第二節 三人目 9話目
「えぇーと、これってどういうことなの?」
「しっ! 下手に口出ししない方がいいわよアリサ。これは大人の問題だから」
「そういうウタは何か知ってるのかよ? 説明してくれよー」
「えぇっ!? えぇーっと……それは……」
うん、無理矢理俺をフォローする必要は無いぞウタ。それに俺が二股かけているような雰囲気を出す必要も無いからな。大人の問題といっているが、どっちかといえば子どもの痴話喧嘩の方が正しいから。
「あらあら、相変わらずお元気そうねぇ?」
「貴様の方こそ、相変わらず主様の回りをブンブンと飛び回りたがっているみたいねぇ」
どちらも一切スキルを使っていないはずだが、何故かドス黒いオーラが見えるのは気のせいだろうか。それにタイラントコートをちゃんと装備しているはずなのに、何故か俺の精神がすり減っている気がするんだが。
『と、とにかく落ち着け。今日のところは互いに矛を収めておくんだ』
「主様がそうおっしゃるなら……」
「勿論、お互い冗談だって分かっているわぁ」
絶対に分かっていないやつだと思う。これは確信できる。
とまあピリピリした空気は収まったようなので、俺は一安心してアリサに何かコーヒーでも出すようにお願いする。
『何か温かい飲み物を貰えるか?』
「うん! 今持ってくる!」
「あっ、ちょっと待って! 私も手伝うから!」
三人の中でも一番素直なアリサの後を追うようにして、ウタも手伝いにキッチンへと向かう。
そんなウタ達の背中を目で追いながら、ベスは口を開いて――って、嫌な予感しかしないんだが。
「それはそうと、その子達はどうしたのかしら?」
「あっ――」
予感的中。俺は説明しようと急いでキーボードを叩いたが、この場に最後まで残っていたユズハが無意識に爆弾投下を行ってしまう。
「えっ? あたし? あたしはパパに――」
「あー! あー! 俺が説明するから――って」
最悪のタイミングで話を切ってしまったぁー!?
「パ……パ……?」
ベスの身体から明らかに力が抜け、その場に崩れ落ちる。するとラストも何か悪いことを考えついたのか、追撃の手を緩めることなく嘘を重ね始める。
「そうなの、実はこの子達は私と主様の子ども達なのよぉー」
「う、嘘よ……嘘って言ってよジョージィ!」
「だぁーから俺が説明するから話をややこしくするな!! それとユズハ! こういうことがあるから人前で俺をパパ呼びするなって言ったよなぁ!?」
「えぇー、でもおじさん呼びよりはそっちの方があたし的には馴染むんだけど」
馴染むか馴染まないかの問題ではない。そんなことよりも誤解を解かなければ。
『とにかく、この子達は始まりの草原で拾っただけだ。詳しくワケを話すとちょっと面倒だが、ただそれだけだ』
「それってほんとぉ……?」
『ああ。そもそも俺は現実世界でも独身だし、こっちでも――』
「主様、それって私とはお遊びだったということでしょうか……?」
ラストが急に涙目になってその場で塞ぎ込んでいると、ユズハが今度は俺の方を睨むように見て怒り始める。
「パパ! ママを泣かせたら駄目だよ!」
「『ああ、そうだな……』ってちょっと待て!? いつからラストがママ呼びになったんだ!?」
というよりいつの間に三人を懐柔しやがったんだこの魔族は!? 末恐ろしいにも程があるわ!
「ウフフフフ……」
うわー、両手で顔を押さえているけど隙間から明らかに笑みが漏れているし……女って怖ぇー。
『……まあ、なんだ。俺だけがダメージを負ったみたいからいいものの……とりあえず飯にするか』
一旦晩飯を食べながらでいいから、状況を整理する時間を俺にくれ。




