第二節 三人目 8話目
「――それでふと思ったんだけどぉ」
ふと思うよりも問題が起こっているんだが……。
「ねぇ、ちょっとぉ。どうしてそんなに伏せて馬を走らせるくらい急いでいるのかしらぁ?」
伏せている、というより前屈み気味になりながら馬を走らせているというのが正しいんだが、それを言ったら多分ベスは調子に乗ってくるに違いない。
行きは一人だったことから借りた馬も一頭しかいない。しかし帰りになってベスと二人になったとなれば、俺一人馬に乗って帰るのは当然無いとして、かといって馬を引いて歩いて帰れるような距離でもない。
となると必然的にベスと二人乗りでレリアンまで帰ることになる訳だが、背中に当たる二つのスライム的柔らかさを持つあれが気になって仕方がない。かといってこの程度で残心を使う訳にもいかず(というより使った瞬間色々とお察しになってバレる)、こうして伏せるようにして急ぐフリをしているという訳である。
「ねぇ! どうしてそんなに急いでいるのかしらぁ?」
『実は古代文字はこれだけを解読する訳じゃない。他にもいろいろなダンジョンを数多く回る必要があるんだ。その為にもこうして文字を回収して急いでアジトに報告に行かなければならない』
「だけどこっちって首都から離れていってないかしらぁ? 私の知ってるアジトって、確かお城の方じゃ――」
『百年経ってから色々とギルドの様相も変わっていったんだよ』
「じゃあ今はどうなってるの?」
ベスの何気ない質問だったが、俺はそれにすぐに応えることは出来なかった。
グスタフさんの時もそうだった。今置かれている状況は、そう単純なものじゃない。この百年間であった出来事に、俺達のギルドである殲滅し引き裂く剱は深く関わりすぎていた。
「……何かあったの? 私達のギルドに」
「……何かあった、というより、あり過ぎたといった方が正しいのかもな」
別にベスの方を意識した訳では無かった。ただこの話をするに従って、自然と身体に力が入ってしまう。
それが憤りだということは分かっている。だがこれを抑えることは難しい。というより、今の俺にはそう簡単に抑えられる感情ではない。
「……そう。でも、安心したわ」
「ん?」
更に身体をこちらに預けるようにして密着しながら、ベスは背中越しにこう呟く。
「ジョージもこの世界で、元気にやってて良かったってこと」
『……まあ、な』
「それに、例のあの魔族は?」
『ああ、あいつも一緒だ』
「……そう」
『…………さて、そろそろだ』
レリアン近郊の村にまで差し掛かったところで、俺はベスの方に声をかける。本当なら一度村にも寄る予定だったが、こうしてベスを引き連れている今は、いろいろな意味を込めてこの村をスルーして先に向かった方がいい気がする。これはスキル云々ではなく本能で感じ取っている。
そうして俺は村の前を横切って、そのまま先にレリアンへと顔を出そうとしたが――
「――はーいストップですよ主様ぁ!!」
「げぇっ!?」
ラストの魔法によって怯んだ馬が見事に足止めをくらえば、俺とベスは村のど真ん中でラストと相対することに。
『……まさか、GPSで張っていたのか……!?』
「主様が帰ってくると知って、急いで飛び出してきたに過ぎませんわ」
ラストはそう言って自信満々胃腰に手を当てて胸を張っている。しかし俺が自分の家の前の方を横目でチラリと見れば、やはりそこには現代っ子な三人がGPSを片手に俺の方を見て帰還を喜んでいる。
しかし喜ばしいのは三人だけで、俺を挟んだ状態で殺気だった空気が流れているのをひしひしと感じる。
「……あらぁ? 噂をすれば、お久しぶりねぇ」
「羽虫の分際で、どぉして主様に抱きついているのかしらぁー?」
「……やべぇ、道を間違えたかもしれねぇ」
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