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第二節 三人目 3話目

『――それで、どうして体験版の時はログインしなかったんだ?』


 シロさんと俺との三人旅だった頃の話や、そこから少人数の廃人エリート集団として過去のベヨシュタットにてお抱えギルドとなっていた時の話。それらの懐かしき昔話にも一区切りついたところで、俺はベスと会ってからずっと疑問に思っていたことをキーボードに打ち込む。

 前作ではショートボブだった髪も肩まで伸びていて、そんな髪の毛を揺らしながらベスは小首をかしげる。


「どうしてすぐに来なかったかって? それはね――私、つい最近結婚したのよ」

「……は?」


 ……ちょっと俺の耳がおかしくなったのか? それと何故か遠くでラストがガッツポーズしているような気がするんだが。


『しかし……いやいやいや、それはないそれはない』

「あらあらぁ、私だってまともに結婚くらいできるわよぉ?」


 ……いやちょっと考えてみたがこんな人格破綻者が結婚できるはずがない。前作だと高笑いしながらまともに防御も考えず敵陣に突っ込むような人間だぞ?


「交際期間三日のスピード結婚。どう? “人妻”を前にして何か感想は?」


 何故か人妻というところを強調してきたのが引っかかるが、俺から言えるのは一つだけ。


『んー……俺から言えるのは結婚おめでとう、ってくらいか?』

「ちょっとぉ、それ以外に何かないのかしらぁ?」

『……ああ! 悪い悪い! 見ての通りこの世界ゲームに入りっぱなしだから、披露宴にも参加できなくて――』

「そうじゃなくて!」

「なんだよ!?」


 何に対してしびれを切らしたのか、わざとらしく胸を強調するように両腕を組んでむすっとした表情を作り出して詰め寄ってくる。

 しかしながら以前の彼女であれば機嫌を損ねた時点で槍の一本や二本がフードをかすめていく訳だが、そこは結婚してから性格が丸くなったのか攻撃もなしに距離を詰めて――


「――何かこう、こないのぉ?」

『何が来るんだよ……』

「だってぇ、目の前にいるのは人妻よぉ?」

「……は?」


 本日二度目の間の抜けた声だったが、二回とも俺は何も反応を間違っていないはず。

 しかし目の前のベスにとって俺の反応は想定していたものと違っていたようで、自分が何か間違っているのかと焦っているような様子を見せ始める。


「おかしいわね……だってあの有名人だってネトゲで正体をバラして不倫できていたのに……」

『一体何を言っているんだお前は。そもそも不倫はダメだろ』

「でもそういうエッチなサイトだと検索ランキング上位よ? 普通ときめくんじゃないの?」

『……お前まさか、その為に結婚したとか言うわけじゃないだろうな?』

「えっ? 別に夫も了承の上なら問題ないでしょぉ?」


 ダメだこいつ……何とかしないと……。それと相手の人も既に脳が粉々になってやがる……。


『……悪いが俺に人妻属性は効かない。効かないぞ』


 ちょっとその単語を聞いた時少しだけドキッとしてしまったが効いていない。その瞬間からちょっとした仕草が少しエロいと思ってしまったが効いていない。


「……残心」

「あらぁ? どうして集中スキルなんて使っているのかしら? ここら辺に敵はいない筈でしょぉ?」


 そんなことはない。いないと思っていても警戒するに超したことはない。たった今思いついたことにしても、それが身の安全に繋がるなら――


「――んん?」

「何よ、らしい態度取ったりして、本当は-――」

『しっ! 静かに』


 ベスの目の前で人差し指を立てながら、俺は松明の火をそっと吹き消す。辺りはまさに暗闇と化し、俺も鼻先三寸すら何もうつらなくなる。


「一体どうしたの? 何か居たの?」

『……前方を見ろ』


 あれと突然遭遇したとして、接近戦でまず勝ち目はないだろう。

 普通のゼリー状のものとは違う、辺りをうっすらと照らす蛍光色。


『……蛍光スライムだ。レベルは――』

「50ってところ? でも近接職にとっては天敵ね」


 それもその筈で切断や打撃、そして刺突といった近接に多い物理攻撃にめっぽう強く、よほど一撃で粉微塵にでもできない限りは相手にしない方が得策だ。


『経験値としてもうまみが少ない。ここは適当にやり過ごすとしよう』


 幸いこの先はT字路。あのままスライムが横切っていくならそれはそれでアリだ。そう思って伏せたまま静かに様子をうかがっていると、背後からスッと立ち上がるような音が聞こえる。


『ッ! おい! 何をする気だ!?』

「あれくらい、私なら何とかできるわよぉ?」


 指先で軽々と槍をくるくる回しながら、ベスは真っ直ぐ前へと歩いていく。


「それにようやく戦えるんだもの、ちょっとは癖のある敵の方が楽しいわ」

『……やっぱりお前は戦闘狂だ』


 昔と変わらず、黙ってやり過ごすという選択肢は彼女には無かったようだ。

 性癖は業が深くなる(偏見)。


 ここまで楽しんでいただけたのであれば、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)

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