第二節 三人目 2話目
「チッ……解読スキルがないからこれが何を指し示しているか分からないな」
松明片手に石の壁に刻まれた文字を指でなぞりながら、俺は奥へ奥へと進んでいく。しかしながら思ったより中は広く、うっすらと靄のようなものが足下に広がっている。そして下の方へと続く階段が、後戻りができるかどうかの不安を煽っている。
「モンスターはいないようだが……ん?」
階段を降りた先――まるでついさっきまで誰かがここを踏みしめていたかのように、足下の靄が足跡を残すようにかき分けられている。
「これは様子をうかがった方が良さそうだな……」
恐らくモンスターがいないのも、先行したプレイヤーなり冒険者なりが狩っていったからなのだろう。この先行者が敵か味方か分からない状況では、ゆっくりと一歩一歩慎重に進んでいくしかない。
「くっ……ラストさえいれば――」
「あらぁ? その雰囲気だと本当にジョージじゃないの?」
「ッ!? 『誰だ!!』」
ついさっき隠密で行こうと思っていたところで声をかけられてしまい、敵にバレてしまったかと勘違いした俺は即座に抜刀して後ろを振り返る。
「あっぶなぁーい。相変わらずの辻斬りっぷりじゃないの」
『……何だお前は。俺を知っているとは、一体誰だ?』
「ひっどぉーい。同じギルドの人間を忘れるなんて、ジョージっていつからそんなに薄情になったのかしらぁ?」
この声、そして相手を煽るようなおっとりとした口調。
『……まさか、ベスか?』
「ピンポンピンポーン。よくできましたぁ」
十年前にはおっとりとした雰囲気を持ちながら、創設メンバーの中で一番戦闘に積極的な女だった。それは十年たった今でも変わらず、ふわっとしたような雰囲気を纏いながらも大人の色気というべきか、そういったものも付随した姿へと成長している。
泣きぼくろを携えた垂れ目の女性が身につけるものとしては想像のつかない、身の丈以上に伸びた長槍を手に持っているという生粋の騎兵。そして“殲滅し引き裂く剱”の前身となるギルド、“無礼奴”の創始メンバー最後の一人、それがベスという女性プレイヤーの肩書きである。
「たまたま遺跡の近くで見かけちゃって、ついついて来ちゃったわぁ」
『ついて来たって……そもそも今までどこにいたんだ? 先行体験版の時には噂すら聞こえてこなかったが――』
「あらあら、それはごめんなさいねぇ。だって私、正式版サービスになってからしかこっちに来ていなかったから分からなかったわぁ」
だとしたら昨日ようやくログインしたということか? というより正式版からでも引継ぎができたのか?
『もしや正式サービス開始からでもできたのか……?』
「あらあら、正式版から引き継いでいる人って殆どいないってシステマは言っていたから安心してねぇ」
一瞬ギルドへの呼び込みの方針を間違えたかと思ったが、ベス曰く後発の引継ぎ組が少ないことに胸をなで下ろす。
『そうか……それで、何でそもそも遺跡近くを歩いていたんだ?』
「うーん……気まぐれ?」
確かに彼女は前作から好き勝手にフラリといなくなっては敵の大将を暗殺してきて指揮系統を崩壊させたりと、何かと神出鬼没なイメージがある。しかしだからといってこの偶然は出来過ぎなレベルだが。
「まあまあ、そんなことより折角だしこのダンジョンの攻略を一緒にしましょう?」
『……それもそうだな』
昔の懐かしい話をしながら攻略を進めていくのも、一つの楽しみとしてはありなのかもしれないしな。
ある意味ではギルドで一番の問題児となる人の登場です。
ここまで楽しんでいただけたのであれば、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)