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プロローグ 反逆への秒読み

『――遂にこの日が来たか』

「深夜零時きっかり。この世界における百年前の戦争が終わった日が、そのまま新たな火蓋を切る日になるとは、皮肉を効かせているつもりでしょうか」


 時刻は既に深夜の十一時を回っており、後五分もすれば零時を過ぎて、この世界における終戦日へと日付が切り替わる。身につけているアンティークの懐中時計を手にしたシロさんが、現在時刻を確認しながら改めて周囲を見回すと、辺りには大勢の“プレイヤー”がひしめき合っている。

 全てのプレイヤーに送信されたメッセージ――正式版サービスの前日深夜に、各国の国王がいる建物へと集合せよという、至ってシンプルな知らせが届けられていた。

 当然ラストは無理矢理にでもついてこようとしていたが、俺は子ども達三人の御守を任せるような形で今回は家で待機して貰っている。

 ――何故ならこの知らせを飛ばしてきたのが運営であり、この集まりに戦術魔物(TM)等のNPCを連れてこないようにと注意書きがしっかりとされていたからだ。


『向こうはルールに忠実、破れば何が起こるか分からないからな』

「ボクもジェラスをレリアンに置いてきました。相変わらず首輪はつけっぱなしにしていますが」


 そして俺達は今、ギルドのプレイヤー全員を引き連れて、国王の住まう城の中庭で時間つぶしをしている。国王側もどうしてか今日に限って普段閉ざしている門を開放しているようで、特に手続きをすることもなくすんなりと中まで入ることができた。


「ここに呼ばれているのは全員プレイヤーと言う訳か、クロウ殿」

「まっ、そういうことだな。正直、一号を置いてきているから襲われたらひとたまりもないだろうな」

「その為にそれがしのような戦える者で周りを固めている。安心なされよ」


 グスタフさんもクロウも辺りを見回し、そして警戒を怠ることなく睨みをきかせている。

 それもそのはずでこの中に一人でもヤバいヤツが紛れ込んでいた場合、俺やシロさん、グスタフさんは問題ないとしても残りのメンツに被害が行かないとも限らない。特にクロウのようなベヨシュタットでは中々雇えない技術者エンジニア人間プレイヤーは、本人は紙耐久の上に職業として換えも効かない。

 だからこそクロウ含めて一部の人間はこちらのギルドの人混みの奥へと追いやって、更に近くに護衛もつけているわけだが。


「実際の正式サービスの時間は明日の昼十二時。ですが、どうして十二時間前に我々だけが集められたのでしょうね」

『さあな。いずれにしても、警戒をするに超したことは無い』


 プレイヤーしかり、そして――


「やあやあやあ! ユー達よくぞ集まって来てくれたね!」

「ッ!」


 ――運営しかり、だ。


『でやがったか』

「相変わらず胡散臭い営業スマイルを浮かべますね」


 それ人のことを言えるんですかねシロさん……。

 それはさておき、運営の化身である薄気味悪い少年が中庭の中空に姿を現わし、俺達を見下すようにして全員を眺めている。

 そしてマイクを使っていないにも関わらず、どこか達成感もあるような元気の良い声が俺達の耳に直接響き渡る。


「ユー達に集まって貰ったのは他でもない! 十二時間後に控えた正式サービス前に、色々とアナウンスをしておきたくて集まって貰ったんだ!」


 アナウンス、ということは何かしらルールが追加されるなりアップデートでもされる事柄でもあるというのか。

 腕を組んだまま睨むようにして俺はフードの奥からシステマの方を見つめていると、その横顔が笑顔から一変して呆れたような表情へと変わっていくのを目にする。


「っと、その前に……事前に忠告しておいた筈なんだけどなー」


 そう言ってシステマが指をパチンと鳴らすと、中庭の人混みの中からまるで無作為のように人間や魔物の姿を中空へと浮かび上がらせる。


「ミーは事前に注意書きを書いてたはずだよね? NPCや戦術魔物をこの場に連れてくるなって」


 当然ながら年端もいかない少年に魔法とも思えない力で浮かび上がらせられたNPCや魔物は混乱に陥り、その場で喚き散らしている。

 そんな中システマは浮かび上がる者に対して手をかざすと、いつもの笑顔とは違う邪悪な笑みを浮かべ始める。


「うわ、うわわっ!? 一体どうなってやがるんだ!? おい! みんな!?」

「グギャッ! ギャアオオオオゥ!」

「これは……いけませんね」


 シロさんは今から起こる出来事を察してか、目を伏せて黙祷するかのように静かに頭を垂れる。


「…………」


 そして俺もこれから起こること全てを理解し、静かにフードのつばを握って深く被り直す。


「……抹消デスペナルティ


 システマが手をぎゅっと握った瞬間――その場に相応しくないもの全てが消し飛ばされ、そしてそれがまるで祝福だといわんばかりに、システマは消滅したデータの破片を紙吹雪のように俺達プレイヤーの頭上へと散らしている。


