魔術
「あーーーーー!!痛てぇなぁ!」
アフリカ大陸、リビア南東の砂漠地帯にロゼッタは落下した。その腹部はかつて超高級なスーツの生地だった灰がこびりついていた。長く宇宙の絶対零度に晒された挙句に地球突入時の衝撃で、オーダーメイドの高級スーツはほとんど焼失していた。そして、ロゼッタの脇とか鼠径部とか、一部に辛うじてしがみついていた布だったモノも、役割を持たないと判断したロゼッタに捨てられた。その下の皮膚にはほんの少しの傷すらもない。長期間の宇宙空間に破壊神の渾身の拳にまで晒されてなお、ロゼッタの体は完全に無傷だった。
落下時の衝撃で、砂漠には直径20メートルほどのクレーターができている。砂に足を取られながら、なんとか這い上がったところだった。ロゼッタに向けて銃弾が飛んできた。が、ロゼッタは難なくそれを回避してみせる。
「お前は……」
そこに立っていたのは、かつてロゼッタの部下であった祇園寺結莉。その右手には、拳銃のようなものを携えている。だが、その銃は既存の型ではない。
「誰だっけ。名前なんか覚えてないんだよなあ」
ロゼッタを無視して、結莉はもう一度銃を撃ちこんだ。今度はロゼッタの額に直撃するが、ロゼッタは動じない。
「……やる気か?」
結莉はもう一度銃を撃った。今度は胸部の中心に直撃する。ロゼッタは動じない。
ロゼッタは高速で結莉に突進した。大きな衝撃が起き、砂煙が舞い上がった。砂煙が落ち着いて見えてきたのは、肩で息をするロゼッタと、その腹部に長い刃を突き刺す結莉。赤い液体のこびりついた刃はロゼッタの背中から1メートル近く突き出していた。
「私たちは、あなたを敵と認識している。」
結莉はロゼッタの耳元でそれだけ囁いた。
「……ふざけるな。私が……何をした!」
ロゼッタは腕を振り上げるが、その腕はすぐに重力に従ってしまう。
「これは……魔力の強制排除か?」
結莉は答えず、ロゼッタの腹部に刺さる刃に力を込めた。
「そうか……だったら」
直後だった。結莉は3メートルほど投げ飛ばされた。
「魔術を使わなければ……関係ないな?」
頭から落ちた結莉は、小さく低く呻くだけだった。ロゼッタは腹部に刺さっている刃をゆっくり抜き取る。同時に、大量の血液が腹部から噴き出したが、ロゼッタはやめない。
完全に刃を抜き取って、それからロゼッタは咆哮した。




