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138億年間眠り続けた宇宙を創造した女神の話  作者: あさねこ
うん……。本当に、面白いね
24/41

能力

 東アルプス山脈の山肌の中腹あたり。標高は2000メートル前後。祇園寺結莉は息を切らしながら歩いている。周囲を見渡し、空を飛ぶ鷲くらいしか動物が居ないことを確認して、ゆっくり深呼吸をする。

 結莉を追っているロゼッタ派閥は、ローマ郊外に逃れた程度では撒けなかった。ずっと北に逃げ続けて、アルプスの山中に逃げ込んで、ようやく一旦休憩できる。結莉の能力による脚力の強化をもってしても、流石にこの距離を走り続けて疲労が蓄積している。だが、休憩も束の間だろう。機関の擁する魔術式レーダーを使えば、地球上の一人の人間の座標の特定など造作もない。

 体力はとうに尽きていて、気力のみで脚を動かし続ける。ここは大きく傾斜した山脈の斜面である。起きるべくして、それは起きた。結莉は酷く足を滑らせたのだった。結莉の体は、そのまま頭から斜面を滑り落ちていく。能力による強化で、その白い柔肌には大きな傷がつくことはない。だが、それだけだ。硬い岩場に激しく打ち付けられ、途中に生えている樹木で大きく跳ね、ようやく転落が止まるまでに転がり落ちた距離はおよそ600メートル。

 脳震盪でぼんやりする頭から体を動かすように指令を飛ばすが、四肢は言うことを聞いてくれない。蓄積した疲労のせいだろうか。やがて結莉は眠りに落ちたのだった。


 次に結莉が目覚めたとき、まず視界に入ったのは白い陶器の表面だった。大便器である。結莉の全身は丈夫な紐で結ばれて、公衆便所の床に寝転ばされていた。だんだん意識がはっきりしてきて、遠くで聞こえる小さな声に耳を澄ます。それを聞く限り、結莉はロゼッタ派閥に捕縛されたようであった。ロゼッタ派閥は頭数こそ多いが、中心となる人物は居ない。トップダウンで迅速な行動ができるような集団ではないのだ。今もそうで、とりあえず捕縛した結莉の処遇をどうするのか、幹部たちで議論して結果を待っているらしい。

 結莉は脱出を試みることにした。紐で縛られているが、それだけだ。結莉の身体強化をもってすれば、この程度は簡単に抜け出せる。と思われた。何故か力が入らない。アルプスでの転落がまだ響いているのか?結莉は、このようなことは初めてだった。能力に目覚めてからというもの、何のトレーニングもせずにどんなスポーツも世界新記録を余裕で超えられたし、どんなに疲れてもその力が衰えることはなかった。力が入らないどころか、体が動かない。焦りつつも、結莉はそのまま待機せざるを得ない。そうして、一週間が経過した。


 パリの地下、カタコンベの一角に隠し通路が存在していた。「機関」が保持する施設に通じるものだ。カタコンベの髑髏たちの並びとは打って変わって、この施設の中は綺麗なものだった。光沢のある金属の壁に、滑らかなビニール系素材の床。そんな一角に、結莉は閉じ込められていた。食事は一週間――つまり、捕まってから今まで――の間で一度もできておらず、その他生存に最低限の行動さえ制限されて、人権という概念とは程遠い生活を余儀なくされていた。

 しかし、そんな生活も今日で終わりだ。結莉の処刑が本日執行されるのである。結莉は現在、地球上で最強の能力者である。ロゼッタ派閥による機関の機能掌握にあたって、明確に邪魔者であった。だから殺害するということなんだろう。ある意味で重要視されていると言えるかも分からない。今の結莉は能力による身体強化がまともに使えないというのに、四肢は強力な金属製の手錠で硬い椅子に丁重に固定され、目隠しに首輪まで付けられている。これで飲まず食わずである。死んでいないだけ流石は能力者ということだろう。

 二日目くらいから、結莉は思考を放棄していた。頭を動かしていると、不安だとか焦りだとか、負の感情に支配されてしまう。だったら何も考えないでおくのが一番だ。そんな中で、金属製の重たいドアの音がした。それで久しぶりに思考がオンになった。軽く首を動かすが、それだけでも痛みが走る。ずっと椅子に座っていたせいで尻と腰が割れそうなほど痛む。全ての行動を制限されていたせいで、言及するのが憚られる排泄物とか体液は出るがままになっていた。それが服にこびりついていたり染みていたり、痒いし気持ち悪い。

 人間の外界の認識を分類するなら、視覚から得る情報がほとんどである。目隠しをされている結莉は聴覚とかに頼るしかない。その聴覚によると、金属の扉を開けて室内に入ってきた足音は3~5人くらい。それから銃を構えた音がした。そして……数丁の銃が、一度に発射された。

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