「う、うわぁあああああああああああああああああああああああああ!? 相棒が、相棒がぁああああああああああああああ!!」

「お、俺の戦術魔物(TM)が!! 畜生、どうして!?」

「これだからメッセージをちゃんと読まない人は困るんだよね」


 ――そうだ。こいつはある意味ではこの世界ゲームで最も約束ルールに厳密で、最もNPCとしてふさわしく機械的システマチックで、この世界ゲームで最も無感情(AI)に近い存在。


『……一歩間違えれば、こうなっていたということか』

「ジェラスを置いてきて正解でした」

「俺も、一号があんな風になったら立ち直れる自信ねぇわ……」


 事柄においては慎重に動くシロさんの提案通り、念押しとしてギルド内のメッセージで全員に再認識させておいて正解だった。その証拠として、ギルド側の内から消された魔物やNPCは一つも存在していない。


「さて、開幕派手にやっちゃったけど、改めてまずはユー達にオメデトウを言いに来たんだ!!」

この状況で明るくなれる訳ないだろ……。

「まずはここにいるプレイヤーは全員、一ヶ月の間無事に抹消デリートされることなく生存ができた皆さんです! コングラチュレーション!!」


 パチパチパチと乾いた拍手が一つだけ響き渡り、そしてしばらくして再び夜の静寂が辺りを包み込む。


「……あれー? ユー達表情が暗くなーい? もっと喜ぼうよ! またこの世界ゲームで、沢山遊ぶことができるんだから!!」


 これに関してはプレイヤーの反応は多種多様だった。システマが以前に言っていた、現実世界はクソ食らえと思っているようなプレイヤーは喜んでいるようだが、現実に家族を抱えている者などはこれから先どうなるのか、と頭を抱えている様子。

 俺はというと……言わずもがな。


「二回目ともなると、人間案外慣れるものです」

「それがしは……ちょっとばかり後悔している。この歳にもなると、社内に部下も大勢抱えているし――」

『その部下がこっちに来ていたら中々面白いと思いますよ』

「むぅ! そう言われてみればそうだな!」


 冗談半分のつもりが本気で受け取られてしまい、俺もその後は苦笑いでお茶を濁すしかない。


「そして、いよいよ! 正式サービス開始に至って、ユー達にお願いがあるんだ!」


 この期に及んでお願い事とは、さっきの有様を見せつけられた後では単なる脅迫にしか聞こえないのだが。


「新規プレイヤーには優しくしてね! 間違っても詐欺行為とかしちゃ駄目だよ! あっ、装備の受け渡しは全然オッケーだから、ユー達のお古をあげてすぐに鍛えてあげるのもアリかな!?」


 呑気なことを言っているが、それでやることは互いの全てを賭けた戦争なのだから笑えない。


「さてさて、この中で何人が記憶を保ったまま最後まで生き残ることができるのかな!? っというより、そもそもクリアなんてさせるつもりはさらさらないけど!」

『そう言って以前もクリアしたのがこのメンツだろうが』


 恐らくはその場の全員が言いたかったであろうひと言を、俺は敢えて言ってのける。


「バッ、止めておけ! 下手に刺激するな!」


 クロウが焦って止めようとするが、心配する必要は無い。こいつはあくまで、ルールに則って俺達を試しているだけに過ぎない。


「まあ、確かにそれはそうだね! でもこっちだって十年かけて開発した新たな世界ゲームを長く楽しんで貰いたいから、手加減くらいはして欲しいかな!」


 手加減でもしようものなら一気に呑み込まれるような難易度を仕込んでいるくせに、よく言えたものだ。


「じゃ、ミーからのお願いはそれだけ! 後はお昼の正式サービス開始、各国首都では盛大に終戦記念日を祝う予定になっているから、後はユー達が、新規プレイヤーとともに新たな歴史を作っていくんだ!」


 大層なことを言っているが、要はいつもと同じだ。

 美しき戦火を。苛烈な闘争を。残酷なる戦争を。


「――さあ、終わりなき戦いを楽しもうじゃないか」


 “世界への反逆(リベリオンワールド)”正式サービス開始まで、後十一時間四十四分――

 遂に正式版サービス開始の日がやって参りました。(・ω・´)


 ここまで楽しんでいただけたのであれば、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)



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