第二節 三人目 4話目
「それじゃ、いくわよぉ」
ベスは何の迷いもなくステータスボードから別の槍を呼び出すと、そのまま通路を駆け出す。俺は一旦消していた松明を再びつける準備をしつつ、いざという時のバックアップの準備をする。
『必要ないとは思うが、あまり多くのTPを使われても面倒だからな』
まだまだこの先は長い。ここで下手に消耗品を使うのもバカらしい。
だがベスというプレイヤーにとっては、派手さのないバトルなど何の価値もないといったスタンスのままのようだ。
「一発で粉々にしてあげる……」
彼女のやり方は至ってシンプル。大軍であろうが、単体であろうが、弱点をただ正確に打ち砕くだけ。故にハマった時には大軍であろうといとも簡単に瓦解する。
無論それは、一対一の遭遇戦においても適応される――
「――スピア・ストライク」
まるで銛で突くかのごとく、手のひらから真っ直ぐに放たれる槍。シンプルかつ最初に覚える刺突スキルだが、これもまた例外なくスライムにとっては物理軽減の対象。しかしベスの力をもってすれば話は変わってくる。
ボフッ! という風切り音とともに勢いよく射抜かれれば、その衝撃の余波でスライムに大きな風穴が空けられ、貫いた時に巻き起こる風は更に勢いを増していく。
「はい、お終いっと」
――神槍・風霧。防御するように回せばその場に霧を生み出し所有者の姿を消し、そして一度刺突を行えばそこには風神が巻き起こす暴風が伴って発生するという、攻防一体の槍がベスの手には握られている。
レアリティレベルは116と少しばかり劣るが、それでもゲリラ戦においては規格外の性能を発揮する武器だ。
しかし――
『――今使う必要があったか?』
「あらぁ? こうして一撃で終わらせたんだから何も文句はないでしょぉ?」
『本当にそうか? 追加効果の暴風発生の時にもTPを消費するから勿体ないと思うんだが』
「だからその為にも言われた通りに知力に割り振ってきたんでしょぉ? 勿体なくなんかないわよぉ」
それもそうかもしれないが……。
『まっ、いくら考えてもベスが相手だと無駄か』
「むぅー、無駄って何よぉ」
『さーて、奥に進みますか』
◆ ◆ ◆
――スケルトンを蹂躙した跡をたどりながら先を進んでいくと、奥の方からどすんどすんと地鳴りが響き渡る。
『……ちょっと嫌な予感がするのは俺の気のせいか?』
「あらぁ、私としては大きな獲物がいそうでわくわくしているんだけど?」
この人が歩いているかのような規則的な地鳴り。なるほど、ここら一帯のモンスターがいなくなっていたのは、恐らく――
『……これ、奥に巨人族いないか?』
天井からパラパラと砂が落ち、ダンジョン全体が妙に揺れている。
『急いで最深部にある遺産を奪還してここを脱出するしかないか』
「えぇー、折角だから倒しましょうよぉ」
『だいたいこういう場合は、ボスを倒すまでに制限時間が設けられている。しかも失敗したら纏めて生き埋めという一撃死のおまけ付きでな』
しかしどうして遺跡の奥に巨人が? 入り口といえば俺が入ってきた箇所ぐらいしか無かったと事前の調査情報にあったが。
『だがしかしあれこれ考えても仕方がない。先を進むぞ』
「ええ、そうしましょう――」
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