まとめ買いがお得
手錠で四肢を椅子に固定され、目隠しに首輪までされて拘束されていた結莉。1週間もそんな状態で放置されて、結莉は既に思考というものを放棄していた。
そして、結莉の処刑の日がやってきた。重い金属のドアを開けて入ってきた3~5人の足音。数丁の銃の構えられる音。そして、銃弾が放たれる音を、結莉は聞いた。
だが、結莉は死んでいなかった。
「タイミングバッチリ。うん、完璧!」
そんな場違いな声が聞こえてきた。聞いたことのある声だった。
「その声は……」
結莉は久しぶりに――丸一週間ぶりに――声を出した。急に喉を動かしたからか、声はガラガラにしゃがれていた。
「ああ、無理しないでね。ここは私に任せて」
凄まじい銃の連射の音で何も聞こえないはずだが、その声だけははっきりと耳に届いた。創造神はそこのところは何でもありなんだろう。疲労もあって、結莉は考えるのを諦めた。
やがて銃声が落ち着いて、同時に結莉は眠りに落ちた。
次に結莉が目覚めたのは、ホテルのユニットバスの中だった。なんだかくすぐったくて、目を開けたら目に水が入ってきた。慌てて手を振りまわしたら、左手の指先が柔らかいものに当たった。
「ひゃあ!」
思わずそれを掴むと変な声が聞こえて、右手で目を擦ってから、ようやくしっかり目を開く。
「未玖……?」
見慣れた未玖の顔があって、でも、その下は初めて見たものだ。流石に全裸の未玖を見るのは初めてだったのだ。
「何がどうなったんだ?」
「えっ……えっと……一人でお風呂入れるならそうしてください!」
それだけ言って、未玖は出て行ってしまった。それで結莉は気付いたのだが、未玖は気を失っていた結莉の体を洗ってくれていたらしい。胸元だとか股間だとか、一部はあまり触れられていなかったが、それ以外はだいぶすっきりできた。湯船の中に放り出されたままで、左手を眺めながら結莉は呟いた。
「意外と大きかったな……」
結莉はとにかく空腹で、柄にもなくひたすら食料を口の中に放り込んでいた。能力の作用で死ぬことこそないが、空腹中枢は限界を超えて空腹を主張していた。
テーブルの横の椅子には未玖が座っていて、向かいには創造神であるところのゆき、その隣に立花縁が居る。少し離れたところで窓の外を眺めている赤い髪の少女が、破壊神のりんごである。
「説明してやれ」
目線を窓に向けたまま、りんごが言う。
「説明責任。果たしてよね。……私もよく分かってないし。」
頬杖をつくゆきの腕を突っつきながら、縁が言う。
「仕方ないなあ」
そう呟くゆきの視線は結莉に向かっているわけではなかった。かといって、他の誰かに向かっているわけでもなく、何もないテーブルクロスを見つめている。
「ロゼッタ・ラ・ロテッラが、地球から600億光年ほど離れた場所に居る。私は、彼女に地球の位置を悟らせないよう、能力の使用をセーブする必要があった。だから、君を直接助けるのが難しかった。」
ゆきはチラリと結莉のほうに目を向ける。結莉は大盛りのパスタを咀嚼しながら聞いている。
「私は作戦を立てた。ズバリ、『まとめ買いがお得』作戦。敵が一か所にまとまったところで一網打尽にしたら、能力の使用を最低限に抑えられる。」
「それで、私を放置していたと?」
一旦口の中のものを飲み込んで、結莉が言う。
「まあ……そうなるね。……ごめん」
「勘違いしてもらったら困る。今回の一件は、あくまでも我々の組織内の混乱が発端だ。そもそもの責任はこっちにある。」
「ありがとう。でも、それだけじゃなくて……その……」
ごにょごにょと口籠るゆき。
「代わりに言うか?」
りんごが口を出してきた。
「あ~、えっと、その……ロゼッタに位置を悟られないようにやった今回の作戦だけど……」
「失敗した」
さらりとりんごが言ってのけた。
「ロゼッタは、ほぼ迷いなくこっちに……地球に向かってきている。今から一週間もせずに地球にやってくるだろう」
ずっとのらりくらりとしているゆきに耐えきれなかったのか、りんごが全て言ってしまった。
ようやく諦めたのか、今度はちゃんと結莉の方を見て、ゆきが言う。
「まあ……そういうわけで、機関の皆さんには是非ともご協力してほしいなあ、なんて」




