第二節 三人目 11話目
――深夜未明のことだった。どうもソファで寝る時には眠りが浅くなるのか、夜遅くであろうと物音でふと目を覚ますことがある。
「……ん?」
寝間着というわけではないが、普段着ているタイラントコートなどの防具一式は脱いで布製のシャツを身につけているこの状況で物音がするとなれば、とっさにソファに立て掛けておいた刀に手が伸びてしまう。
「誰だ!」
物音がしていたのはソファの近く。しかも暗殺をするためか、俺の上に乗りかかろうと体重をかけてきた時のことだった。
「っ、抜刀法――ッ!?」
とっさのこと故に対応が遅れてはまずいと、俺はそのまま抜刀法を使おうとした。
しかし――
「んん!?」
こちらの口を手で押さえ、更に自信の口元に人差し指を立てて静かにするように促す一つの影。
「しーっ……静かに、ね?」
よく見ればそれは俺のよく知る人影で、そして普段とは違った服装――いや、違う!?
「な、ななな、なんで下着――」
「だーかーらぁ、静かにしましょ?」
何で下着姿のベスが俺の上に跨がっているのかって話だよ!
「おかしいだろこの状況! だいたいお前――」
「だってぇ、ジョージってば全然襲う気配がないんだもの。だからこれって仕方ないことでしょぉ?」
何がどう仕方が無いのか分からない。というよりそういったことはラストですらやったこと無い――あぁ、普通にあったわ。その時はもうどうしようもなかったからなすがままにやられたけど。
しかし今回は違う。相手はプレイヤーであり対等な存在。しかも人妻だから手を出せばこっちが百パーセントアウトなのは確実。
「ちょっと待て早まるな! お前には旦那がいるだろうが!」
「だから言ってるじゃなぁい。私の夫は既に了承済みだってぇ。別に訴えられたりしないから安心して浮気していいのよぉ」
だから旦那の脳が(ネットスラング的な意味で)粉々になってるだろそれ!?
「それに私だってほら、初物なんだからいいでしょぉ?」
「い、いやいやいや! そういう問題――っていうか旦那とやってないのかよ!?」
「だからワケを話してすぐに結婚して、こっちに来たってことよぉ。それじゃ、そろそろ皆が目を覚ましてしまう前に、気持ちよくなってしまいましょ?」
サイコパスも真っ青の考えを前に、俺は何も言い返すことはできない。遂に二度目の間違いを犯そうとなったその瞬間――
「主様に何をしているんだこの羽虫がぁああああ!!」
腹に響くような地鳴りの方を振り向けば、そこには明らかにドス黒いオーラに身を包んだラストが鬼を通り越して阿修羅と化した形相でそこに立っている。
「あららー、起こしちゃった?」
「ハァッ、ハァッ! 主様! ご無事でしたか!?」
うん、ギリギリセーフ。というか今回はよくやったとしか言い様がない。
「諦めろ、ベス。こうなったラストを止める術を俺は知らないからな」
「うーん、ちょっと残念だわぁ」
恐らく『リベリオンワールド』を起動してから一番のどや顔を見せたであろう。一転攻勢でベスの野望は見事潰える――筈だった。
「――ねぇ、本当は貴方もジョージとしたいんでしょぉ?」
「は……?」
唐突に出てきたベスの言葉に、俺は素で声を漏らしてしまった。
「羽虫が、一体何のつもりだ……?」
ラストも何故か耳を傾けようとしている――っていうかそれはまずい。非常によろしくない。
「だーかーらぁ、二人一緒なら文句は無いでしょぉ?」
「ちょっとまでベス! それはおかしいだろ!?」
「ふむ、羽虫のくせに一理あることを言う」
一理どころかミリも理論的じゃねぇよ馬鹿ですかこの人達は!?
「そういうこと。ねっ?」
「……仕方が無い。主様が望むなら」
いや別に望んでいないから! ほら、残心も使っているから!
「口を塞いでおかないと子ども達起きちゃうわねぇ」
「心配するな。私の魔法でぐっすり眠らせておく」
こういう時に限っての連携は素晴らしいなオイ!
「頼む、間違いを犯す前に大人しく――」
「あらぁ? 犯すのは私達じゃなくてぇ、ジョージの方でしょぉ?」
……もう無理、詰んだわ。
「初めてだけどぉ、頑張って気持ちよくしてあげるからねぇ」
これ以上書くとBANになりますので割愛です(´・ω・)。




