第一節 神託 3話目
『――ということがあった』
「それがしも見ていた。確かにあれは前作には無い光景だった。そもそも初代は神に祈るような人間では無かったからな」
文字通り、道は自分で切り開いていくタイプだったからな。そしてそれは世代を超えてあの第二王子にも伝わっているはず。
現地で様子を見ていた俺とグスタフさんは、別で動いているシロさんとの情報の共有のために、ラストの力を借りてレリアンへとその日のうちに【転送】で移動を済ませていた。そして今、アジト内の幹部だけが集う円卓にて、俺とラストを含んだ四人で情報の共有を行っている。
「他の幹部に下手に情報を流す必要はありませんね」
『下のプレイヤー達にも同様だ。これはあくまで憶測でしかないからな……グスタフさん』
「む?」
『他のプレイヤーはどんな反応をしてました?』
「他の者達か……」
確かグスタフさんは親睦を深めることもかねて、大勢であのパレードを見に行っていた筈。その中でもしオラクルのことを前作から知っている者がいたとしたら今すぐにでもここに呼び寄せたいところだが。
「いや、誰一人あんなものなど知らない、初めて見たといった様子だった。それがし達だけではない、他のギルドのグループもいくつか様子を見てきたが、皆一様にしてあの不気味な物体に底知れぬ不安を抱いていた」
となると、完全新規のイベントか何かだと思っていて間違いないか。
『そういえば、クラディウスの姿は見なかったな』
「彼なら刀王の土地の視察という名目でこのレリアンにいますよ」
『なら尚更都合が良いな』
適当な理由をでっち上げるなりで滞在期間を延長して貰った方が、何かが起こった時に動きやすいからな。
「……それよりも」
そう、実を言うとここからが本題になる。
「罪を償う……その時に彼女を探すような視線を感じた、と」
『ああ。幸い気配を感じ取られたくらいで、見つけられたとまではいっていない』
こうして話をするだけでも、ラストは怯えている。明らかに異常だ。
『大丈夫か? ラスト』
「え、ええ……これ以上主様にご迷惑は――」
『気にするな』
今から話すことは、いずれ必ず解決しておかなければ大きな問題となってのしかかってくることは間違いないからな。
「七つの大罪を脅かす存在ですか……戦術魔物の上位互換が追加されたということでしょうか」
『シロさんは直に見ていないから分からないかもしれないが、あれは味方になるようなタイプの代物じゃない』
「それがしも同意見だ。あれは生き物というより、無機物のようで……まるでシステマのようであった」
決してプレイヤー側とは相容れない存在。俺達はファーストコンタクトの段階でそれを直感で感じ取っていた。
「そしてもう一つの懸念……特定のトリガーで、こちら側に襲い掛かってくる可能性があるということでしょうか」
「っ!」
その言葉はラストに対する遠回しな言葉だった。
「しかもこちらは相手に対して、今のところ攻略法は見つかっていません」
「つまり、それは――」
グスタフの言葉を遮るように一瞬で円卓に黒刀を突き刺した俺は、苛立ちながら地声でこう言い放った。
「――二人ともこの場で俺と戦争がしたいってことか?」
よく分からない理由でラストを外すなど、到底有り得ない話だ。今まで彼女がいたからこそ乗り越えてこられた場面が多々あったというのに、こうして足を引っ張りそうになるなら前線から退いてお役御免とは、どれだけ都合の良い話だと俺は言いたい。
「……言っておくが、ラストをギルドから外すのなら俺も外れる。もし敵対するというのなら……この場で二人を相手にしても俺は構わないが」
脅しの意味も含んでいるが、当然やろうと思えばいくらでもこちら側は戦るつもりだ。だからこそ腰元の刀を抜刀して、こうして皆の考えを纏める筈の円卓に突き立てている。
「分かっていますとも。当然、外すつもりは毛頭ありません。グスタフさんはどういうつもりかは知りませんが」
「ちょっとシロ殿!? それがしも外すとはひと言もいっておらぬぞ!?」
「……フン」
まだ不満は残っているが、ひとまず二人にその意思がないと確認を取ったところで俺はドカッと乱暴に椅子に座りなおす。
「しかしだからといって、表立って動ける環境だという主張は通りませんよ。ボク自身も今考えているのは、ジェラスを一旦どこに匿っておくべきかということなのですから」
七つの大罪程ではないとはいえ、エンヴィーとは血縁関係にあるジェラスもこれから先狙われない保証はない。そのことも踏まえて、円卓に改めて挙げられた議題は、これらの戦術魔物をこれからどう運用していくかということだ。
「ギルドから外すのは論外にしても、しばらくは大人しくしていた方がいいかと。下手に標的にされてしまうと、初見殺しで抹消される可能性もありますので」
『じゃあどうすればいい? 今からの時期が本番だというのに』
これから先戦争に参加するにしても、戦術魔物がいるといないとでは戦略の幅に大きな差が出てくるぞ。
「確かに我々としてはあまり前線に出づらい状況になってきました。本当に、たった一手でこちらの手札を封じてくるようなイベントは勘弁してほしいものです」
七つの大罪という戦争に投入できる中で最強格の魔物をピンポイントで封じ込めるようなイベントなど、ある意味では運営の弱体化をもろに喰らったようなもの。
「チッ、イライラするな」
「珍しいですね、貴方が舌打ちするなんて」
ひとまずはシロさんも言っていたとおり、ラストやジェラスの身の安全の確保か、もしくはオラクルに対する対処法が確立されるまでは、二人を闇雲に同行させるわけにはいかない。
「申し訳ありません、主様……私が、不甲斐ないばかりに」
『だから気にするなと言ったはずだ。今はとにかく、下のメンバーにはいつも通り紛争地域に行って貰って信用度や勲功をたてて貰いつつ、俺達は独自であのオラクルについて情報収集をするとしよう』
しばらくは目立った行動ができないが、攻略法の確立はネットゲームでは重要だからな。
次回より少しだけ攻略法を見つける節になります。
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