着弾
2月17日、シチリア島上空。巨大なエネルギーの放出現象が発生したが、それに気付いた者は居なかった。
「ああ、地球の大気は美味いなあ!」
上空30キロメートルで半ば怒るように叫んだ金髪の女。ロゼッタ・ラ・ロテッラである。そのロゼッタと取っ組み合いのように掴みあっている赤い髪に赤い瞳の少女。
「誰なんだよお前はァ!」
怒りをあらわに、ロゼッタが絶叫する。大気が薄いから、絶叫していても然程大きな音には聞こえない。
赤い髪の少女はロゼッタに答えず、右の拳を秒速一万キロメートルでロゼッタのみぞおちにぶつける。その作用でロゼッタはアフリカ大陸方面へ、その反作用で赤髪の少女はヨーロッパ方面へ、それぞれ吹き飛んだ。
1時間前。艶やかな黒髪ロングは祇園寺結莉、くせ毛の金髪は早乙女未玖。その二人がガラステーブルの前に居る。少し離れたところで壁にもたれかかっている赤い髪の少女は、破壊神である。紆余曲折あって、とある少女に「りんご」と名付けられた。その名付け親である立花縁は、隣でキョロキョロを辺りを見回していて、ちょっと挙動不審気味である。彼女が名付けた神はもう一人居る。ガラステーブルで結莉と未玖の向こうに腰かけている、この宇宙の創造神である。彼女の名前は「ゆき」。雪のように透き通った白い髪、深く碧い瞳。直感的に美しいと感じてしまう、整った顔立ちに視線が吸い込まれてしまう。
「まず、反魔導シールドでロゼッタ着弾の衝撃を緩和する。これで衝撃で放出されるエネルギーを百分の一まで軽減できる。だが、それでも地球の崩壊は免れない。そこで、あなたの力でエネルギーを抑え込んでほしい。」
それに対してゆきが口を開いた瞬間、破壊神――りんごが先に口を出した。
「抑え込むだとか、そんな面倒なことはしなくていい」
その場に居る全員の視線がりんごに向いた。急に視線が集まってちょっと面食らっていたが、りんごは続けた。
「……私がやる。私は全てを破壊できる。抑え込んで中和するとか、そんな面倒なことをしなくて、私ならエネルギーそのものを破壊できる。」
結莉と未玖は軽くアイコンタクトを取って、それから結莉が続けた。
「そう言うのなら、あなたに任せたい。……いいか?」
破壊神、りんごは、イタリア上空で放物運動を描いていた。その右の腕は赤熱し、肘から先は溶融して焼け落ちていた。りんごは、破壊神としてこの世界に発生して以来初めて感じる「痛い」という感覚にのたうち苦しんでいた。破壊神は、あらゆるものを破壊できる。その体は、何よりも破壊に対する耐性がある筈であった。その体が溶融し、弾け飛んだ。創造神のそれと違って、破壊神は体を再構成する術を持たない。肘から先だけだった焼失部分は徐々に拡大し、今や右腕は完全に無くなっていた。
りんごは満足していた。少なくとも、地球は破壊されていない。生まれて初めて、何かを守ることができたのだ。既にりんごの胸部および顎の右側は赤々と鈍い光を放っており、全身が溶け落ちるのは時間の問題だった。だが、その前に、アルプス山脈最高峰、モンブランの斜面に彼女は激突した。




