む。

「ははあ、数百億分の一で発生するバグかな?」

「バグ……?」

「そう、バグ。私の作った物理法則はほぼ完璧なはずなんだけど、たまに発生するらしいんだよね、バグが。」

「じゃあ、私のこの『能力』は、バグ?」

「そう。ごめんね?なんか迷惑かけてるみたいで。直してあげようか?」

結莉はしばらく考えていた。「能力」を失くし、「普通」に戻った自分。「普通」に暮らせるようになった自分。異常な現象から離れて平凡な生活を送る自分を。

 暫しの沈黙の後、結莉はこう答えた。

「……このままで、いい。私は、今の暮らしが気に入っていたんだ。私は、このままでいい。」

ずっと真顔だった結莉が、少し笑ったように見えた。何かが吹っ切れたようだった。

「そっか。」

ゆきは何かを吐き出すようにそう答えた。

「それじゃあ、上にはうまく言っておく。私は仕事に戻るとするか。同僚も来てしまった。」

家の前の道路で気弱そうな女性が必死に手を振っているのが縁の目に入った。

 結莉が窓に足をかけたところで、何かに気付いたように、

「そういえば、名前は?」

「私は、ゆき。ゆかりに付けて貰ったんだよ。いい名前でしょ?」

「……ああ。縁、君はいいセンスを持っている。」

「え?あ、ありがとうございます!」

いきなり話を振られて変な汗をかいている縁を見て、結莉は少し笑った。

 窓から飛び降りた結莉が見えなくなるまで、ゆきは見送っていた。




 「機関」は元々、中世末期に多発したヨーロッパ規模の厄災を科学的に解決するために設立された、キリスト教を母体とする組織だった。国際化した今となっては、キリスト教の影響は殆どないが、ローマの「機関」本部にはカトリック式教会が隣接していたりと、まだキリスト教時代の面影を見ることができる。

 その教会で1人、あるカトリック教徒が葉巻を吸っていた。皺の多いワイシャツを着崩した、その女の名前はロゼッタ・ラ・ロテッラ。人類史上で十数人しかいない「能力」発現者の1人にして、史上最強の能力者である。そして、「機関」の最高指導者でもある。

 不意に、ロゼッタの胸ポケットに入ったスマホが音を立てて震えた。ロゼッタは、葉巻は咥えたままスマホをポケットから取り出した。

 ロゼッタは、フケに塗れた金髪を掻き毟りながら通知の内容に目を通すと、悪魔のような笑顔で一言呟いた。

「それじゃあ、始めるか。」

すみませんね話の持って行き方が下手で。これからの展開に乞うご期待。なんつって。

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