第一節 神託 1話目
「すっげー! これがこの国の首都なんだ!」
「でも、ギルドのおじさん達が作っているレリアンの街の方が発展しているように思えるけど……」
『ここではレリアンの話は控えておけ、ウタ。あの街が特別なだけなんだ』
「ふーん……まあ、パパが言うならそうするけど」
公共の場でのパパ呼びも控えて貰えたらもっと嬉しいんだが……まあいいか。
深夜のアナウンス通り、首都ベヨシュタットにて一番大きな街道で、終戦を記念したパレードが開かれていた。
俺は街道の両脇にひしめく大勢の市民から一歩身を引くような形で裏路地の入り口の建物の壁によりかかりながら、ラストと少女三人はその近くで遠目からそのパレードの様子を眺めている。
そして今回はもう一人。
「こんなの、つまんない。みんな、外でいっぱい戦って、傷ついているのに」
相変わらずのぼろ切れを着こなす褐色の少女、チェイス=アボット。流石にここで鎖をガリガリと噛まれては悪目立ちしてしまうので、適当にその辺で買ってきたパンなりを食べさせてみているが……両手でバケットを持ったままかじりつく姿もこれはこれで目立ってしまうな……。
しかしながら彼女の言っていること自体は、全く間違ってなどいない。
「……裸の王様同然だな」
戦場には一切出たことが無いと一目で分かるような金属光沢。刃こぼれ一つも見当たらない華美な装飾の剣。そのいずれもが、現剣王が一切戦いに参加しないただのお飾りだということを示している。
「バカみたい」
『その通りかもしれないが、ここは口を慎んでおけ。誰が聞いているかも分からない』
「しかし本当にこの先もこの剣王に仕えるおつもりですか? 私としては以前の者ならまだしも、気迫の一つも感じぬ間抜けの下につくなど――」
『分かっている。だがここでそういう話をするな。こいつらも聞いている』
そう言って俺は少女三人の方へと首をクイッと向け、ラストに注意を促す。確かに二人のいうことも分かるが、その件についてはユズハ達の耳に下手に入れる必要は無い。
『今は黙って下準備をしていればいい。今は、な……』
状況が状況なのか、先程からひと言も喋ることなくオロオロとしてばかりのアリサの頭を撫でながら、そのパレードを最後まで見送る。
「あ、二代目……」
「あのアホ女……!」
パレードには二代目刀王であるティスタも馬に跨がって首都を一緒に練り歩いているようで、表向きとしてはまだ剣王の護衛を担えている。
『あの調子だとまだ信用は続いているようだな。ガレリアを領地として貰う話をした時は渋られたが、それも単にティスタの生涯一度のわがままだと受け入れて貰えたのはデカいな』
そんなティスタであるが、俺の姿を見つけるなりニコニコとした表情で手を振っている――ってバレるから止めろ! 反対側向いてろ!!
『今すぐにでも誰かあのアホ女を止めてこい』
「ですからさっきからアホですと」
「二代目、アホ……」
民衆が自分の方へと手を振ってくれたと勘違いしてくれたから良いものの……ひとまず二代目は放っておくとして、このパレードの裏で正式版サービスが開始されたことについて、俺はギルドが行っているであろう活動について頭の中で内容を纏めることにした。
結論からすれば、俺達のギルドは正式版サービスから来るであろう新人に関して、一切行動を起こしていない。
どうせすぐに運営よるログアウト不可能という状況でパニックに陥るだろうし、それを見越して説明をしようにも同じく納得など得られるはずもない。それよりも二週間程間を置いてから、ある程度状況を理解できるような人間を選別した方が、後々の面倒ごとも控えることができると推測ができるからだ。
これはシロさんと俺、そしてグスタフさんで取り纏めた方針で、既に他のメンバーにも伝えてある。NPCの連中には言ったところで理解もできないだろうからそのままにしているが、特に問題は無いだろう。そう簡単に他者を誘うような連中でもないだろうし。
「……これ以上見ていても無駄だな」
シロさんはこういった祭りは嫌いなようで、その時間を使ってレベル上げをしたいという超効率型のタイプの人だ。グスタフさんはというと、これを機に他のプレイヤーとも親交を深めたいと、別の場所でパレードを見ている様子。
そして俺はというと、偵察という形でパレードを見に来ただけで、特にこういったこと自体には興味が湧かない。しかしまあ、ユズハ達は物珍しいのかじっと見ているようなので、彼女達が飽き次第適当にここでのセール品を見て回ってから帰るとしよう。
「……あれ? 空が明るい?」
「ん……?」
昼間だから別に空が明るいことは問題ないのではないか――って、明らかにおかしい。
例えるとすれば、もう一つ太陽があるかのよう。ベヨシュタットの空に、まばゆく輝く光がもう一つ現れる。
「――ッ! 主様、早く帰りましょう!!」
そしてその光を見るなり、ラストは何かに怯えるようにして俺の後ろへと隠れ、早くこの場を離れたいとごね始める。
『一体どうしたんだラスト? いきなり――』
「分かりません、ですがどうしてか私は、あの光が怖いのです!」
明らかに年齢よりも幼く怯える姿に異常を感じた俺は、ラストの姿を光から隠すようにしっかりと抱き寄せて路地裏まで避難し、表通りの様子をうかがう。ユズハ達三人もラストの怯える姿に危険を感じたのか、同じく俺の後ろへと隠れて様子を見ている。
「何だあれは!? 魔法か!?」
「まさか、神様……?」
ポツリと呟いたのは、反対側の壁で様子をうかがっていたチェイスだった。
「神様だと!? どういうことだ!?」
前作にはこういったイベントなんて無かったはずだぞ!?
「おお、“オラクル”だ! オラクルが姿を現わしたぞ!」
オラクル――その名を何度も呼んでいるのは、この場においてただ一人。
「剣王……お前は一体何を呼んだんだ……!?」
光はやがて姿を変え、異形の姿へと形を変えていく。
人間に似ているようで、非なるもの――その姿は生命体というよりは、機械の人形のように思える。一対の細長い剣を側に侍らせ、ぽっかりと空いた身体の中心に先程のまばゆい光を浮かばせている。
「神様の使い……」
「神の使いだと? チェイス! あれが神の使いだと!?」
俺達のいう運営という名の神とは全く違う、この世界における神――
「――神託ヲ、サズケマショウ」
オラクルと呼ばれるそれは、ベヨシュタット上空にまばゆい輝きを放ちながら、今まさに降臨しようとしていた――
怪しい物体登場です。
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